2022年11月27日の読売新聞に「タンパク質で免疫力を上げる」の書評が掲載されました。
●社会問題となっている「更年期離職」
更年期に現れる不調が原因で退職せざるを得なくなる「更年期離職」は、40~50代の男女合わせて約57万人にのぼると見られています。
国は今年度から初めて実数調査を行うとしており、社会全体でのサポートが必要なこととして、受け止められるようになってきています。
更年期の不調は、加齢による変化だけではなく、社会的なストレスや過労、栄養不足、酸化ストレスなどが影響していることが予想されます。
そのため、体本来の機能が十分に発揮できるように対策していくことが大切です。
●ビタミンEとホルモン
更年期の不定愁訴には、頭痛、肩こり、冷え、不眠などがありますが、これらの原因は、ホルモンのアンバランスにあります。
ビタミンEは総ての内分泌器官に蓄積されており、ビタミンEが欠乏すると、精巣・卵巣・副腎などが萎縮、あるいは変性することが知られています。
また、ビタミンEは、脳下垂体、副腎皮質、卵巣などのホルモン分泌を正常化する作用があることが分かっています。
ビタミンEの血中濃度を追跡してみると、特に低い時期が3回(新生児期、思春期、更年期)あることが分かっています。
この時期は、ホルモンバランスの新秩序を作らなければならないため、ホルモンの大量生産が必要となり、ビタミンEの大量消費を招くと考えられています。
この要求量が満たされない状況が続くと、更年期障害といわれる様々な不定愁訴の発現につながり易くなります。
●ホルモンの基礎知識
ホルモンは、体内の全ての細胞へのメッセージとなります。
微量で有効な化学物質で、血液の流れに乗って届けられます。
代謝・生殖・成長・老化・免疫など色々な機能を制御、調整しており、恒常性(ホメオスタシス)の維持が目的です。
ホルモンが選択的に作用する相手の細胞を標的細胞といいます。 標的細胞は、細胞膜あるいは細胞質内や核にそのホルモンと結合する受容体 (レセプター)を備えています。
●閉経後はやせすぎに注意
更年期を過ぎると、女性ホルモンを作っている卵巣が萎縮し、その代わりに副腎皮質で作られた男性ホルモンが女性ホルモンに変わるようになります。
その作業は、脂肪組織で女性ホルモンに変わる経路により補われますが、その働きには、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンCが必要とされます。
また、脂肪組織が少ないと男性ホルモンが女性ホルモンに変わらない状態となってしまうため、更年期以降の女性は、過度なダイエットは避け、あまりやせ過ぎないことも大事です。
●高タンパク食が全ての土台
ビタミンEが体内で、その役割を果たすためには、十分な良質タンパクが必要です。これはすべてのビタミンについてもいえることです。
体の機能を維持するために1日に必要な良質タンパクの量は、体重1kgあたり1gです。
ホルモンの分泌をサポートするには、ホルモン分泌を司る脳やホルモンを合成・分泌する器官の機能を維持すること、そしてホルモン合成に必要な材料(栄養素)を揃えることが必要です。
中でも、ビタミンE、亜鉛、セレンなどは、性ホルモンの合成・分泌・調整に欠かすことのできない栄養素です。
更年期によく見られる精神神経症状(イライラ、不安、不眠)や、血管運動神経症状(ほてり、のぼせ、発汗)などは、自律神経の影響があることから、神経サポートに必要な栄養素(良質タンパク、ビタミンB群、カルシウム、マグネシウム、レシチンなど)の摂取が必要です。
ストレスは、「自律神経を乱す」「脳の機能を低下させる」「栄養素を消耗させる」などして、更年期障害を大きく左右する要因となります。
そのため、抗ストレスホルモンの合成材料(良質タンパク、ビタミンC、ビタミンE)を十分に摂取し、いつでもストレス応答できるように備えておくことが大事です。
活性酸素は、ホルモン分泌減少の要因として挙げられています。
加齢とともに体内での活性酸素の除去能力も低下するため、外から抗酸化成分(ビタミンC、ビタミンE、セレン、植物ポリフェノール)を十分に摂取してサポートすることが大切です。
<参考書籍>
ビタミンCは多くの代謝に関わっており、コラーゲン合成、副腎皮質ホルモン合成、免疫グロブリン合成、コレステロール分解、グリコーゲン合成、ブドウ糖吸収抑制など多種多様です。
また、慢性関節リウマチ、アレルギー、ガン、心臓発作、脳血管疾患、血栓症、静脈瘤、喘息、床ずれ、ヘルニア、軟骨損耗、脊椎変形、倦怠感、疲労感、心身症、うつ病、統合失調症、糖尿病、白血病など数えきれないほどの多種多様の病気にもビタミンCが関係していることが知られています。
今回は、現在そしてこれからの時期に身近な感染症とビタミンCの関係について記載します。
感染症と言えば、今では新型コロナウイルス感染症と思ってしまうほど、日常生活を脅かされてきましたが、感染症には主に溶連菌感染症などの細菌が感染した細菌感染症とコロナウイルスやインフルエンザウイルスなどのウイルスが感染したウイルス感染症があります。
