前払式支払手段に対する規制①(前払式支払手段の定義)
(1) プリカ法の廃止・資金決済法による規制
現在、商品券などの前払により購入した証票については、プリカ法により規制がなされている。資金決済法の施行によって、プリカ法は廃止され、資金決済法により前払式支払手段の規制がなされる。
(2) 前払式支払手段の定義
「証票等」(資金決済法2条1項)の定義に、「証票」のほか新たに「電子機器」、すなわち電子サーバが含まれることになる。プリカ法の「前払式証票」では、証票型やICチップ型の前払式手段のみが対象であり、サーバ型の前払式支払手段は規制の対象外であったところ、電子サーバに金額や数量が記録されるサーバ型の前払式支払手段も新たに対象とするものである。
証票型・ICチップ型とサーバ型のいずれも前払式支払手段である点は共通であり、唯一の違いはどのように電子マネーが記録されるかという点のみである。この相違は、顧客保護及び電子マネーサービスを提供する事業者間のイコール・フッティングの観点から問題とされてきた。第二部会報告においては、サーバ型前払式支払手段に証票型前払式支払手段と同様の新たな規制を導入することが提唱された(同報告書2頁)。
これにより、エディやSuica、PASMOのように証票型・ICチップ型でプリカ法の前払式支払証票となっていたもののほか、Webmoneyのようなサーバ型の電子マネーも「前払式支払段」となる。
また、新たに、「対価を得て発行される番号、記号その他の符号」も「前払式支払手段」の対象となる。これは、後述のとおり、「対価を支払うポイント」を前払式支払手段の規制の対象にするものであると考えられる。
資金移動業⑨(収納代行サービス及び代金引換サービス)
収納代行サービスとは、商品やサービスの提供者のために、代理人(コンビニエンス・ストア等)が、自ら又はその関連会社の店頭において、料金を現金で受け取るサービスである(例えば、公共料金の受取サービスがこれに該当する。)。代金引換サービスとは、宅配業者が、顧客の代金の支払いと引き換えに、商品やサービスを引き渡すサービスである。収納代行サービスと代金引換サービスのいずれにも、現在規制は設けられていない。
従前から、これらのサービスは、法律上、「為替取引」に該当するのではないかとの議論がある。また、これらのサービス提供者の破綻や詐欺的行為の防止のため、何らかの措置を講じるべきではないかとの議論もあった。
しかしながら、過去、消費者保護の見地から、これらのサービスについて重大な問題が生じたことはないことや、これらのサービスに対する規制は利用者の利便性を損なう恐れがあるとの強い批判を受け、第二部会報告は新たな規制を設けることについての賛否両論を併記するにとどまり、規制の導入を見送った。
政府は、現行法令において適法に行われている収納代行サービス及び代金引換サービスは、為替取引に該当する可能性はあるものの違法ではなく、資金決済法はこれらのサービスに新たな義務を課すものではなく、資金移動業者としての登録を要しないとしている(平成21年4月15日の衆議院財務金融委員会における佐々木憲昭委員の質問に対する内藤政府参考人の答弁)。
資金移動業⑧(本人確認義務)
ア 犯罪による収益の移転防止に関する法律
資金移動業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律における「特定事業者」として、同法に定める本人確認方法により本人確認を行う必要がある(改正後の同法2条2項28号の2)。
同法では、本人確認方法として、特定事業者が運転免許証等の本人確認書類の提示を受ける方法や、本人確認書類の送付を受け、顧客の住居にあてて取引関係文書を書留かつ転送不要の郵便物として送付する方法等が定められているが、顧客が他の特定事業者の銀行口座やクレジットカードを使用しているということをもって特定事業者の本人確認を不要とするというような取り扱いは、法令上認められていない。したがって、資金移動業者は、自ら本人確認を行うことが必要となる。
