カナダのモントリオールに行ったことがある。
昔読んだフレデリック・フォーサイスのスパイ小説では、モントリオールはスパイの最前線基地だということになっていたのだが、ソ連がなくなってしまったからだろうか?
実際にはどこか寂れた感じのする普通の地方都市だった。
モントリオールで日曜日の昼にホテルのベッドで横になって日本から持ち込んだ小説を読んで時間をつぶしていた。
ロビーに行くと、オートミールやらビスケットやらをただで食べることができる。
ベッドメイキングの間はロビーにいて、また、部屋に戻って本の続きを読んだ。
夜になるとイギリス人のディーンが呼びに来る。
「食事に行こう。ところで今日は何やっていたんだよ?」
「本を読んでた。」
「ホテルで?一日中?意味ないじゃん。( It’s No Point! )僕は、今日1日で市内を50キロサイクリングした。」
ディーンはちょっと自慢気に話すと、それからもずっと僕に「信じられないな。意味ないじゃん。(Unbelievable! It’s No Point ! )」と繰り返していた。
そのとき以来、休みの一日に、ゲームをしたり小説を読んだりして一日を過ごすと、ディーンの「 It’s No Point ! 」という叫び声が聞こえるような気がして、なんだか罪悪感に襲われてしまう。
実は土曜日は朝から諏訪湖に行き、流れ着いた葦を堤防まで引き上げる作業をしていた。
とんでもない2日酔いで、普段の3分の1くらいの体力しか出せなかった。
書くべきことはあるんだけど、未だに書く意欲が湧かない。
金曜日の飲み会の記憶も飛び飛びで恐ろしく曖昧なままなので、そこら辺りを探るのも腰が引けてしまう。
そんなわけで土曜日は作業をして、日曜日は、小説を読んだり、パスタを茹でたりワイシャツにアイロンをかけたりして過ごした。
今読んでいるのは Louis Sachar の以前読んだ本の続きで「 WAYSIDE SCHOOL is Falling Down 」。面白いのでまた一部を取り出して、訳してみたいと思う。
ジュール先生宛ての小包
校庭の先生であるルイスはしかめっ面をしていた。
校庭はひどいものだった。鉛筆や紙切れがあちこちに散らばっていた。どこから、このゴミがここまでやってくるんだ?彼は不思議に思った。いずれにしろ、俺は拾わないからな!
ゴミを拾い上げるのは彼の仕事ではなかった。彼の仕事は昼と休憩時間に子供たちにボールを手渡してやることと、子供たちが互いに殺し合わないようにすることだけのはずだった。
彼はため息をつくとゴミを拾い始めた。彼はウェイサイド・スクールの子供たちが大好きだった。彼は、汚れた校庭で子供たちを遊ばせたくなかった。
彼が鉛筆と紙を拾い上げていると、大きなトラックが駐車場に入ってきた。トラックは警笛を2回鳴らし、それからさらに2回鳴らした。
ルイスはトラックへ走っていき「静かにしろ!」と囁いた。「子供たちがここで勉強しているんだぞ!」彼は学校を指さした。
背の低い、大きなもじゃもじゃの髪の男がトラックから降りてきた。「女性のジュールって先生に小包を預かってきたんだ。」と彼は言った。
「俺が預かっておくよ。」
「あんたが、女性のジュール先生なのかい?」
「そうじゃない。」
「俺は、女性のジュール先生にこれを渡さないといけないんだ。」トラックから降りてきた男は言った。
そこでルイスは少し考えた。彼はこの男に子供たちの邪魔をさせたくなかった。ルイスは子供たちが勉強中に邪魔をされることをどれだけ嫌っているのかを知っていた。
「俺が、女性のジュール先生だ。」彼は言った。
「でもさっき、俺は女性のジュール先生じゃないって言ったよな?」
「気が変わったんだ。」
男はトラックの後ろから小包を取り出すと、ルイスに手渡した。「はいよ。女性のジュール先生。」
「うう!」ルイスはうめいた。それはとても重い小包だった。「こわれもの」という標示があらゆる面に貼り付けてあった。彼は気をつけて運ばなければならなかったし、落としてもいけなかった。
その小包はとても大きく、ルイスは自分がどこに向かっているのか見ることができなかった。幸運にも、彼はジュール先生の教室に行く道を知っていた。まっすぐ行けばいいのだった。
ウェイサイド・スクールは30階建てで、1階ごとに1教室しかなかった。ジュール先生の教室は最上階だった。それはルイスのお気に入りのクラスだった。
彼は学校へ入るドアを押して中に入り、階段を上り始めた。この学校にはエレベーターがなかった。
地下に行く階段もあった。しかし、まだ誰もそこに行ったことがなかった。そこでは死んだネズミたちが住んでいるのだ。
