アパートの俺の部屋の入り口近くにエアコンの室外機がある。いつの頃からか、そこに鳩が入り込み、明け方になるとくうくう鳴くのだった。
先日、エアコンの修理を頼んだとき、業者が「この前、上の留守階のベランダに行ったら、鳩が巣を作っていて、始末するのが大変だった。」という話をしていた。それで俺も気にはしていた。
朝、出かけるときに、鳩がこっちを見ている。その顔を見るたびにイライラした。鳩は鳥類なので、飛ばなくてはならない。余計な重りを体内にキープすることになる肛門括約筋なんてものはないから、糞をしたいときが出てしまう時だ。そのうちに巣でも作られたら糞だらけになってしまう。「どっか飛んでけよ。コラ。」俺が声をかけると鳩は慌てて逃げていく。そんな日々が何日か続いた。
ある朝、俺が出かけようとしたら、鳩が俺をじっと見つめている。俺の部屋は12階にあって、廊下は手すりだけの部分がある。その手前で、鳩はじっと俺を見つめていた。
「どっか行けよ。」飛んでいこうとしなかったので、ちょっと勢い付けて踏み出したら、鳩は慌てて手すりに激突しながら、落ちるように飛び出していった。
手すりにぶつかったとき、思ったより大きな音がした。ぶつかった原因を作ったのは俺なのだが、「骨折とかしていないよな。」と少し不安になった。
家に帰ってきたら、廊下に鳩がいた。骨折はしなかったらしい。頭にきたけれど、どこかほっとした。
翌朝、相変わらず鳩は廊下にいた。こっちを見ているので、「どっか飛んでけよ。コラ。」と声をかけると、慌てて飛び出していった。飛んで行ったあと、巣を作っていないか確認しようと、鳩がいた場所に近づいて行ったら、もう1羽の鳩が飛び出していった。そして、飛び立った後、コロンと室外機の前に卵が1つ落ちていた。
どうも室外機の後ろに巣を作り、そこで卵を温めていたらしい。俺におびえて飛び出した時、巣から卵が一つ転がり出たのだろう。
その卵を見たとき、なんというか、もう俺はすべてが許せる気がした。もう好きにしていいよ。と思った。勘当した娘が子供を連れて帰ってきたら、こんな気持ちになるのだろうか?好きなだけ汚せばいいよ。もう俺は知らん。そんな気分だった。
その日、家に帰ってきたとき、あの卵はどうなっているのだろうと思った。自分の巣まで、再び運び入れたのだろうか。それとも、日光の下に転がったまま放置されているのだろうか。
エレベーターを降りたときには、もう鳩に気を使っていた。もう邪魔はしないから好きに暮らせばいいと思っていた。
そして、部屋に近づくと、転がっていた卵はなかった。「親鳥が、卵を巣に戻したのか。」と少しほっとした気持ちで思った。しかし、鳩の気配もなかった。どうもアパートの掃除の人がすべてをきれいに掃除してしまったようだった。
鳩が、可哀そうだった。一生懸命、育てようとしたのに。親鳥は悲しいだろうなあ、と思った。毎朝、鳩を見るたびイライラして、それをすべて許す気になった途端、いなくなってしまった。俺は自分の感情を持て余した。うれしいという気持ちも悲しいという気持ちもあった。俺に見つかって慌てなければ、卵が転げ出ることもなく、掃除の人からも隠しきれたのかもしれなかった。かわいそうなことをしたとも思った。その一方で、なるようになったんだという気もした。自分が優しいのか残酷なのかよくわからなかった。
翌朝からは、もうくうくうという鳩の鳴き声は聞こえなくなった。廊下に出ても、鳩はいない。それもまた、うれしいのか、悲しいのか、さびしいのか、自分のことながらよくわからなかった。
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それからしばらくの時間が経った。俺は室外機を見ることもなく過ごした。そしてある日、アパートに帰ってきたとき、室外機の方を見たら、影から首だけ出して、こっちを見ていた鳩がいた。
「よお。久しぶりじゃんかよお。」近づいて行ったら、飛び立った。なおも近づいて行ったら、悲鳴らしきものを上げながら、もう1羽の鳩が飛び出していった。なんてこった。室外機の後ろにまた本当に住み着いていやがった。