「資金移動業者が顧客と取り交わす口座開設に係る契約」については、本人確認が必要な特定取引のうち、「預金又は貯金の受入れを内容とする契約の締結」(同法施行令8条1項1号イ)には該当しないが、「イに掲げる取引を行うことなく為替取引又は自己宛小切手の振出しを継続的に又は反復して行うことを内容とする契約の締結」(同号ソ)に該当する。
さらに、「現金の受払いをする取引で為替取引又は自己宛小切手の振出しを伴うものについては、10万円を超える場合」は本人確認が必要となる(同法施行令8条1項1号タ)。
イ 外為法上の本人確認
また、外国為替及び外国貿易法上の非居住者との間の為替取引に関する銀行の確認義務(同法17条)、本人確認義務(同法18条)等の規定が準用されている(改正後の同法17条の3、18条の5)。非居住者との間で為替取引をする場合において、資金移動業者を経由する場合は支払報告の提出が免除される(改正後の同法55条2項)。
資金移動業⑦(認定資金決済事業協会・指定紛争解決機関)
内閣総理大臣は、前払式支払手段発行者又は資金移動業者が設立した一般社団法人であって、前払式支払手段の発行業務又は資金移動業の適切な実施の確保、健全な発展及び利用者の利益の保護に資することを目的とする等の要件を満たすものについて、法令等遵守のための会員への指導、利用者からの苦情処理等の業務を行う者として認定することができる(資金決済法87条)。かかる団体には自主ルールの策定などが期待されている(同法88条)。
前払式支払証票発行協会が資金移動業者に関しても、認定資金決済事業者協会となる予定である。
② 指定紛争解決機関
「金融商品取引法等を一部改正する法律」(平成21年法律第58号)により、資金決済法は施行時点で改正されることになっている。これにより、資金移動業に関して金融ADR制度が導入される。
「前払式証票発行協会」が指定紛争機関(資金決済法2条8項)となる予定である。
資金移動業③(履行保証金の供託等)
ア 履行保証金の供託(同法43条)
資金移動業者に対しては、送金途上にある資金と同額の資産を保全することの義務づけを中心とした規制とすることで、銀行に課せられる厳格な規制に代替している。
資金移動業者は、1月を超えない範囲内で内閣府令で定める期間ごとに、当該期間における「要履行保証額」の最高額以上の額に相当する額の履行保証金を、当該期間の末日(基準日)から1週間以内に、その本店(外国資金移動業者である資金移動業者にあっては、国内における主たる営業所)の最寄の供託所に供託しなければならない。
「要履行保証額」とは、①各営業日における為替取引に関し利用者に対して負担する債務の額(「未達債務残高」)と②還付の手続に関する費用との合計額(政令で定める額以下の場合は、政令で定める額)をいう(同条2項)。
すなわち、「未達債務残高」を各営業日ごとに計算して、これに、還付の手続等々の清算に係るコストを加えた額を、「1月を超えない範囲内で内閣府令で定める期間ごと」(一週間程度ごとを予定)にそれを更新をしていくという形でその最高額、要供託額を計算をし、その実行を求めていく(平成21年6月4日の参議院財務金融委員会における尾立源幸委員の質問に対する内藤純一政府参考人の答弁。)。
上記(2)のとおり、「為替取引」のうち、「少額の取引として政令で定めるもの」については、50万から100万円程度とされる予定である。しかしながら、送金者が資金移動業者に預け入れる金額の上限は設けられていない (平成21年6月4日の参議院財務金融委員会における尾立源幸委員の質問に対する内藤純一政府参考人の答弁。)。したがって、顧客の資産保全が非常に重要となる(もっとも、政府令で制限が設けられる可能性がある)。
履行保証金は、国債証券、地方債証券その他の内閣府令で定める債券(振替債を含む。)をもってこれに充てることができる。
イ 履行保証金保全契約(同法44条)
資金移動業者は、銀行等との間で履行保証金保全契約を締結し、内閣総理大臣に届け出た場合には、履行保証金の全部又は一部を供託しないことができる。
ウ 履行保証金信託契約(同法45条)
資金移動業者は、信託会社等との間で履行保証金信託契約を締結し、内閣総理大臣の承認を得た場合において、各営業日において当該「履行保証金信託契約」に基づき信託されている信託財産の額が、その直前の営業日における「要履行保証額」以上の額である場合には、履行保証金の供託を行わないことができる。