小包の箱がルイスの顔に押しつけられて、鼻がぺしゃんこになった、ちょうど15階にたどり着いたとき、マッシュ先生がカフェテリアで料理をしている匂いがした。彼女はマッシュルーム料理を作っているようだった。帰る途中で、マッシュ先生の部屋(マッシュ・ルーム!)に立ち寄って、マッシュルームをいくつかもらっていこう、と彼は考えた。彼はマッシュ先生のマッシュルーム料理を取り逃したくなかった。彼女の得意料理なのだ。
彼は息を切らし、うめきながら階段を登り続けた。彼の腕と足はとても痛んだけれど、休もうとはしなかった。この小包は重要なものに違いない、と彼は思った。これをすぐにジュール先生に届けなければならない。
18階から20階は簡単に登ることができた。19階はないからだ。
ザーヴァス先生が19階で教えている。でも、ザーヴァス先生もいないのだ。
ついに、ルイスは30階の最後の段にたどり着いた。彼は、ジュール先生の部屋のドアを頭でノックした。
ノックを聞いたとき、ジュール先生は「重力」について子供たちに教えている最中だった。「どうぞ。」と彼女は言った。
「ドアが開けられないんだ。」ルイスは喘ぎ声を出した。「両手がふさがっている。あなた宛の小包を持っているんだ。」
ジュール先生は教室を見渡した。「誰かルイスのためにドアを開けてあげたい人?」彼女は聞いた。
子供たちは全員手を挙げた。彼らは授業中に邪魔をされるのが大好きなのだ。
「まあ、誰を選んだらいいのかしら?」ジュール先生は聞いた。それから「公正にしないといけないわ。もちろん!これから綴り方競争をします。優勝者がドアを開けてもいいことにします。」
ルイスは再び、ドアを頭でノックした。「重いんだ。それにとても疲れた。」彼は言った。
「ちょっと待ってて。」ジュール先生は授業に戻った。「アリソン、あなたが最初よ。重いって書ける?」
「重い。H-E-A-V-Yです。」アリソンは答えた。
「とても素晴らしいわ。ジェイソン、あなたは次よ。疲れたって書ける?」
「疲れた。S-L-E-E-P-Y です。」
ルイスは汗をかいた指から、小包が滑り落ちるのを感じた。彼はよりしっかり握れるように体重を移した。小包の箱の角が、ルイスの腕に食い込んだ。彼は手がしびれていくのを感じた。
実際には、彼はしびれるという感覚すら失っていた。
「ジェニー、小包は?」
「小包。B-O-X です。」
「素晴らしいわ。」ジュール先生は言った。
ルイスは気を失いそうだった。
ついにジョンがドアを開けた。「ルイス!僕が綴り方競争で優勝したんだよ!。」彼は言った。
「よくやったよ。ジョン。」ルイスはつぶやいた。
「握手してくれないの?」ジョンが聞いた。
ルイスは箱を片腕に移すと素早くジョンと握手をして、それから箱を握り直して、ふらつきながら教室に入った。
「どこに置いたらいいですか。ジュール先生?」
「知らないわ。何の小包なの?」ジュール先生は言った。
「知りません。」ルイスは言った。「あなたが箱を開けられるように、どこかに置かなくては。」
「でも、中身がわかるまでは、あなたにどこに置くべきかなんて言えないわ。間違った場所に置いてしまうかもしれないでしょ。」とジュール先生は言った。
それでルイスはジュール先生が彼の隣でイスの上に立って上のフタを破るまで、小包を持っていた。彼の足はブルブルと震えていた。
「コンピューターよ。」ジュール先生は叫んだ。
子供たちは皆、ブーイングをした。
「どうして?みんなコンピューターが好きだと思っていた。」ルイスは言った。
「そんなの欲しくないよ、ルイス。」エリック・ベーコンが言った。
「返しちゃってよ。」テランスが言った。
「そんなクズ、ここから出してよ。」モーレシアが言った。
「そんなことしちゃダメよ。」ジュール先生が言った。「コンピューターは学ぶことを助けてくれるわ。それも紙や鉛筆よりもずっと早くね。」
「でも、早く学べるようになったら、もっとやることが増えるでしょ。」トッドが言った。
「ルイス、向こうのカウンターの上にコンピューターをセットしていいわ。」ジュール先生が言った。
ルイスはコンピューターをシャーリーの机の隣のカウンターにセットした。それから、床に崩れ落ちた。
「さあ、みんなもっと近くによって、ご覧なさい。」ジュール先生は言った。
教室の子供たちが全員新しいコンピューターの周りに集まった。コンピューターはフルカラーの画面と2つのディスク・ドライブを搭載していた。
ジュール先生は、そのコンピューターを窓の外へ押し出した。
全員が、コンピューターが落ちていき、歩道にぶつかって粉々に砕け散るのを見た。
「見たでしょ。」ジュール先生が言った。「あれが重力よ。」
「うん。わかった。」ジョーが言った。
「ありがとう。ルイス。」ジュール先生は言った。「私は午前中ずっと重力について教えようとしていたの。私達は、鉛筆や紙を使っていたんだけど、でも、コンピューターの方がずっと早いわ。」