そして翌朝から、またくうくう鳴きだした。俺が紳士だとわかったらしかった。室外機の後ろが汚れるなあ。ひなが飛び立ったら、バケツで水をぶっかけて、徹底的に掃除してやろうと思った。
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それからまた数日が経った。アパートに帰ってきたら、全く鳩の気配がなかった。また掃除をされてしまったようだった。それでも、また鳩が飛び出してくるような気がしていた。少し緊張しながら、室外機のそばまで行った。でも、何も起きなかった。それで、俺は、室外機の下からのぞき込もうとした。その瞬間、鳩が飛び出してきた。
驚いたけれど「まあ。いいや。どうだって。」と思った。
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ようやく、大学の授業科目の1つが終わった。1つの科目を終わらせるのに必要なレポート数が12。3週間で終わらせるつもりが、まるまる1月かかってしまった。でもまあ、おかげで、エアコンの構造やら、どんな冷暖房が理想なのかとか、エネファームのこととか学んだ。
大学時代の自分で作ったノートなんか見る価値もないが、今回作ったレポートは、将来でも見直す価値がある。デンマークでは、余計に作ってしまった電気は、玄武岩の敷き詰めたタンクに送って600度に加熱。電気が足りなくなったときには、今度はその熱から電気を作り出す、なんてことをしているらしい。いろいろと勉強になった。
それにしても、学習が遅れている。困ったものだ。
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今週は木曜日に飲みに行き、焼き肉をして、スナックに飲みに行って、それからもう1軒行って最後は記憶がない。
そして、金曜日は重い二日酔いで、仕事が大変だった。毎回のことだが、反省したい。
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弘兼憲史の「社長 島耕作」(モーニングコミックス)を全16巻読み終わった。

初芝は2年連続で大赤字。自分が社長のうちに、会計処理を前倒しにしておくって姿勢は評価するけど、全体として、株主でなくても、社長は何をしていたんだと文句を言いたくなる。
結局、社長就任時に世界に向かって発信した「シンク・グローバル!」は「これからは、国際化です!」と宣言した程度の意味しかなかった。さすがは掛け声好きの昭和時代のリーダーだ。
彼が社長就任時に言うべきだったのは「シンク・グローバル!」のような何をするのかわからない、曖昧な言葉ではなく「これからは、初芝は利益の半分を海外で稼ぐ企業にします!そのためには、英語か中国語ができない役員はいりません。社員も語学に真剣に取り組んでください。査定の対象にします。もう海外の企業にキャッチアップされることを恐れる段階ではありません。私たちが海外の企業をキャッチアップしなければならないのです。危機感を持ってください。」ということではなかっただろうか?
島耕作も、初芝の取締役の連中も、深刻な顔をして偉そうに講釈を垂れる割には、能天気すぎる。社長は会社でいちばん忙しいと言いつつ、酒は飲み、ゴルフ三昧で、仕事中も半分は愛人や女のことばかり考えている。特に女関係については最低の文化を持った会社だ。
そして、約束を守らないことを知っているのに「契約書にしっかり書けば大丈夫。」と矛盾したことをいい、中国には技術を漏らし続ける。国内外ではリストラを断行。電機メーカーの社長なのに「私は文系なので。」と科学技術に興味を持たないなんてあり得ないだろう。
はっきり言ってワインと女の扱い方ばかり「異常に」詳しい社長なんか電機メーカーにいらん。こんな社長の元でリストラされた社員がかわいそうでならない。
読み終わって、島耕作は、プレゼン態度は立派だし、運も無茶苦茶いいし、語学が堪能なのもすごいし、清濁併せのめるし、結論もまっとう。鼻も利く。だけれど、ただこの時代のリーダーになるべき器の人じゃなかった。彼は優秀なサラリーマンで、経営者になるべき人ではない。初芝は不幸な選択をした。というか、この会社はリーダーを選ぶ能力が欠けている。