![1日だけ変身できるとしたら、誰になりたい?](https://stat.ameba.jp/common_style/img/home_common/home/ameba/allskin/ico_kuchikomi2.gif)
「一日だけ何かに変身出来るとしたら何が良いかな」
「あら、何かしら、突然、気持ち悪いわね。あなたはまず何かに変わる前にちゃんと自分自身の存在をしっかりと確立するのが先決じゃないかしら。今の時点でどこにいるのかもほとんど分からないのに、更に変身してしまったらもう誰の目にも全く映らなくなってしまうわよ」
「ううっ、そこまで言わなくても……僕ってそんなに存在感が無いのかな……」
「さぁ、どうかしらね。少なくとも私がいなければあなたはもうこの世にいないのと同じじゃないかしら。自分という存在は自分だけがどれだけアピールしてもいるのかいないのか不明なのよ。他の人に認識してもらって初めてそこに存在している事が認められるわ。私がいて良かったわね」
「何だか酷い言われようだな……お前以外の人はもう僕の姿が見えないのか……?」
「しつこいわね。しつこくすれば相手に存在を認めてもらえると思ったら大間違いよ。例え認識されたとしてもそれは嫌われているだけで、結局その後の交流は一切無くなってしまうでしょうね。例えば毎日毎日特徴のあるクドイ挨拶を繰り返しているばかりか、相手にまでその挨拶を強要していた人がいるのよ。誰もが嫌々ながらも付き合っていたものの、彼はいつしか飽きてしまってその挨拶を辞めてしまうわ。ところが周囲はいつの間にかその妙な挨拶が習慣になってしまっていて、誰が流行らせたのかなんてすっかり忘れているのにも関わらず、挨拶だけはその後も彼以外の人達の間で続いてしまったようなものよ」
「何か例えが微妙に違うような気がするけど……まぁもうとにかく僕の存在感の話は置いといて、何かに一日変身できるとしたら何が良いかな」
「さぁ、どうかしらね。私の事よりもあなたはどうなのかしら?」
「僕?うーん、そうだなぁ。一日だけだったら結構色々やってみたいかもしれないな」
「まぁ、一日だけだったら誰かと何だか妙ないかがわしい関係になっても構わないという価値観の持ち主なのね。こういう何気ない会話の中に本心が見え隠れするものだと思うけれど、ここまで隠さずに言うという事はまだ私が気付いていない重大な何かを伝えようとしているのね。私に近寄らないでちょうだい」
「ちょ、ちょっと待った!考え過ぎだぞ!そもそも僕はお前にしか見えないんだし、僕だってお前にしか興味がないぞ!」
「あらそう。存在感が無い事を嘆いたり、自ら認めたり、コロコロ価値観が変わってずいぶんと忙しいわね。言葉を自分の都合に合わせて捻じ曲げて、振られた後も【僕の気を引こうとして冷たい態度をしているだけだ】などと言いながら付きまとうストーカーか何かに変身したいのかしら?そう簡単にストーカーになれると思ったら大間違いよ。まずどの程度の個人情報を知りたいのか、相手は自分の存在を知っているのか、どれくらい警戒心を持って生活している人なのか、そういう細かい要素によって難易度にかなり差があって……」
「いや、僕はストーカーになんてならないぞ。って、妙に詳しそうなのが気になるけど……」
「うるさいわね。冗談よ。私は一人の情報が分かれば充分だもの。他の人の難易度なんて興味は無いわ」
「全然冗談になってないぞ!全く……とにかく僕が一日変身出来るとしたら、全然人間じゃないものを体験してみたいな。例えば花とかがどんな気持ちで生活してるのか知りたいかも」
「引っぱたくわよ」
「何でだよ!別に怒られるような事は言ってないぞ!」
「うるさいわね。あなたが花なら私はトゲのある花とでも言いたいのかしら?それどころか私はトゲそのものかもしれないわね。真っ黒で触れただけで死んでしまうような猛毒を持った女で悪かったわね」
「いきなり何を言ってるんだ!僕はそんな事全然思ってないぞ!全く。えーと、他には人間どころか生き物と違うものも面白いかもしれないな。例えば本棚とか」
「あらそう。という事は私はタンスかしら?それとも本かもしれないわね。全ページ真っ黒で全く役に立たないのに捨てたら呪われそうな魔術書みたいな女で悪かったわね」
「だから僕は何も言ってないって!それにお前まで僕と同じようなものにならなくて良いんだぞ!」
「うるさいわね。私はあなたと今のままの関係でいられるものにしか変身しないわよ」
「え、それって……だから僕に合わせてトゲとか本とか言ってたのか……そこまで想ってくれてるなんて感激だ」
「……何を感激しているのか分からないけれど、攻撃する側とされる側の関係よ。今すぐ引っぱたくから早くこっちに来てちょうだい」
「全く素直じゃない!」
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