ブロックチェーン革命について(その3)~実装の舞台は日本。「東京クリプト金融特区」~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 ファングとバティス?…。この言葉を聞いたことがあるでしょうか。ガーファ(GAFA)はGoogle、Apple、Facebook、Amazonとして知られていますが、これにNetflix(ネットフリックス)を加えてFAANGです。こちらが米国の自由競争秩序のもとで、すでに日本のGDPの3分の2の売上高となっているITプラットフォーマーだとすれば、中国の国家主導パラダイムのもとに躍進すさまじいのがBATISです。

 これはAI発展計画で習近平政権が指名した5大プラットフォーマーであり、Bはバイドュ(Baidu)で自動運転、Aはアリババ(Alibaba)でスマートシティ、Tはテンセント(Tencent)でヘルスケア、Iはアイフライテック(iFlytec)で音声認識、Sはセンスタイム(Sense Time)で顔認識だとされています。

FAANGとBATISの対立軸構造の中に日本の存在はありません。電子データが世界の付加価値生産の最大の源泉となる中で、プラットフォームを取れない国は何をするにも寺銭を取られるのみの立場になります。

日本経済の成長戦略を考えれば、やはり、電子データの分野の一角に信頼性の高い日本独自のプラットフォームを生み出すことが喫緊の課題です。幸い日本には、世界に冠たる課題先進国という強みがあります。さまざまな社会的課題の解決モデルの構築に「ブロックチェーン革命」を意識的に応用し、この分野で必要なイノベーションを先導する。すでにデジタルエコノミーで米中に後れをとった日本はせめて、「トークンエコノミー」で国際社会の中での存在を築くしか道はないかもしれません。

 すでにブロックチェーン革命の意味や、その公共部門への適用の可能性、そして政府暗号通貨「松田プラン」については、(その1)、(その2)で論じましたので、下記をご参照ください。

「ブロックチェーン革命について(その1)~情報覇権戦争における日本の立ち位置」↓

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12439137692.html

「ブロックチェーン革命について(その2)~政府暗号通貨「松田プラン」の提唱」↓

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12441650632.html

本稿ブロックチェーン革命の(その3)では、ブロックチェーン社会実装として、公共部門のうち、特に登記システムを事例として取り上げ、その効果を展望した上で、日本がこの世界的な革命で先手を打つために私が近著(米中知られざる「仮想通貨」戦争の内幕、宝島社)で共著者の伊藤秀俊氏とともに提案している「東京クリプト金融特区」について触れてみます。

 

●公共部門における実例としての登記システム

 以下は、(その2)で引用したSCIS提出論文(松田学、辻秀典「ブロックチェーン技術の社会実装の事例としての公共部門への活用に関して」)から、引き続き引用を続けるものです。

…これまで、電子政府という形で公共部門の電子化が推し進められているが、必ずしもうまく進んでいる状況とはいえない。最大の課題は、電子化のメリットを利用者にどのように与えられるかという点である。政府暗号通貨も、それを発行するだけでなく、流通メリットを出さなければ使われない。逆に、公共部門の電子化だけであっても、利用者にメリットを出しづらいといえる。

だからこそ、ブロックチェーンの実装によって両者を一体化し、電子化と公共サービスと価値の移転を同時に提供できれば、これまでと状況は大きく変化すると考えられる。

 電子化が進んでいない公共サービスは数多くある。もちろん、複雑だからこそ移行が難しいサービスもある。まずはシンプルだが、規模の大きいシステムからリプレースするということで、その一例として法務省が管轄する不動産および法人登記について、以下、検討する。

 現在の登記のシステムの問題を以下に列挙する。

①不動産登記、法人登記各登記簿記載の「名寄せ」が出来ない。個人資産または法人資産の名寄せが不可能なため、相続や 係争面で取りこぼしが発生している。また、外国人(日本国籍外)の登記についての認証や選別が行われていない。

②Webによる「登記情報提供サービス」を法務省で実施しているが、この情報のプリントアウトが、公的書類として使用できないため再度、登記所において登記情報(謄本等)を取得しなければならない。

③登記情報取得または登記申請には、所定の収入印紙貼付が必要であるが、未だに登記所内の収入印紙販売窓口にて、現金のみでの対面販売が行われている。

④法務局管轄の登録情報と各都道府県市町村の住民台帳、印鑑登録情報、戸籍謄本台帳およびパスポート情報とは、現状ではリンクしていない。その為、申請等において各々の自治体や行政機関から個別に公的書類を用意せざるを得ない状況となっており、一元化することで大幅な経費の節減や追跡調査等が軽減される。

⑤現在、法務局において発行される公的書類等(謄本、法人印鑑証明、その他)は、有効期間が3か月となっている。その理由は、再取得による収入と期間内登記情報の変更の可能性からであるが、印紙代収入の確保は理解できるものの、期間内変更は翌日に変更される可能性もある状況下で、意味の無い有効期間設定と思われる。

