窓の外を眺めると、しとしと降り続く雨が目につく。
目の前にある幹線道路からは車が雨をしゃあしゃあと蹴散らす音が繰り返し聞こえてくる。
いつもは青々としている街路樹も雫を滴らせながらじっとりとした緑の葉を重そうに揺らめかせている。
どうもこういう日は心まで塞ぎ込みがちになってしまうから嫌だ、とは言ってもお天道様を呪っても仕方が無い。
明日は眩しい太陽を見上げられるといいな。
窓の外を眺めると、しとしと降り続く雨が目につく。
目の前にある幹線道路からは車が雨をしゃあしゃあと蹴散らす音が繰り返し聞こえてくる。
いつもは青々としている街路樹も雫を滴らせながらじっとりとした緑の葉を重そうに揺らめかせている。
どうもこういう日は心まで塞ぎ込みがちになってしまうから嫌だ、とは言ってもお天道様を呪っても仕方が無い。
明日は眩しい太陽を見上げられるといいな。
自宅近くに風情漂う神田川が流れている。
ぼくは天気の良い午後の昼下がり、神田川をぶらぶらしてみた。
ほんのりと青臭い風を鼻腔に感じる。
神田川の水面は太陽の光に反射してちろちろとした輝きを馳せ、
その水の中を大魚のごとき振舞う丸々とした鯉が勢い良くうろこをきらめかせている。
都心から電車で二十分とかからないこの場所ではあるが、
確かな自然が生きていた。
大切な約束
時間が無い。
既に四時間以上パソコンのディスプレイと睨み合いを続けているものの一向に仕事が片付かず焦る気持ちばかりが胸に募る。
今夜だけはどうしても残業を間逃れたかった、大切な人との大切な約束。
それに一秒たりとも遅れたくは無かった。
コツンコツンとぼくの後ろを歩く上司の足音がした。上司の靴はシークレットブーツになっているためか音がよく響く、もちろんぼくがそれを知っていることは秘密である。
これ以上仕事を振らないでくれ、ぼくはその音にひやひやしていた。
「なあ、山田君」
無事に後ろを過ぎ去ったかと思った瞬間であった。
本日の営業時間は終了しております、とでも言いたい気持ちを制しつつ大人としての笑顔を浮かべる。
「なんでしょうか」
「例の件なんだが……」
るるるるる。
すばらしいタイミングでデスクの電話機が音を唸らせた。
「まあ、明日で構わんよ」
「分かりました」
ぼくは上司にそう告げて、感謝感激の想いで受話器を取った。
「はい」
「お取引先の相沢様と言う方からご伝言なのですが、『申し訳ない、今夜の件は別の機会に……』との事です」
えーー、相沢ちゃーん、それはないよ、まじかよ。
どれだけ楽しみにしてたと思ってるんだよ、今夜の奢りの高級焼肉食べ放題。
扉をあけると外はまだ太陽が昇りきらない薄暗くにじんた光を見せていた。
ぼくはマンションの駐輪場にぽつりと置かれた原付に足を向ける。
あたりは一人の生も感じさせないほど静まり返った空気が漂っていたが、原付のエンジンをまわすとにわかに
空気が騒ぎ出すかのような乾いた振動が響いた。
さあ今日も一日が始まる、ぼくはこの振動が耳を通じて脳に伝わることでいつも一日の始まりを感じている。
さっと原付にまたがり人っ子一人居ない道へと繰り出す。
徐々に原付を加速させると顔を突き抜ける朝のひんやりとした風が頬につんと当たる。
まだまだ春も近くはないな、とぼくは感じるのであった。
そこは早朝の市場のような活気に満ちていた。
女性が擦れ違えば会話が弾み心地の良い笑い声が響く、この場に居ることを胸を膨らませて喜んでいるかのような上品な笑い声だ。
そんな女性のスカートの端を小さな掌で力いっぱい握り締めている女の子が、近くに仲の良い男の子を見つけて駆け寄った。そして、頬を膨らませて子供らしいきゃっきゃとした音を立てているのが分かる。
ふと反対の方に目をやると、男性二人が力強く握手を交わしているのが見えた。
両者は握手した手を何度も上下させ顔には沸き踊るような喜びが感じられる。
久しぶりの再会を心から堪能しているようだった。
誰しもがこの場に居られることを身体一杯に感謝し何ものよりも誇りに感じている。
ぼくはあたり一面に漂う幸福な空気にしばらく酔いしれていた。