身から出た素描 -35ページ目

⑥金曜日

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日曜日に自分の生が終わる、ということにしている男は、週末の中に埋もれていた。

何かをやり遂げてもいない1週間。生の充実も全くなく、自分の無力感ばかりが感じられた。

今日と明日しかない。何をしたらいい?

自分が関わってきた人たちには会った。なんとなく行きたいと思っていた富士山も間近で見ることができた。自分には文章を書くことができないと気付かされたが、この企画のこともノートに記した。

よく晴れた日だ。
布団から出れずにぼんやりしていた。
特に行きたいところも、やりたいことも思い浮かばない。自発性がないことにも気付かされた。

仕事を辞めたことには後悔はないが、次にやりたい仕事がないのは困りものだ。

どこで間違えたのかなぁ、もっとちゃんとした人間だと思っていたけれど。

生きていくことはできるが面白味はない。自分には死ぬ勇気はあるのだろうか。

男はもそもそと布団を出た。
ゆっくり風呂に入り、きれいな服を着た。支度が整う頃にはもう夕方になっていた。

「トんでみよう」

男は電車に乗って目当てのビルに向かった。

⑤木曜日

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何もやり遂げていない、充実感もない、中途半端な4日間を過ごしている男は、この企画を終わらせようと考えはじめている。

もう一度よく考えて、気持ちがまとまったらまた「最後の1週間」を行えばいい。


東京に戻ってきたのは夕方前。何人かの友人と一時間ずつお茶をする約束をした。
一人一人と話がしたかったことと、忙しく過ごしたいと考えたからである。

しかし、久しぶりに会う友人たちは、今の自分の環境の愚痴しか話をしなかった。

夜中、もう寝てしまいたい気持ちを一生懸命奮い起こして日記を書くことにした。
おろしたノート一冊を、残りの二日間ですべてうめつくそうと考えた。

この企画をはじめた理由、したこと、そして今までの人生について書いた。一休みのつもりが、寝てしまっていた。友人と話しながら、コーヒーカップの位置を気にする夢を見た。
気が付いたら遅い朝で、ノートは2ページだけびっしり埋まっていた。そのノートにそれ以上何も書ける気がしなかった。

④水曜日

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大きな窓から朝日を浴びて、目を覚ました男は、はっとした。
大きいというのはそれだけで凄いことなんだなと実感した。しかし飲み過ぎたお酒は、きれいな朝に逆らって男を夢の泥に引きずりこんでいった。


またしても目が覚めると、もう陽が少しくすみはじめる時間であった。清廉な朝はどこかに消えて、富士山の嘘みたいな大きさは少し滑稽にも見えた。


あっという間に今日は終わってしまう。
たったの1週間も本気で生きることもできないのかと自分の不甲斐なさを感じた。

4日目、もう3日間しかないことを思うと、何も成し遂げられていないことに気がつくのであった。

せめてと思い、夕飯に少しお金を掛けた。