⑥不動産(土地)において、現状では、宅地(種別有)、雑種地、国有地、山林、農地(種別有)、準工業地、工業地、風致、等に分類されているが、各々の所管が国交省、各自治体、農水省などに分かれており、地目変更手続きも多種多様に亘り、その認可までにかかる期間もまちまちとなっている。権利形態においても制限つきのものがあるばかりか、適応法も異なっている。戦後の区画整理、市街化調整、農地促進、環境保護、山林保護などの縦割り行政が残した遺物が近年においても適用されている。また、不動産には現住所と地番が存在し、登記情報取得には地番での申請を行わなくてはならない。現在、登記所では現住所での謄本取得は出来ず、地番への「紐付」がシステム上できていない。

 このような問題を抱える登記の仕組みとブロックチェーンがマッチしていると考える点は次のとおりである。

まず、登記情報は公開かつ履歴を追えることが重要であり、ブロックチェーンの履歴を改ざん出来ず固定化できるという機能に非常にマッチしている。上記の問題①、⑤は電子化が適切にできていない弊害である。今こそブロックチェーンで実装すべきである。

また、ブロックチェーンの性質上で存在が証明できる情報は公的な情報として証明可能であり、従来の書面のみによる証明の代替とすることが可能である。問題②などを解決する。

そして、地目管理など複数の省庁、自治体にわたって管理される情報を、ブロックチェーンによりデータドリブンで管理することで、透過的に扱えるようにする仕組みが構築できる。現在の行政システムは目的別にシステムが散在し連携できていない傾向がある。これを解決できるのはデータをブロックチェーン上に集約し、必要なロジックをスマートコントラクトに乗せることで、散在するシステムを統合することが可能と考える。これにより問題④、⑥などが解決できる。

まずは登記情報などの独立性の高い情報をブロックチェーン化することで公共部門の実装を行うべきと考える。…

 

●社会実装の推進と「東京クリプト金融特区」

 前記論文では、ブロックチェーン技術と価値の移転に着目し、公共部門への活用について検討しました。これは一般的に言われることですが、ブロックチェーンにより行政サービスのさまざまな情報が管理可能となっても、それだけではこれまでの電子化と変わらず、普及が見込めません。

 ブロックチェーンならではの実装は、①情報管理、②手続き、③価値の移転等の3つの営みを一つの仕組みで実現することであるということは、(その1)でも論じたところです。そのために、自治体発行地域通貨や、(その2)で紹介した政府暗号通貨についても触れてきました。今後、より具体的な社会実装に関する検討を進める必要があります。

 ここで大事なことは、インターネット革命が1980年代以降こんにちまで、30年をかけて社会を変えてきたように、ブロックチェーン革命も数十年をかけて人類社会を変革していくことになるということです。しかも、ブロックチェーン技術自体が未だ黎明期にあり、すでに完成された技術を社会システムに適用すれば済むという性格のものではありません。今後の社会実装の試みを通じた不断のイノベーションが不可欠となる分野です。

 ここに日本のチャンスがあります。世界の課題先進国であり、現場力と工学力と産業集積という強みを持つ日本であればこそ、この技術の社会実装に向けた不断の営みを自ら続けることにより、人類社会の変革を先導できることになります。

 そのプロセスの起爆剤として前述の著書で伊藤秀俊氏や中村宇利氏とともに提唱しているのが、「東京クリプト金融特区」構想です。

 現在、米国のシリコンバレーに世界中から投資資金が流れ込んでいますが、この構想は、①世界から東京に投資を呼び込む、②日本の次なる技術及び経済成長のフロンティアを拓く、③日本が直面しているさまざまな社会的課題の解決に資する、という点で、国家戦略特区にふさわしいものと考えています。現在、その具体的な内容の詰めをしており、成案がまとまり次第、政府や東京都はじめ、関係先に働きかけていく予定です。

 恐らくそこでは、政府暗号通貨のほか、さまざまなユーティリティ・トークンが行き交うグローバルな暗号通貨市場の形成だけではなく、日本の産業界等、各分野に蓄積された膨大で貴重な情報の電子データ化を、他国のプラットフォーマーではなく自国で進め、いまや最大の付加価値の源泉となっている電子データを基礎に多様な事業機会を創出していくことになるでしょう。

 また、産官学の連携の舞台となり、各種の社会的課題を抱えるさまざまな分野ごとに、それぞれの特性を踏まえたブロックチェーンのイノベーションを、現場とのフィードバックや擦り合わせを通じて推進していくセンターとして機能していくことが考えられます。

 こうしたプロセスが日本のさまざまな分野で展開されることにより、それぞれの分野で日本が世界標準を生み出し、各種のグローバルなプラットフォームを日本が創出していく。

 これによって日本が世界の中で、米中とは異なる、もう一つのプラットフォームの中軸国の位置を占める国になることを目指していきたいと考えています。

 松田学のビデオレター、第106回は「出遅れたITプラットフォーマー整備、東京クリプト金融特区で巻き返しを!」

チャンネル桜2019年2月19日放映。こちらをご覧ください。↓