永楽帝の親征は、1410年、1414年、1421年、1422年、1424年の5回行われた。

[最初の遠征]

一気にモンゴル高原奥深く(北京から北北西へ約1000kmくらい)まで入り込み、タタール部君主の中核部隊のいるところを攻撃した。タタール側は敗走した。永楽帝はそれ以上の追撃を諦め、北京へ帰還した。

敗走したタタール部は西へ移動した。その結果、モンゴル高原西部の山岳地帯にいたオイラート部と対峙することになった。

遠征から2年後の1412年、タタール部の君主オンジェトゥをオイラート部の君主マフムドが殺害に成功した。オンジェトゥの部下だったタタール部の有力者アルタイは脱出し、明に支援を求めて投降した。明はアルタイに王号を与えて自陣営に引き込んだ。

これがオイラートの対明敵対的態度を招いた。

[2回目の遠征]

オイラート部が明に対して敵対的な態度をとるようになったのを理由に、永楽帝は1414年に再び50万人を率いて親征した。

現在のウランバートル付近まで侵攻し、その地にいたオイラート部を撃破、マフムドは敗走した。

1回目と2回目の遠征を見ると、どちらも敵の首領を殺害或いは捕縛することに失敗している。そもそも敵の主力を壊滅できたわけではなかった。逃げられてしまっている。遊牧民だから、どこか特定の場所に帰らなければならないわけではない。家畜が草を食える限り、生活に困らない。時間をかければ勢力を立て直すことは可能だ。

叩きのめすのでなければ自陣営に引きずりこみたいところだが、そうできたわけでもない。

「軍隊の任務を受託している民間企業」の話が出てきたので、少し述べておこう。

任務の種類によってそういう企業は以下のように分類できる。

・前線で戦闘する「役務」を提供する企業

・外国の政府に「戦略・戦術上のアドバイス(コンサルティングと呼ぶらしい)」をする企業

・衣食住、燃料、弾薬などの兵站業務を提供する企業

・兵器の点検整備、修理、操作方法の教育などの役務を提供する企業(最近は電子機器が複雑化し、必要性が上がっている)

・「警備保障業務」を提供する企業(基地や大使館の警備など)

・その他の事業を行う企業(例えば地雷除去を専門にやる企業があったりする)

Dick Cheney がかつて在籍していたことで比較的有名なNYSE上場企業 Halliburton の孫会社 Braun & Root Services は、3番目のカテゴリーに分類できる。

2番目のカテゴリーには、MPRI(Military Professionals Resources Inc.)という、その道では有名な企業がある。

ボスニア紛争ではMPRIがボスニア・ヘルツェゴヴィナ軍に雇われ、戦局を左右したそうだ。

ちなみに、このMPRIも上場企業 L-3 Communications の子会社だ。

Braun & Root Services もMPRIも、それぞれの親会社はS&P500銘柄だ。

みなさんの中には、S&P500に資金を割り当てている投資信託をお持ちの方も、ひょっとしたらいらっしゃるかもしれない。

そういう方は、Braun & Root Services やMPRIに間接的に投資していることになる。

最近は「確定拠出型年金」が登場したから、「よぉし、儲けるぞ!」と思って余資を投じる普通の株式投資ではなく、「真面目に手堅くこつこつ蓄えて老後に備える」ノリで、そういった企業に間接的に投資しているかもしれない。
現在のアメリカ軍は陸海空を問わず「宇宙空間の利用」に依存している。

それはもう、めちゃくちゃに依存している。

地上部隊も水上艦船も潜水艦も航空機も、みなGPSと衛星通信を使っている。

巡航ミサイルのような長距離を誘導されるミサイルも、GPSを使っている。

人工衛星を使わないと、米軍は「自分がどこにいるのかわからないし、味方と連絡をとれない」状態に置かれてしまう。

4年前のイラクでの地上戦においても、地上部隊の一部隊が戦場後方でデータ処理をしていた。

そういうデータ処理とその背後の通信インフラがあってはじめて、「ペンタゴン-CENTCOM-戦域の各部隊(指揮官)-戦場の各部隊」の間で連絡がとれる。

この通信インフラとデータ処理インフラが機能しないと、歩兵・機械化歩兵・戦車・砲兵・ヘリコプターなど各部隊の連携がとれなくなってしまう。

空軍と地上部隊との連携にも必要だ。

海上輸送・航空輸送を含めた補給部隊にも必要だ。

軍に協力している民間企業もそうだ。ちなみに、米軍においては、補給や整備などの後方支援、拠点拠点の(比較的軽装備で済む)警備任務などは、どんどん民間企業に外注されている。(註)

