ブロックチェーン革命について(その1)~情報覇権戦争における日本の立ち位置~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 まずは、私の新著についてご紹介します。1月25日より全国書店で発売されていますが、『米中 知られざる「仮想通貨」戦争の内幕』(共著、宝島社)です。サイバーと暗号通貨の分野では、私の著書、昨年8月発刊の「サイバーセキュリティと仮想通貨が日本を救う」(創藝社)に続く第2弾になります。今度は、私とともにこの分野の事業に携わっている伊藤秀俊氏との共著で宝島社からの出版となりました。

 第1章と第2章では、国際金融情勢や、その裏側で暗号通貨をめぐって米中間で繰り広げられている熾烈な通貨覇権争いの状況など、ホットな内容となっています。

 私が執筆した第3章、第4章では、ブロックチェーン革命や前著でも提唱した政府暗号通貨(松田プラン)に加え、日本が世界の中で独自の道を拓く「東京クリプト金融特区」など、これからの日本を考える上でさまざまな提案を行っています。

ここでは何回かに分けて、本書でも取り上げたブロックチェーン革命について、先般、今年は大津で開催されたSCIS(暗号と情報セキュリティシンポジウム: Symposium on Cryptography and Information Security)で私が1月23日にブロックチェーンの分科会で発表した内容に即して、述べていきたいと思います。

 

●なぜ、日本はブロックチェーン革命が大事なのか

 ブロックチェーンとは、電子化された情報を改ざん不可能にする技術を意味します。情報の流通に大変革をもたらしたインターネット革命の次なる革命として、価値の流通に大変革をもたらす「ブロックチェーン革命」が世界で急速に進展しているとされています。

 これは、これまでの社会の仕組みを根本的に組み換え、人間の生活や経済活動も含め、人類や国家全体に歴史的な変革をもたらすことになるとも言われています。

 日本は人類史上例のない速度で進む社会の高齢化を始め、今後、人類社会が共通して直面する課題に世界で最初に直面する「課題先進国」であるとされています。このことは、自国が直面するさまざまな課題解決を通じて、その課題解決モデルを新たな社会のモデルとして世界に示し、これをもって自国の経済成長や豊かさにつなげ、国際社会での有利なポジションを獲得していく上で、日本が大きなチャンスに直面していることを意味するものです。

 このように課題先進国から「課題解決先進国」へと飛躍することを目指す営みにおいて、日本が有するさまざまな強みを徹底活用することが問われてきますが、幸い日本には、来たるブロックチェーン革命において、世界をリードできるだけの技術的基盤がないわけではありません。

 元々、ブロックチェーンはビットコインに代表される「仮想通貨」の技術的基盤として誕生することになったものですが、特に日本では、世界に先駆けて仮想通貨の規制インフラを導入したことも相まって、2017 年には、一時はビットコイン取引の約4 割が日本人によるものとされるまでに仮想通貨ブームが過熱した国です。ブロックチェーンへの関心も高く、多くの技術者が日本においてこの分野でのイノベーションを先導する状況も生まれています。

 情報技術全般についてみると、特にAI(人工知能)やビッグデータを中心に中国の技術的な優位性が急速に高まり、これを危惧する米国が2018年10月のペンス副大統領演説で対中国政策を大きく転換させ、知的財産の保護や技術流出の阻止を対中政策の柱に据えるようになったことが示す通り、現在、国際社会では未来を制する情報技術を巡る覇権争いが米中間で展開されるようになっています。

 これまで新技術を創造するのが欧米であり、それを取り込んで膨大な人口と国家資本主義体制のメリットを活かした情報活用により新技術の社会実装を進めることで自国の優位性を獲得してきたのが中国だといえます。だとすれば、この両大国の狭間にあって日本が採る道は、直面するさまざまな社会的課題の解決に向けて、自国が未だ優位性を失っていない現場力や工学力等を最先端の情報技術と組み合わせることを通じて、新たな社会的ソリューションモデルを構築することであろうと思います。

これによって国際社会における課題先進国としての優位性を実現していくことが、国全体として共有されるべき戦略であると考えらます。

このような視点からブロックチェーン技術の日本における意味合いを考えれば、問われているのは、経済や社会、あるいは行政等の各分野において各々が直面する課題解決の手法として、広くブロックチェーンを、関連する諸般の制度や仕組みに実装していく流れを意識的に強化していくことではないでしょうか。

 

●技術がもたらす非中央集権化

 一般論として整理すれば、ブロックチェーン技術には、その社会実装において他の仕組みでは実現できない効果を発現することへの期待が寄せられています。

 これまで人間という存在は、自然界など外界との間に、古くは道具から始まり、機械設備や産業、文明や国家に至るまで、いわゆる「中間機能」を介在させ、これを高度化させることで生存域を拡大してきました。こうして現在まで高度化してきた人類文明を支える各種の社会システムは、いずれも中央集権型で組み立てられ、権威を持つ中央管理者が一定のコストをかけて、これを管理運用する仕組みが基本設計となってきました。これは中央管理者への信頼を土台に成り立ってきたシステムだといえます。

 ちなみに、分散型社会の形成に寄与することが期待されたインターネットも、今や、プラットフォーマーである中央管理者である「GAFA」 が支配する仕組みとなっています。

 中央集権的システムの高度化、強化が進んだのが20世紀だったとすれば、ブロックチェーンは分散型で自立的な21 世紀型社会の仕組みだとされています。ここでは中央管理者が不要なP2Pの分散型処理システムが構築され、これがさまざまな社会システムの設計を根本から変革する可能性が論じられています。これは特定の中央管理者ではなく、技術への信頼によって成り立つシステムであるといえるでしょう。