その他にも原虫や蠕虫(アニサキス、蟯虫など)など寄生虫による感染症もあります。
ウイルスも細菌も肉眼で確認することはできないほど小さく、それぞれ何百種類と、とても多く存在します。
単細胞生物である細菌は、栄養と水のある適切な環境であれば自分自身で増殖していくことができる微生物です。
一方、タンパク質でできた外殻の内部に遺伝子を持つ単純な構造の微生物であるウイルスは、自己複製能力が無く、生きた細胞内でしか繁殖できません。生きた細胞を宿主にすることでしか増殖することができない為、他の個体へ次々と感染させ続けることはウイルスが生き残る必須条件となります。
細菌感染を起こす、よく知られている細菌は、大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、溶連菌、結核菌などです。
また、ウイルス感染を起こすよく知られているウイルスはアデノウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、コロナウイルス、ムンプスウイルス(おたふく風邪)、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヘルペスウイルスなどです。
どれも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
ウイルス感染症にかかった場合にはまず、ビタミンCの摂取をおすすめします。
特にビタミンCの抗ウイルス作用はウイルスの種類を問わないと言われています。
ビタミンCの抗ウイルス作用は3つあります。
1つ目は、ビタミンCが直接ウイルスを不活性化することです。
ビタミンCはウイルスの殻のタンパク質ではなく、核酸(DNAやRNA)を切断することによって、増殖できなくなり、実質的に抗ウイルス作用を示していると考えられます。
2つ目は、白血球の食作用を活性化することです。
ビタミンCは白血球、特に好中球、リンパ球、貪食細胞の走化性(ウイルスの侵入部位などに急行し働く作用)、貪食作用(ウイルスなど体内の細胞が不必要なものを取り込み、消化し、分解する作用)などの機能を刺激すると言われています。
3つ目はインターフェロンを作って、間接的にウイルスの活動を阻止することです。
インターフェロンはウイルスの感染した細胞で合成されますが、そのためにはビタミンCが必要です。ビタミンCがなければ、十分にインターフェロンの合成が行われないとされています。
また、インターフェロンは免疫担当リンパ球のひとつである、NK(ナチュラルキラー)細胞を活性化する働きがあります。
NK細胞は異物に対して活性酸素を使って攻撃します。
私たちは寒さが風邪をひくきっかけとなることがあります。
鼻腔には低温の空気が吸い込まれ、血管が収縮し、血行が悪くなります。それにより、血液によるビタミンCの輸送力が低下し、粘膜のビタミンC濃度が低くなります。その様な状況ではビタミンCの血中濃度が高くても必要な場所では不足が起きているかもしれません。
さらに、低温の場合には、インターフェロンの合成も不利になってしまいます。
細菌感染症は抗生物質が効くため、病院を受診し細菌感染が分かったら抗生物質が処方されると思います。
抗生物質はウイルスには効果がないため、風邪の時に抗生物質が処方されても効果がないことが多く、最近ではほとんど処方されません。
そんな細菌に対しても、ビタミンCが効果があるという研究を今から30年以上前に佐賀大学村田晃教授が行っています。
その研究ではビタミンCは枯草菌、大腸菌、肺炎桿菌、シュードモナス菌、サルモネラ菌、セラチア菌、黄色ブドウ球菌などに対し抗菌作用を示すことが分かりました。
この作用はビタミンCに対して感受性がある菌とない菌とがあるため、すべての細菌に対応するわけではありません。また、殺菌作用までは示しませんが制菌作用は示す菌もあります。なお、私達に有用な乳酸菌に対しては作用しないとされています。
これまで説明したように、細菌やウイルスに感染した場合には、ビタミンCの摂取が有効であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
通常、ビタミンCの摂取量は1日に10gまでとしておりますが、感染症罹患時には、それ以上のビタミンCが必要になることもあります。
一時的に摂取量を増やし、細菌やウイルスに立ち向かう免疫機能に加勢してみてはいかがでしょうか。
1日に必要なビタミンCの量についてはこちらをご覧ください。
どれくらい摂取すればいいの?個体差が大きいビタミンC | 分子栄養学のススメ (ameblo.jp)
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【参考】
ビタミンCの多様な作用と作用機作 村田晃
Nippon Nogeikagaku Kaishi Vol.64,No.12,pp.1843~1845,1990
ビタミンCによるウイルスの不活化 村田晃 加藤富民雄
Nippon Nogeikagaku Kaishi Vol.64,No.12,pp.1858~1886,1990