空洞化した共同体は、外部に「仮想敵」を作り出すことで、かろうじて一体感を醸成し、同じ「ノリ」を共有することができる。「劣化左翼=パヨク」の醜悪な実態を暴露するという千葉麗子『さよならパヨク』は、皮肉なことに「リベラル憎悪」「サヨク揶揄」といった「ネタ」を持ち出すことで、バラバラで空虚な自分たちを糾合しているように読める。一見「極右」に見えても、実のところイデオロギーなど何の関係もなく、「右翼ネタ」だろうが「左翼ネタ」だろうが、「つながり」をもたらすものなら何でもいいのだろう。左翼が劣化したのはその通りだろうが、では右翼はどうなのか。『さよならパヨク』という空虚な「ネタ帳」を参照しながらパヨク叩きにいそしむ彼らは、立派な人物たちに見えるか。

 『さよならパヨク』に関係する自分のツイートを拾い出してみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 本書は冒頭から、「風俗の死」について語る。「私がゼミで風俗の研究をした翌年の二〇〇四年、東京都・警視庁・警察庁が一体となって進めた繁華街の浄化作戦により、無届けで営業していた都内の店舗型風俗店のほとんどが壊滅した。歌舞伎町、横浜黄金町、埼玉西川口など、有名な風俗街が次々に浄化されていった。浄化作戦後、多くの風俗店は看板を出さずにインターネット上で広告宣伝を行う無店舗型に移行し、表社会から見えにくくなった」。著者はこう続ける。「現代は、言うなれば『風俗が死んだ後の世界』である。店舗という『パンドラの箱』を開けてしまった結果、風俗は無店舗型という目に見えない『亡霊』になり、繁華街の路地裏から浮遊・離散して、社会の見えない谷間や隙間に潜り込み、溶け込んでいった。それと同時に、店舗という箱の内側に封じ込めていた様々な『災厄』=性を売り買いする当事者に降りかかるリスクやスティグマ、副作用や後遺症も、目に見えない形で一斉に解き放たれることになった」。
 現代の性にまつわるサービス、ガジェットは、少し詳細に探索すれば、百花繚乱の様相を呈している。性的嗜好、性癖などにあわせて極めて細分化され、多様化している。本書で紹介される、妊婦・母乳専門店、激安店、「デブ・ブス・ババア」を集めた「地雷専門店」、熟女専門店などは、その一端を垣間見させるのに充分だろう。しかし、そこで働くのは、生活のある生身の女性たちである。彼女たちの抱える困難・問題を通して、逆に私たちの社会の側の困難・問題が浮き彫りになる気がする。なぜなら、風俗店の待機部屋を利用して行われた、弁護士と社会福祉士による無料相談会「風テラス」で明らかになったことのひとつは、「相談内容の大半は、通常の法律相談や生活相談と変わらない」ということだったからだ。しかし、行政が行う福祉サービスのほとんどは、当事者が出向き、相談・契約することでしか受けることができない。著者の坂爪氏は、「風テラス」実施に際して、その方針をこう記している。「これまでの行政やNPOによる相談事業の多くは、担当者や専門家が相談所の椅子に座って相談者の来訪や電話を待つ、という受け身のスタイルが中心だった。しかし自発的に相談に来ない・来られない人が大半を占める風俗の世界に対しては、そうしたスタイルは全く無意味だ。そこで、ソーシャルワークの世界で『アウトリーチ』と呼ばれているスタイル=専門家が直接現場(店舗の待機部屋)を訪問し、その場で相談に応じる形にした」。
 性風俗の取り締まりの歴史は、規制・浄化とアングラ化の繰り返しの歴史だった。現実が厳しく取り締まられれば、電話やネットの世界に移行した。性風俗の取り締まりを要求するのは「見たくないものを視界から消してくれ」という「善良な市民」の声なのかもしれない。しかしその結果、無店舗化・デリヘル化が進行し、働く女性たちのリスクは上昇した。
 二〇一五年一月二〇日、警視庁保安課らは、国内最大級のデリヘル「サンキューグループ」の代表者や従業員ら合計二一人を、売春防止法違反(周旋)容疑で逮捕した。三〇分三九〇〇円をウリにする激安店で、また、わずかな追加料金で生本番を行わせていた形跡があった。そこで働いていたある女性は、在籍中、二回妊娠して、二回共自己負担で中絶したという。職場を失うのが怖くて、店側に中絶費用を請求できなかった、という。しかし、彼女は自身が抱える困難から、そこにしか居場所がない、と思い、辞めなかった。「本番したでしょ?」との警察の取り調べにも、オーナーをかばって、決して「はい」とは言わなかったそうだ。
 そうした現実を不可視化して、見かけだけクリーンにして安堵している社会こそ死んでいる。

  (参照)
〇風俗は死んだ、俺たちが殺した  坂爪真吾『性風俗のいびつな現場』を読んで考えたこと:http://togetter.com/li/944892



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 評論家、翻訳家であり小説家の小鷹信光氏が亡くなった。ダシール・ハメット『マルタの鷹』の翻訳者としても有名だが、自分より年少の研究者による『マルタの鷹』の詳細な解説を知り、教えを乞い、改訳を出版したというエピソードをテレビで見たときは、何か「翻訳者の使命」とでもいったものを感じた。
 小鷹氏と言えば、やはりドラマ『探偵物語』の原案者としての印象が強い。私立探偵、工藤俊作を演じる松田優作のインパクトが強烈な作品だった。小鷹氏の名前が印象に残っているのも、劇中で「日本のハードボイルドの夜明けはいつ来るんですか、小鷹信光さん」と松田がアドリブを飛ばしたからだ。
 松田優作の演じた工藤俊作という人物は、ハードボイルドでニヒルな探偵像とは真逆に見える。口数は多く、ユーモラスな面があり、周囲にひとが集まり、慕われている。モデルや女優の卵、女弁護士、街のチンピラ、様々な情報をもたらしてくれる仲間たち。工藤を目の敵にしている刑事でさえ、どこか彼に親しみを感じているようでもある。これは、ドラマ『相棒』の亀山薫と伊丹刑事の関係に似ている。
 設定では、工藤はサンフランシスコで刑事をしていたが、ある事件で仲間が殺され、以来、仲間を作るのを恐れるようになり、日本に戻って来たということになっている。しかし、皮肉なことに、日本でも仲間を作り、最終回で彼らが殺害され、復讐に乗り出すことになる。
 さながら、工藤を中心にして、都市の中でささやかなコミューンが形成されたようだ。その中には、社会から爪弾きにされた者も含まれ、そんなひとびとにとっては、「工藤コミューン」は大切な居場所なのだ。最終回で、殺された「イレズミ者」という愛称があるチンピラの追悼に、仲間たちが葬列をなして街を歩く。
 工藤にとって、探偵は職業であるというより、彼の生き方の選択なのだろう。都市に生きる様々なひとびとが依頼者としてやって来て、彼に悩みや問題を打ち明け、何らかの依頼をする。調査が終了すれば、金を払って去っていく。そうしたひとびとの人生の通過点であろうとした。しかし、彼の抱えた過去の「影」によって漂う孤独が、ある種、ひとびとを惹きつけてしまう。工藤探偵事務所は、都市のアジールなのだ。
 『探偵物語』中で、最も印象に残っていて好きなのは、工藤の「人間ってのはさ、冗談なんだか本気なんだかわかんない、ギリギリのところで生きてるんじゃないかしら」というセリフだ。これに続けて、服部刑事が「工藤ちゃん、哲学者だねぇ~」と茶々を入れる。そんな空気がいい。



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