 但し、システムのノードへの参加を誰にでも開かれた形にしているオープン型のブロックチェーンはパブリックチェーンと呼ばれ、「ブロックチェーン」という用語は、上記の特性を有するパブリックチェーンについて用いられる場合が多いです。これに対して、参加者を限定し、管理運営者が存在する形態でブロックチェーン技術を活用するシステムについては、プライベートチェーンと呼ばれ、両者は厳密には大きな違いがあるものとして区別されています。

 ここでは以下、行政への適用という視点から本技術の適用を考える関係上、プライベートチェーンも含めた意味でブロックチェーンという用語を用いることとします。

 

●スマートコントラクトとトークンエコノミー

 ブロックチェーンはビットコインの実装のために開発された技術という経緯があり、元々は「インターネット上に構築された価値交換のための基盤技術」だと位置づけることができます。しかしながら、ブロックチェーンから独立して新たな技術が開発されており、ビットコイン以外のアルトコインも数多く存在します。

 その代表例といわれるイーサリアムでは、通貨価値以外の任意の手続きを実現する「スマートコントラクト」が実装されています。スマートコントラクトにより、ブロックチェーンは価値交換だけの基盤技術ではなくなりました。

 現在のブロックチェーンは、①情報管理、②手続き、③価値の移転等の3つの営みを一つの仕組みで実現するもので、その手続きの部分を担うのがスマートコントラクトです。これはブロックチェーン技術の中でも、今後広まっていくことでブロックチェーンを支える新たなコア技術の一つになるものです。

 データと特定のロジックが結合することで、そのロジックに従ったデータ処理がなされることになります。従来の社会の仕組みはシステムが先にあり、それぞれのシステムごとにデータ管理が構築されていましたが、これに対してブロックチェーンの主役は改ざん不可能なデータそのものです。データに応じてシステムが動く姿になります。

 そのもとに、これを社会の仕組みに実装することで、①情報管理や情報の安全性と信頼性、②ユーザー(国民など)の利便性、③効率性(コストの大幅削減)などの面で、従来、実現が現実的に不可能(もしくは高い難易度)だったことが実現できることになります。

 

一般国民や地域住民、あるいは企業団体など、ブロックチェーンが提供するさまざまなサービス等のユーザー側は、トークン(暗号通貨)でブロックチェーンを利用することになります。これによって、一連の手続きと価値移転(行政であれば納税や手数料の支払など)がワンストップで行われ、その信頼性の管理も不要化します。

今後、経済活動でも政府や行政との関係でも「トークンエコノミー」が進展していくことになります。

なお、ビットコインに代表される「仮想通貨」は、価値移転などの分野でブロックチェーンの国家にも勝る威力を示唆しました。これが「手続き」と結びつき、より高度なセキュリティ技術が実装されるなどのイノベーションとも相まって、いずれ新世代の暗号通貨が誕生する流れにあります。それが高度なセキュリティや利便性などを十分に実現することになれば、これからの社会システムにパラダイムシフトをもたらすことが予想されます。

 

●期待される公共サービスの事例

 ブロックチェーンを社会の各分野に実装することで、例えば、現在進められている「働き方改革」などもスマートコントラクトがサポートすることになるなど、日本が抱える各種の課題解決に大きく資すると期待されます。

 特に、行政関係分野にブロックチェーンを実装し、これをトークンと結び付け、そこにさまざまなスマートコントラクトを仕組むことで、前記の①安全性と信頼性、②ユーザーの利便性、③効率性などに大きな効果が期待される分野の事例としては、例えば、次の図のような項目が挙げられるところです。安倍政権が進めようとしている政策を大きくサポートするものといえるでしょう。

 

●自治体発行地域通貨と地域ユーティリティトークン

 地方自治でのブロックチェーンの可能性について考えれば、自治体の行政側がさまざまなデータをブロックチェーン管理することで、これと結びつくトークンを用いる住民にとって利便性が増大するとともに、行政の効率化が著しく進展することになります。地方公務員はルーティンから解放され、人間にしかできない付加価値の高い仕事に特化できるようになるものと期待されます。

 「ユーティリティトークン」とは「セキュリティトークン」と対をなす考え方であり、あるサービスにアクセスするためのトークンとして使える場合がこれに該当します。

 自治体による行政サービスをブロックチェーンとスマートコントラクトで実装し、これを利用するためにトークンを支払うことで効率的な行政サービスの提供と利用を実現することが期待できます。

 地方自治体で考えられる活用例を下図に掲げてみました。

 

 さて、上記は自治体が暗号通貨を発行し、住民がこれをトークンとして利用することで、納税やさまざまな手数料などの支払いを行政手続きと一体化してワンストップ化したり、あるいは地域の施設やイベントなどに活用する場合を想定したものですが、何もこうしたトークンエコノミーは「地域通貨」に限られるものではありません。これを国全体で実現するために日本政府が「政府暗号通貨」を発行することが考えられます。

今回のSCISでの私のプレゼンのうち、日本の暗号学の権威の方々も含め皆さんから注目されたのも、政府暗号通貨「松田プラン」でした。これについては次回(その2)で述べたいと思います。

 

松田学のビデオレター、第104回は「ブロックチェーン革命~情報覇権戦争における日本の立ち位置とは?」

チャンネル桜2019年1月22放映。こちらをご覧ください。↓