軍に協力していない民間企業・民間人だって、事業や生活においてGPSや衛星通信、衛星放送、気象衛星を利用した天気予報などにかなりの程度依存している。

地下に埋まっている金属鉱床の探査なども、少なからず人工衛星に依存している。

資本主義社会とそれを守る軍隊 - 単に守っているだけでなく、その経済に支えられている軍隊 - にとって、「宇宙空間の利用」を確保することは、今や必要不可欠だ。

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註: だから、「米軍がイラクに~万人駐屯している」と報道されるのを見るとき、それが「外注先民間企業の人員」を含んでいるかどうかについて考えることは重要だと思う。mattの知る限り、含まれていない。

また、「米軍の死者~名」と報道されているのを見るとき、それが「外注先民間企業の人員数」を含んでいない可能性が高いことに注意するべきだ。

戦場で働いていよういまいが、定義上は「民間人」なのだから。
このブログはほぼ2年前に書き始めたものだが、書き始めてから半年ほど経過した頃に「宇宙戦争?」と題して連載したのを覚えて下さっている方もいらっしゃるかもしれない。

その続きを少しずつ書いていこう。

きっかけは、中共政権がミサイルによる衛星破壊実験に成功した、という報道だ。

この話はすごく興味がある。

全く、久しぶりに興奮させられた。セルロース系エタノール研究開発とシステム生物学と葉緑体工学に気付いたとき以来の興奮だ。

今後、アメリカの宇宙開発と軍事研究開発、それに日本の関連産業に大きな影響を与えるに違いない、と確信している。
先週から今週にかけて、General Electric が事業の売却・買収について立て続けに3つ発表している。

(1) プラスティック事業の売却予定

(2) 石油採掘設備メーカーの買収予定

(3) 航空機部品・自動車部品メーカーの航空機部品事業の買収予定

ご存知の通り、GEは去年日立製作所と原子力事業を統合すると発表している。その前にテキサス州で日立と原子炉新設案件を共同受注している。

GE側からの発表ではないが、三菱重工業にメキシコ向け原発設備の一部を下請けに出すことも決めている模様だ。

とても気になる一連の動きだ。

プラスティック事業は、金融事業が成長する前にGEの看板事業だったものだ。Jack Welch はここで育っている。それを売却するという。

金融事業が利益の半分を占めるようになっているとはいえ、これは大きな動きだと思う。

何が意志決定の背後にあるのか。

まず、「エネルギー重視」ということが挙げられる。これは間違いない。

原子力の強化と石油生産への関与への動き。

続いて、航空機パーツ製造事業の強化。

GEは元々からジェットエンジンの世界最有力メーカーの一つだ。そこへさらにプロペラなどの部品を生産する事業を買収する。

プロペラ製造だけの事業なのかどうかわからないが、想像をたくましくすると、一つには風力発電機製造事業を強化したがっている可能性がある。

ちなみに、GEの風力発電機製造事業は5年前にエンロンから買収したものだ。その後順調に拡大している。

もう一つの可能性は、航空機のパーツ製造の範囲を、今までの「エンジンだけ」から拡大することだ。

これらの動きが何を意味しているか?

個人的な意見に過ぎないが、「石油を中心としたエネルギー危機」の到来を予見しているように思える。

プラスティックを製造するには、原料としての石油が必要だし、それだけでなく、加工するためにたくさんのエネルギーをつぎ込まなければならず、そのエネルギーは化石燃料に多くは由来している。

一部で予見されているように近い将来に石油生産がピークを迎えるとすると、プラスティック製造の原料が不足し、かつ加工するために必要なエネルギーも不足することが予想される。

稼働率の低下があるかもしれない。

稼働率が低下すれば、必要な売上は確保できなくなる。一方で設備と従業員がある以上固定的に出て行く費用は常に存在するし、原材料が高騰するから仕入原価も生産量減少ほどには減らず採算が合わなくなるだろう。

石油が不足すれば、ますます「石油を採掘する努力」が求められる。「石油採掘設備製造事業」の価値は上がる。

石油が不足すれば、原子力発電と風力発電には追い風だ。

石油が不足すれば、産油地帯を勢力圏として確保する必要が高まるから、ますます軍事力が必要になる。GEが伝統的に関与している軍需産業は航空機(今まではエンジン)で、これはこれで重要だが、もっと拡大できるに越したことはない。

