●なぜ、汗をかくのでしょう
私たちの体は、外界の温度変化に左右されず、体温の恒常性(ホメオスタシス)を維持しなければなりません。
この恒常性は、「体熱の産生」と「体熱の放散」のバランスを一定に保つことで成立しています。
下図は、体温維持のしくみを表しています。
汗の量は、体温の変化を反映して絶えず変動しています。
平均すると、600~700ミリリットルとのデータがありますが、夏季は、安静に過ごした場合でも、成人で1~2リットルの汗をかくともいわれます。
皮膚の温度受容器が、体温が上昇したという情報を受けると、「体温調節中枢」は、汗腺に送る信号を増やして、汗の量を増やします。
このような身体の冷却に関わる汗を「温熱性発汗」といいます。
また、怒りや驚きなど精神的ストレスに反応して起こる汗を「精神性発汗」、激辛料理を食べた時にかく汗を「味覚性発汗」と呼んでいますが、これらは体温調節には関与しません。
●汗の成分
汗を分泌する腺 (エクリン汗腺)は、広く全身に分布しています。その数は、200万~400万個に及ぶといわれています。
汗の99%以上が水ですが、それにわずかな無機物(ナトリウムなどの電解質)や有機物(尿素、尿酸、ブドウ糖、アミノ酸など)が溶解しています。
汗は血液を原料に作られているので、血液に含まれている物質はほとんど含まれていますが、一部(ナトリウムイオンやカリウムイオンなど)を除いて、その濃度は低くなっています。
アポクリン汗腺は毛孔に開いており、思春期に活動が高まります。
アポクリン汗腺から出る汗は、どの部位でも極めて少量ですが、その分泌は精神的な要因に影響されるといわれます。
●加齢による汗の変化
<高齢期の汗>
加齢による汗の減少は、個々の汗腺の分泌能が低下することが原因と考えられています。
汗腺の加齢変化は分泌部で特に著しく、分泌細胞は変形して縮小したり、内部に変性が生じることが分かっています。
さらに、汗腺周囲の血管数が減少したり、分布する発汗神経も小さくなることが知られています。
また、汗の塩分濃度は、一般に加齢とともに高くなることから、高齢になるほど塩分喪失が起こり易くなることも、留意しておく必要があります。
特に、これからの季節は、気温が高くなり、汗の量が増大するため、水分や電解質の不足が起こり易くなります。
良質タンパクを土台に、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、ミネラルなどを十分に摂取し、全体的な栄養摂取のレベルを上げ、
・代謝の正常化
・水分の吸収や調整などを行う腸や腎臓の機能維持
・血液循環のサポート
・自律神経のバランス維持
などを心がけることが大切です。
<更年期の汗>
女性の更年期は、閉経を挟んだ前後10年間を指します。
平均的には、45~55歳が更年期ということになります。
この時期は、卵巣機能の低下により女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、自律神経のバランスが崩れ、様々な症状を引き起こします。
これらのうち、発汗(寝汗)やのぼせなどは、体温調節の機能が関わった症状です。
閉経期になって、エストロゲンの血中濃度が低下すると、エストロゲンの分泌量を増やそうとして、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌量が増えます。
このGnRHには、体温の基準温度を下げる働きがあります。
脳内の体温調節中枢は、下がった基準温度に合わせて、現在の体温を下げようとするため、皮膚の血管拡張(のぼせ)や発汗が起こります。
そして、この症状はGnRHが分泌されるごとに、繰り返し起こります。
また、イライラや不安を感じると、交感神経が優位になってストレス状態となり、「精神性発汗」も加わるケースも出てきます。
女性ホルモンを分泌する組織である卵巣機能の維持と、ホルモン分泌の調整に関わる栄養素は、良質タンパク、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、マグネシウムなどです。
また、自律神経のバランスを整えるためには、アミノ酸(トリプトファン、チロシンなど)、ビタミンB群、カルシウム、マグネシウム、レシチンなどの栄養素が重要です。
とても身近な生理現象である「汗」について、簡単にまとめましたが、本格的な夏に向けては、汗の機能を向上させることも大事です。
汗をかき易くなって、汗の量が増えると、汗の塩分濃度も低下して、サラサラの「いい汗」が出るようになるといわれます。
この体の変化が熱中症予防にもつながります。
いい汗をかくための対策については、こちらをご覧ください。
<参考書籍>
「みるみる身につくバイタルサイン」(照林社)
「好きになる生理学ミニノート」(講談社)
「汗はすごい」(ちくま新書)