第3回メタルの会(第4章:こんなにEvery day, Every night)
そして、iPodタイムに突入。
iPodタイムとは、各自のiPodをカラオケのアンプ的なものに接続し、爆音でメタ音楽をかけながらそれに浸水するというちょっとした宗教的儀式である。
当然のことながら、俺のiPodにはメタ音楽は入っていないため、ここでのアピールポイントは、その準備段階の「接続作業」である。
「じゃあ、接続して。」
NG氏の号令を受け、俺は行動を開始した。
正直、接続作業なんて俺にとっては子供騙しみたいなもんだ。
アンプに刺さっている赤白コードの接続をちょっと変えてやれば「That's it!」である。
ただ、赤白ケーブルの逆側がイヤホンジャック的なものになっていなければ接続は無理だ。
しかし、これは俺の責任ではなく店側の機材の問題である。
この考えを念頭に、おれは一つの策を講じた。
策の内容は以下のとおりである。
① カラオケ機材を移動。(慣れた手つきで)
② ケーブルのin/out、及び形状を確認。
③ 接続できそうであれば作業に着手。見事成功し、歓声&拍手喝采。
④ 接続できないようであれば、困った顔で接続できない理由を説明。
⑤ ついでに、機材に関する知識を横文字を多用してペラペラ説明。
⑥ 会話についていけないNG氏、MK氏を見下ろして、自分の秀でた知識を詫び、失笑する俺。
⑦ 軽く嫌な感じのため息をついて、一気にその場の主導権を握る我。
そう・・・これは自分アピールではない。これは復讐である・・・。
俺をバカにした連中に鉄鎚を下すための聖戦(ジハード)である!
そして、俺は心の中で「開戦」と叫び、①のカラオケ機材の移動を始めた。
①の作業が終わり、②の作業。
いろいろケーブルを確認したところ、ありものの機材では明らかに接続できないことが分かり、俺は④の「接続不可の状況説明」作戦に移行することにした。
機材の奥からごそごそ出てくる俺。
少し、悩んだ顔をして俺は慎重に言葉を発した。
「これ・・・カラオケアンプに繋がっている二股ケーブルの形状がびみょ・・・」
ここまで話したとき、不意に後から声がした。
「ケーブルなら持ってきましたよ!」
振り向くとそこにはケーブルを握りしめて挑発的な笑顔を浮かべているMK氏。
・・・何故だ、何故ケーブルなんか持ってきてるんだ・・・。
既に貴殿はポイントを稼ぎまくっているのに、何故だ!
だが、俺の策は終わっちゃない。
彼の持ってきたケーブルが繋がらなければ、再び俺は⑤の策から始めればいいだけだ。
そして、ここから知力戦が始まった。
これ以降の会話で出てくる丸括弧は俺の心の叫びである。
MK「ちょっと僕繋いでみますよ。」
HD「そうですか。僕どきますね。」
MK「・・・・・・。」 (どいたのに挨拶ありませんね・・・。シカトですか?)
HD「どうですかね?繋がりますかね?」 (ニヤリ)
MK「ちょと暗いですね。明るくできます?」 (今、僕に指示しましたね。)
HD「あ、iPhoneで明かりをとりますよ。iPhoneで!」 (iPhoneだぜ?3Gだぜ?)
MK「・・・・・・。」 (またシカトですか?)
HD「どうですかね?」 (無理なんじゃないの?)
MK「うん、いけそうっす!」 (繋がっちゃダメだ!繋がっちゃダメだ!)
HD「そうっすか。」
MK「これで音が鳴ると思いますよ。ちょっと曲流してもらえます?」 (また指示ですね。)
HD「了解です!」
曲を再生する俺。音は・・・鳴らない!
(わはは!この勝負、俺の勝ちだ!わはは・・・ひぃ)
MK「入力を切り替えれば、いけると思うんですよね。」
HD「うん、そうっすよねー、きっと。」 (無理ですぜ、旦那。)
テレビの前面を弄るMK氏。
!!
