夏は、汗と一緒に鉄分が流れ出てしまうことに加え、食欲低下から貧血になりやすい季節とも言われています。
貧血とは、赤血球数の大部分を占める「ヘモグロビン」濃度が低下した状態のことです。
ヘモグロビンとはタンパク質の一種で、主に鉄を含む「ヘム」とタンパク質の「グロビン」が結合して作られています。
ヘモグロビンは、肺から取り込まれた酸素を全身の組織や臓器に運搬する役割を担っているため、貧血になると身体が酸素不足に陥り、倦怠感、動悸、息切れ、食欲不振などの症状が起こりやすくなります。
貧血にはいくつか種類があり、骨髄中の造血幹細胞が障害されて起こる「再生不良性貧血」、ビタミンB12や葉酸が不足して起こる「巨赤芽球性貧血」などがありますが、貧血の多くは、体内の鉄が不足することで起こる「鉄欠乏性貧血」と言われています。
<鉄欠乏性貧血の主な症状>
また、鉄は皮膚のコラーゲン線維の生成にも必要なミネラルのため、鉄が不足すると肌荒れなども起こしやすくなります。
■鉄欠乏性貧血の原因
①鉄の喪失(月経過多、消化管出血)
②鉄需要の増大(成長の著しい小児、妊娠中)
③タンパク質・ビタミン(ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンC)、ミネラル(鉄、亜鉛、銅)の摂取量不足(偏食、胃全摘後や萎縮性胃炎に伴う鉄吸収障害)などがあげられます。
■鉄の吸収と喪失
~鉄は一定になるように制御されています~
イラスト「看護roo! (山田幸宏編著:看護のための病態ハンドブック。改訂版、p.582、医学芸術社、2007より改変)」
体内には約3〜4gの鉄が存在し、赤血球を構成しているヘモグロビンの中に特に多く存在します。
次に多いのが、肝臓、骨髄、脾臓などに貯蔵されているフェリチンと呼ばれる貯蔵鉄で、ヘモグロビンが不足するとこの貯蔵鉄から鉄が補給されます。
その他にも、筋肉に存在するミオグロビンや体内の代謝に関わる酵素などの中に存在しています。
食事などで1日10㎎の鉄を摂取した場合、約10%の1mgが小腸から体内に吸収されます。
一方で、体内に存在する鉄は約1mgくらいが便や尿、消化管上皮細胞の脱落や汗などで排出され、体内の鉄は一定になるように制御されています。
ただし、女性は月経によって鉄が失われるため、鉄不足に陥りやすくなります。
そこに、極端なダイエットや偏食などが加わると、鉄の摂取が追いつかず鉄不足=貧血に繋がります。
このほか胃・十二指腸潰瘍や消化器系のガン、痔、ポリープ、子宮筋腫などによって慢性的な出血があると鉄欠乏性貧血になりやすくなります。
■貧血を予防する栄養素
良質タンパク、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ミネラル(鉄、銅、亜鉛)
・良質タンパク
上述のように、タンパク質は血液中の赤血球やヘモグロビンの材料となるため、タンパク質が不足すると、造血のレベルが低下します。
◎質の良いタンパク質の摂り方についてはこちらをご覧ください。
・ビタミンA
細胞分裂を正常に調節する働きを担っているため、正常な赤血球を合成するためには欠かせません。
・ビタミンB群
ビタミンB群は造血に幅広く関与していますが、その中でも特に欠かせないのがビタミンB2、B6、B12、葉酸です。
赤血球は骨髄で生成されますが、最初に赤芽球という赤血球のもとになる母細胞が作られ、それが細胞分裂することで作られていきます。
このときに必要となるのが、葉酸、ビタミンB12です。
葉酸やビタミンB12が不足すると赤芽球の細胞分裂がうまくいきません。
・ビタミンC
ビタミンCは、造血を円滑にするために必要な栄養素です。
また、吸収しにくい非ヘム鉄を吸収しやすい形に変換したり、葉酸を活性型(働きやすい形)に変換する酵素の働きをサポートしたりすることで鉄や葉酸の吸収にも協力的に働いています。
・ミネラル(鉄、銅、亜鉛)
~ミネラルはバランスが大切~
体内では、ミネラル同士がバランスをとりながら存在しています。
鉄だけを大量に摂取すると、亜鉛や銅の吸収が妨げられ、亜鉛と銅は血液中でどちらかが多いともう一方の吸収を阻害してしまいます。
摂取にはバランスが要求されます。
・鉄
鉄はヘム鉄、非ヘム鉄の2種類に分けられる
肉や魚などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、野菜、海藻類、豆類などの植物性食品や卵などに含まれる「非ヘム鉄」の2種類に分類されます。
この2つは体内への吸収率が異なり、消化管からの吸収率は、ヘム鉄は非ヘム鉄の5〜6倍と言われています。
「非ヘム鉄」は良質タンパクやビタミンCを多く含む食品と一緒に摂取することで吸収率がアップします。
また、胃酸によっても吸収が促進されるので、ゆっくりよくかんで食べることも大切です。
一方で、コーヒーや紅茶、緑茶などに含まれるタンニンや玄米に多く含まれるフィチン酸は吸収を阻害すると言われています。
・銅
造血に欠かせない栄養素で、鉄の利用を助ける働きがあります。
鉄を強化しても貧血が改善しない場合は、銅不足も合わせて考える必要があります。
・亜鉛
ビタミンB12や葉酸のようにDNAの合成に関わりますので、細胞増殖には欠かせません。
貧血予防のためには、良質タンパクはもちろんのこと、赤血球の合成にかかわるビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンC、亜鉛、鉄、銅などの摂取が重要です。
以上のことから、身体の働きを考えると「貧血には鉄」というように単純ではないことがお分かりいただけると思います。
夏バテだと思っていたら貧血になっていたということが起こらないように、普段から貧血を予防する栄養素も積極的に摂取しましょう。