こんなところか。

んー。あまりにしっくり来過ぎる想像だ。
安倍内閣の支持率が低いのだそうだ。

mattはここんとこエネルギーねた記事を中心に読んでいる。しかも、日経・日経産業・日刊工業の3紙に目を通している。

「エネルギーねた」と言っても、mattの定義では、例えばイラン情勢は完全に「エネルギーねた」だ。

「ある種のアミノ酸を生成できるよう改造した大腸菌のDNA塩基対を一部取り除いたら、その大腸菌の生産性が3倍になった」なんて記事も、mattにとっては「エネルギーねた」に分類される。こういう記事も一方で読んでいる。

FT.com もある程度目を通す。

はっきり言って、日本の首相の支持率まで気にしている余裕がない。

しかし、今のところ特に支持しているわけではないが、安倍首相を観察していると、外交っぽいことには好感は持てる。

もちろん、「mattの個人の感覚において好感が持てる」ということだ。

(1) 就任直後、最初のインタビュー記事は Financial Times のそれだった。

(2) Financial Times の直前に、CNNのインタビューを受けている。

(3) Washington Post のインタビューも受けた。

(4) 新首相がいつも最初に外遊する国がアメリカだったのに、就任直後に訪中した。関係はまずまずだ。(おそらく中共側の事情によるのだろうが)

(5) 今月に入って、インドのメディアのインタビューを受けている。(どういう報道がなされたのか、まだ全く分からない)

(6) 国際エネルギー機関(IEA)の次期事務局長に日本人をはめ込むことに成功した。(選挙の詳しい過程は報道されていないが、官邸の支援が何らかあったことはほぼ間違いない。何しろ、非ヨーロッパ人初のIEA事務局長だ)

なかなか、やるじゃん!

特に最初の3つと(6)は、とても好感が持てる。

最初の3つは確かに「パフォーマンス」ではある。それはその通りだ。

しかし、政治家が演技するのは重要なことだ。

最初に英米系メディアのインタビューを3タテで受けた。良い結果を生んだとは今のところ言えないが、その努力は買おう。

率直に言わせてもらうが、日本の大手メディアは事実報道以外は目を向けるに値しない。「あんな連中のインタビューなんかどうでもよろしい」と思う。

matt自身、日本語のメディアに目を通す場合、メディア側が注入している価値判断は極力排除して、事実だけ追いかけながら読んでいる。

TVはあまり見ない。ニュースでもあまり見ない。「どれが事実で、どれがTV局が混ぜたTV局の価値判断なのか」を瞬時に区別するのが難しいし、その区別を一々覚えていられないからだ。

(6)は、後で効いてくるだろう。

あと10年くらいしたら、「ああ、あのとき事務局長の椅子取っていて不幸中の幸いだったな」と、一部の人にはわかるようになるだろう。

永楽帝の最初の親征は西暦1410年に50万の兵力を動員して行われた。

50万だ。

皇帝が自ら遠征するのだから、臣下が率いる兵力より圧倒的に大きくなければ面子が立たない。

しかし50万人も出すとなると、補給は大変だ。

(80)で書いたように、まず水が要る。

食料も要る。

(80)では書かなかったが、燃料もいる。薪か石炭だ。

これらの補給を50万人分しなければならない。

50万人といっても、前線で戦闘する兵士ばかりではない。

50万人のうちのどのくらいなのか資料がないが、水と食料と燃料を運ぶ輜重部隊に相当な数が必要になる。

前線で戦闘する兵士だけでなく、こういった輜重部隊に所属する兵士たちも水と食料と燃料を消費する。

農耕民にとって草原地帯への遠征は、「農耕地帯から補給物資を前線に送り届けなければならない。その前線に補給物資を送り届ける輜重部隊にも補給物資を消費させながら」という活動を意味している。

(80)と(81)とここで書いたように、騎馬民は正反対だ。

家畜の乳が食料と水を兼ねている。その食料と水の供給源は、自力で歩いてくれる。

家畜の乳から作った(からからに乾いた)チーズは保存がきくので、戦場に携行できる。

最悪の場合、家畜の血を飲む。血も飲み水と食料を兼ねている。

炊事・暖房の燃料も家畜が供給してくれる。家畜の糞を彼らは拾い集めて火にくべる。草原地帯は乾燥しているので、騎馬民たちは糞をそのまま手で拾い火にくべている。

衣服や靴などの材料もかなりの程度家畜の皮革から採る。

動力付き補給装置を騎馬民は持っていることになる。

騎馬民、特に遊牧民にとって、どうしても(核家族の外部から)補給しなければならないものは、金属製品と茶葉くらいのものだ。

金属はベルトのバックルやナイフや鍋の材料だ。茶は、家畜の乳で煮出したりして飲む。遊牧民にとって茶はほとんど唯一の安定したビタミンC源で、これだけはどうしても農耕地帯から入手しなければならない農産物だ。