そのとき、部屋いっぱいに爆音が鳴り響いた。
そして、MK氏に贈られる称賛の言葉。
「さすが!さすがだねー!やっぱり違うねー!いやー凄い!」とNG氏。
・・・いったい誰と違うというのだ。
明らかに俺に聞こえるようにしゃべる彼を、俺は初めてシカトした。
そして、俺は静かにNTTポジションに戻り、オーダー用リモコンを握りしめた。
それから数十分後、恐怖の扉が開いた。
ついに、彼等の登場である。
第3回メタルの会(第3章:挨拶で みんなに広がる 笑顔の輪)
ということで、会場のパセラ新橋に到着。
他のメンバーは到着が遅れており、俺はなんなくNTTポジションの確保に成功した。
事前調整は失敗したが、これならなんとか乗り切れるかもしれない…そんな淡い期待を頂きつつ、ドリンクのオーダー方法を確認する俺。
…リモコンのオーダー形式か…。
正直、俺はリモコンのオーダー形式が好きではない。
センサーにリモコンを向けてボタンを押している姿より、電話口で店員とオーダー交渉しているほうが、圧倒的に様になるではないか。
受話器を肩と顎で挟みつつ、メニューを見ながら冷静に…そして正確に…更に大胆にオーダーを入れる姿…これこそがカラオケを苦手としている人にとっての最大のアピールポイントであることを何故気付かないのか!
機械化・システム化の波による人員削減…遠い世界の話だと思っていたが、まさかこんな形で自分に降りかかってこようとは思いもしなかった。
責任者を呼び、裏返った声でキレてやろうかとも思ったが、なんとか俺は耐えた。
仕方なく俺はオーダー方法を確認していると横から
「ねー、なんか曲入れてよ。」
というNG氏の無邪気な声。
前の店で、あれだけカラオケが苦手だとアピールしたのに、どうやら俺の会話は全く記憶に残っていないようである。
「いやいやいやいや、NGさんこそ歌っちゃってくださいよ!」と俺。
すると
「ってかさ、いましか好きな曲歌えないよ。入れたほうがいいと思うよ。」とNG氏。
…全てを理解したうえで、彼はこの言を吐いているのだろうか。
このままでは危ない。
俺は天気の話、オーダー方法の話、みんなが来ない話を繰り広げ、なんとかこの場を切り抜けた。
* * *
そしてNG氏が数曲歌い、そろそろiPodタイムにしましょうか、と話していると、突然ドアが開いた。
俺と年齢が近いMK氏の登場である。
本来であれば、
「遅ぇじゃねえか?この時間までキメまくりかい?おい、ロニーも何か言ってやれよ!」
と挨拶を交わしたいところだが、彼は豊富なメタナレッジで、既に他のメンバーからも一目置かれている存在である。
俺は迷わず言い放った。
「お疲れ様です!」
それに対し、
「あ、お疲れっす。」とMK氏。
…………。
…「お疲れ様」の「様」が無いうえに、「!」も無い。
「挨拶」…社会人の基本である。
大事なサムシング(何か)を失くしてしまった男がここにもいたか。
詰め込み教育の悲しき犠牲者を目前に、俺は日本の教育制度を嘆いた。
そして、ここから悲しみのiPodタイムがはじまることとなる。
第3回メタルの会(第2章:さようなら、僕の言霊)
ということで、事前調整の為の会議室「天狗」に入店。
そして、カウンターに案内され、速やかにビール×2と軽いつまみを注文。
本当のところ、俺はビールが苦手であるが、そんなネタで盛り上がって貴重な調整時間を潰すわけにもいかない。ここは我慢である。
数分後、ビールが滞りなく出され、NG氏とグラスをぶつける俺。
傍からみれば飲み会開始の合図、だが俺にとっては「怒涛の事前調整」開始の合図である。
そして、美味そうにビールを喉に流し込むNG氏を横目で見ながら、俺は静かに切り出した。
「いやー疲れましたね。そういえば、オフィス引っ越してからどうですか?」
「いんじゃない?」
「そうっすよね。結構、ランチのバリエーション増えましたよね!」
「そうね。」
「海鮮系のランチが食べれるのが嬉しくないですか?」
「確かにね。」
…感嘆詞だらけじゃないか…。
全て1秒以内に収まる憎たらしい回答しか返ってこない。
明らかに俺との会話より、ビールのコクやらキレやらを楽しんでいる。
しかし、ここでキレるほど、俺は子供じゃない。
事前調整の基本は「慎重かつ大胆に」である。
俺は彼の興味がありそうな話題に変えることにした。
「そういえば、タケカワユキヒデって天才ですよね。」
「うん、実はこの前もJ-Popが流れるバーに行ったんだけどさ…(省略)」
…わはははは…我が策ここに成れり!わはは!