「履行保証金信託契約」とは、当該信託会社等が内閣総理大臣の命令に応じて信託財産を履行保証金の供託に充てることを信託の目的として当該信託財産の管理その他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の信託契約をいう(同条1項)。
「要履行保証額」とは、各営業日における為替取引に関し利用者に対して負担する債務(未達債務)の額と還付の手続に関する費用との合計額(政令で定める額以下の場合は、政令で定める額)をいう(同法43条2項)。
システム上、タイムリーに前営業日の要履行保証金額以上の信託ができるかが問題となり得るだろう。実務上は、あらかじめ余裕をもった金額を信託しておく必要があろう。
資金移動業②(資金移動業者としての登録制度)
「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むことをいう(同法2条2項)。「資金移動業者」とは、資金決済法37条の登録を受けた者をいう(同法2条3項)。
内閣総理大臣の登録を受けた者は、銀行法4条1項及び同法47条1項の規定にかかわらず、(すなわち、銀行として免許を取得しなくても、)資金移動業者として資金移動業を営むことができる(同法37条)。
「少額の取引として政令で定めるもの」については、現在銀行等で行われる為替取引の一件当たりの平均金額や現金書留の損害要償額などを踏まえ、50万から100万円程度とされる予定である(平成21年4月14日の衆議院財務金融委員会における石原宏高委員の質問に対する与謝野馨国務大臣の答弁)。
資金移動業者としての登録に際しては、不適格事業者を排除するため、①資金移動業を適正かつ確実に遂行するために必要な財産的基礎や体制の整備、②規定を遵守するために必要な体制の整備、③他に行う事業が公益に反しないか、④取締役等のうちに犯歴がある者がいないかといった要件について審査がなされる。そして、こうした要件に合致しなくなったときや不正な手段で登録を受けたときは、登録の取り消し等の行政処分の対象となる(同法56条)。
資金移動業①(制度創設の理由・為替取引)
現在、銀行法上の免許を得た銀行その他の預金取扱金融機関(以下「銀行等」という。)のみが「為替取引」を営むことが認められている(銀行法第2条第2項第2号、第4条第1項など)。
銀行法上には「為替取引」の定義はないが、裁判例において、「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」と定義されている(平成13年3月12日最判第三小法廷決定)。
典型的な送金業務は「為替取引」の定義に該当するので、銀行等以外の事業会社は日本においては送金業務を営むことができない。銀行等により現在営まれている送金業務は、安全で確実であるが、顧客(とりわけ外国人居住者)により、送金手数料が高いことや銀行等の営業時間が限られていることについて、不満を呈されているところである。米国やEU諸国に目を転じて見ると、送金業務は規制当局により許可を前提として、(米国では送金業務(米国では州によって規制が異なることに注意する必要がある。)として、EU諸国では決済業務として)事業会社にも開放されているところである。平成21年1月14日金融審議会金融分科会第二部会報告(「資金決済に関する制度整備について―イノベーションの促進と利用者保護―」)(以下「第二部会報告」という。) (http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20090114-1.html )では、顧客の利便性の向上や決済サービスの国際的競争力の強化の観点から、送金業務を事業会社にも開放することを提唱されている。また、かかるサービス提供者の倒産からの隔離のため、滞留資金額に相当する資金を保全しておく必要があると提唱されている。
かかる要請に基づいて、資金決済法では、銀行等以外の者が「資金移動業者」として資金移動業(少額の為替取引)を業として営むことを認めた(同法第3章)。