が、茶葉は保存がきくし軽い。あらかじめ貯えて戦場に携行すればよい。

騎馬民、特に遊牧民は身軽で、補給が簡単だということが言える。農耕民の軍事活動との差は大きい。

そういう集団と、50万の農耕民主体の集団とが、草原で戦ったらどうなるか。

1410年に始まり1424年まで続いた永楽帝の5回の遠征を見ていこう。

騎馬民政権に対する農耕民政権の軍事的劣勢の背景としては、以前から指摘している「機動力」も大きい要素だ。

騎馬民の軍隊は、草原の騎馬戦力が敵でも、対等の機動力を発揮して戦える。

機動力(馬)も疲弊するが、替え馬は騎馬民社会にはたくさんいる。簡単に取り替えられる。

騎馬民は小さいときから馬に乗って育つから、「馬をあやつれる戦士」も豊富に手に入る。

農耕民社会の軍隊は、馬の頭数をそろえることそれ自体が困難だ。家畜の大半は農業生産のためのものなので、家畜を徴発しすぎると生産力の低下を招いてしまう。

農村で農業生産用に飼育されている家畜は、人を乗せて駆け回るように訓練されていない。

社会全体として騎馬の習慣に乏しいから、馬に乗って戦場を迅速に移動できる戦士を大量に確保するのも難しい。

騎馬民がシナに本拠地を置く政権(隋唐・元・清など)を打ち立てたときは草原地帯へ簡単に勢力圏を拡大できたのに、農耕社会出身者が樹立したシナ政権(宋・明など)が草原地帯の騎馬民勢力に苦戦することが多いのは、(80)とこの(81)で説明しているような背景があるためだ。

細かい話ばかりしてきた。少し視点を変えよう。

永楽帝はその生涯で5回モンゴル高原へ自ら遠征している。

永楽帝の治世の後は、モンゴル高原へ遠征する明朝皇帝は現れなかった。いや、正確に言うと次代の宣徳帝は一度出撃した。が、比較にならない小規模で、本気でなかったことは明白だ。

明朝は「農耕社会出身者による最後の伝統シナ社会政権」だ。明の後は清だが、清はマンチュリア出身の騎馬民による政権だ。だから、モンゴル高原やチベット高原、トルキスタンにまで軍事力の展開を比較的簡単に行っている。

明はそうではない。

昔の隋唐政権とも違う。隋唐政権は五胡出身者が中核を構成した政権だった。だから、モンゴル高原やマンチュリアへ影響力を及ぼすのはそれほど難しくなかった。

結局、ライフスタイルの問題があるということだ。

馬に乗って育った人達が編成した軍隊は、草原地帯(半乾燥地帯)を簡単に移動できる。通常の生活どおり、家畜を連れて移動すればよい。

遠征しても補給に困らない、ということだ。

家畜をつれて移動する、と書いた。放牧・遊牧生活というのは、「歩き回る食料に囲まれる環境を自ら作り出し、その中に住み込む」ライフスタイルだ。

食料が自力で歩いたり走ったりしてくれる。その食料は飲み物(乳)も供給してくれる。

農耕社会の軍隊が移動する場合は、穀物を車に載せて運ばなければならない。草原地帯は水が簡単には得られないから、水も運ばなければならない。

補給が難しい、ということだ。

永楽帝が政権を奪取した頃、モンゴル高原では政権争いが起こっていた。

故元(旧元朝政権)が衰退し、代わってモンゴル高原東部ではタタール部、西部ではオイラート部が、モンゴル高原での主導権を争いつつあった。

永楽帝はこれに目をつけ、タタール部とオイラート部の族長を「王」に封じた。一種の勢力均衡策だ。

また、それまですでに支配下におさめていた遼東半島(遼寧省南部の半島。大連などがある)までの地に軍事施設を配置した。

遊牧民政権が大型化しない隙に、西の方現在の新疆にまでも軍事施設を設置した。

ところが、永楽帝が即位して7年目に、タタール部へ派遣した明の使者が捕らえられ殺害される事件が起こった。

永楽帝は10万規模の部隊をモンゴル高原に派遣した。

が、タタールを深追いして高原(草原)深く入り込んでしまった後に壊滅させられた。

永楽帝は自ら遠征することにした。