予想以上の食いつき…これならいける。
そして、彼の話に頷きつつも、俺は予め練っていた策を頭の中で確認した。
① 会話が盛り上がり続け、2人ともハイな状態になる。
② 会話が途切れたところで、ふと俺は思いつめた顔で下を向く。
③「どうしたの?」と彼が訊いたところで、俺は眼に涙を浮かべる。
④ 震えた声で、メタルが覚えられない、カラオケでも歌えないことを告白。
⑤ NG氏も眼にも涙を浮かべ一言「…分かったよ。」
⑥ 「一生付いていきますよ」的な目でNG氏を見つめる。
…完璧な戦略である。
⑤まで出来れば、今日の彼は俺に気遣って無茶な質問はしてこない筈だ。
あわよくば、他のメタメンバーの無慈悲なメタクエスチョンを阻止してくれるかもしれない。
まさに現代の名軍師。自分の才能が怖い。
ということで、先ずは①を実現すべく、俺は事前調整の必須コマンドである「同調」、「感嘆」、「驚愕」を繰り返し、会話を盛り上げていった。
* * *
10分後。
「でさ、松田聖子だったらさ…(略)」
…NG氏の会話が終わらない。
②のステップに移行できるタイミングが無い。
このままじゃいかん…とおもいつつも、
「松田聖子ならSweet Memories」が一番っすよね。あれってビ(略)」
などと答えてしまう俺。
もう一人の俺が警鐘を鳴らすが、会話が止められない…。
* * *
更に5分後。
既に時計の針は7時20分を指している。
…まずい…何一つ調整出来ていない…そして時間も殆ど残っていない…。
やるしかないか。
俺は作戦を変更し、④の「悩み告白」から入ることにした。
「そういえば、今日ってカラオケ付きの部屋っすよね?僕歌えないんで、不安なんですよね…。」
不自然な会話の切り方をして怪しまれたかもしれないが、言うべきことは言った。
NG氏も人の子、俺の真剣な悩みをぶつければ、何かしら優しい言葉をかけてくれる筈だ。
しかし、彼の口から発せられた言葉に、俺は耳を疑った。
「知ってる。」
…一言で終わってしまった。
ここは、俺の悩みの真剣さが伝わっていないのかもしれない。
よし、ここからが怒涛の事前調整だ。もう俺は止まらねぇぜ!
「…凄く…不安なんですよ。」
「だろうね。」
「いや、メタルとか歌えないっすよ。デスボイスなんて出ないですし…。」
「え?dokkenとか勉強してないの?」
「あ、まぁ…それはちょっと…。」
「まずいねー、それは。」
「dokkenは難しいですよ…。」
「ボンジョビ歌えばいいじゃん?」
「高い声出ないですもん。」
「知ってる。」
「僕、今日も苛められるんですかね?」
「知らない。」
「いや、本当に辛いんですよ。」
「…もう一杯飲んでいい?」
「いや、そろそろ時間が…」
「どうせ、まだみんな来てないよ。」
「いや、でも飲み放題だから次に行って飲んでましょうよ。」
「あー、じゃーそうすっか。」
…さようなら、俺の大切な言霊。
せめてもう少し話を聞いて欲しかった。
俺の悩みは、彼の喉の渇きには勝てなかったということか。
「お会計!」
という声を聞きながら、おれは残った漬物盛り合わせを貪り食った。
…いつもより漬物が塩辛く感じた。