【試論・松田プラン】その9 なぜ、答えは政府発行の暗号通貨なのか~財政再建の秘策~松田学の論考 | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

すでに永久国債オペを含む「松田プラン」については、このブログでも何度も論じてきましたが、その出口は政府暗号通貨の発行であるということについて、特に仮想通貨という新しく出現した世界に馴染みの薄い方には分かりにくい点もあろうかと思います。さらに少し、深堀りをしてみたいと思います。

●アベノミクスの異次元緩和から政府暗号通貨へ、その道筋

まず、統合政府でみた財政再建効果については、アベノミクスの異次元金融緩和→日銀保有国債が320兆円規模で増大→これを含めた日銀保有国債450兆円については統合政府ベースでは債権と債務が相殺され、政府の民間に対する債務は消滅している状態に→すなわち、国債が日銀当座預金という日銀の負債勘定に変換されている→この負債は返済義務のない負債である→概ね900兆円にのぼる国債発行残高の半分が事実上、消滅していることになる、というものであることは、繰り返し述べてきました。下図の通りです。


この財政再建効果を確定するために、日銀保有国債について満期が来るたびに永久国債に乗り換える「永久国債オペ」を実施するわけですが、その最大の難点であり、現実に実施できない理由となっている壁は何かといえば、それは、このオペで拡大した日銀のバランスシートが、これでは永久に拡大したままとなってしまうことです。

現在、海外では、いわゆる「仮想通貨」(「暗号通貨」という呼び方が正しいのですが)を法定通貨として発行することを検討する国々が現われ(中国などもそうです)、その中にはデンマークのように政府による電子通貨の発行を検討している国も出てきました。

日本でも政府暗号通貨を発行することとすれば、民間からの政府暗号通貨に対する需要に応える形で、日銀保有の永久国債を政府暗号通貨で償還していけば、日銀のバランスシートが縮小していくとともに、民間では通貨の多様化による利便性の増大が起こります。


つまり、拡大した日銀のバランスシートの資産負債両建てでの縮小が、政府暗号通貨の発行・流通の拡大とともに起こります。このメカニズムについては、【試論・松田プラン】その8↓をご参照ください。

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12382215128.html

●政府が通貨を発行することについて

現在はほとんどの国で、通貨を発行しているのは中央銀行ですが、元来、貨幣発行権は君主のみが持つ特権とされてきました。君主の特権といえば、モーツァルトのオペラ、フィガロの結婚が領主様の初夜権が題材となっていますが、通常なら禁断の、君主にしか許されない高権として位置づけられてきたのが貨幣発行権といえます。

ただ、この権限を濫用して国が貨幣を乱発したことが激しいインフレをもたらしたり、国家を衰退させてきた歴史的経験を踏まえ、ほとんどの資本主義国家では、通貨の発行は金融政策に預かる中央銀行に限定することで規律を確保するかたちをとっているものです。

多くの国では、政府管轄の印刷局(日本は国立印刷局)や印刷会社で製造した紙幣をいったん中央銀行に交付して、中央銀行が銀行券として流通させることが一般的です。ただし、現在でも一部の国では、政府機関が直接、紙幣を発行している事例があります。シンガポールの通貨であるシンガポールドルなどがそうです。

故・丹羽春喜氏(大阪学院大学名誉教授)は、政府の通貨発行権を「無体財産」と捉え、その一定額を日銀に売却することで、日銀はこれを資産としてバランスシートに計上し、同額を日銀にある政府口座に電子的に振り込むことで、政府は将来の財政負担(政府債務)にならない財政財源を自在に確保できるとしていました。しかし、これでは政府は何らの限定もなく通貨発行で財政支出を行うことができるようになりますから、経済の規律という点で現実的ではありません。実際には実現しないと思います。

ただ、政府に貨幣発行権があるのなら、本質的には、それは紙幣であっても硬貨であっても、あるいはカードに打ち込まれたポイントやブロックチェーン技術に基づいたインターネットで送金可能な電子通貨やクリプトキャッシュのような暗号記号列のかたちをとつたものであっても、物理的の形態の如何を問わず、政府にはこれらを貨幣として発行できると考えてもおかしくないはずです。

●政府紙幣の不幸な歴史

確かに、歴史を振り返ると、これまで政府が直接、通貨を発行するとロクなことがありませんでした。硬貨については、時の君主たちが金銀などの貴金属の割合を下げる「改鋳」によって「悪化が良貨を駆逐する」という言葉もあるように、通貨の信認の低下やインフレを招いてきた歴史があります。

ここで政府紙幣の歴史を辿ってみますと、日本でも江戸時代には「藩札」が乱発されたりしましたが、世界最初に政府紙幣を出したのは中国だとされています。

これは中国の四川で発行された交子(こうし)とよばれる紙幣で、当初は鉄貨の引換券として流通していましたが、やがて宋の政府が交子の発行を官業として国家が発行するようになり、これが政府紙幣の始まりです。


その後の元の時代には交鈔(こうしょう)が発行され、補助貨幣の面もあった交子とは異なり当初から通貨として流通しました。しかし、財政難により濫発されたことから、激しいインフレーションを招きました。元ののちの明でも、宝鈔(ほうしょう)が活発に発行されたが、インフレーションを免れなかったようです。

米国でも、独立戦争中の独立政府で、膨大な戦費をまかなう為に大陸紙幣 (Continental) と呼ばれる一種の政府紙幣が発行され、アメリカ合衆国建国後、地域紙幣として使用された実績があります。しかし、不換紙幣ということで濫発されたため価値が暴落し、信用のない通貨の代名詞になったようです。

その後、南北戦争時には戦費調達の必要性から1862年にリンカーン大統領によって、法貨条例(Legal Tender Act of 1862)が制定され、これに基づいて総額4.5億ドルのデマンド・ノート(Demand Note)が発行されています。これは米国の財務省が初めて発行した紙幣でしたが、リンカーン大統領の暗殺で発行が停止されたと言われています。

1933年にフランクリン・ルーズベルト大統領は、ニューディール政策の一環として政府紙幣の発行を決め、政策を成功に導いたと評価されており、1963年はケネディ大統領の大統領令によって政府紙幣が復活しましたが、その直後にケネディ大統領は暗殺されました。19711月以降は、米国では政府紙幣の新規発行は行われていないそうです。

日本では、明治の維新政府は、税制などの歳入システムが未整備のままスタートしたため、当初、政府支出の大部分は太政官札などの政府紙幣の発行によって賄われていました。当初は、デフレギャップが存在していたので、物価も上昇せず、経済も順調に拡大しましたが、1877年の西南戦争の戦費がかさみ、そのための政府紙幣が大量に発行されたことが原因でインフレが起こりました。農産物が高騰し、農村は潤ったものの、都会の生活者や恩給暮しの方々は困窮したようです。

そこで政府は、増税などによって政府紙幣の回収を始め、この結果、物価動向も落ち着きましたが、松方内閣(松方首相が大蔵大臣兼任)がさらに多くの政府紙幣の回収を行ったため、大幅に需要が減り、デフレになりました(松方デフレ)。

●法定暗号通貨は日銀ではなく、政府でなければならない理由

このように、政府が通貨を発行すると総じてロクなことがなかったのが歴史の教訓ですが、今回提案している政府暗号通貨は、これらとは全く異なる環境条件のもとで仕組まれるものです。

その前に、いま、暗号通貨を法定通貨として発行するということでは、中央銀行が発行する形をイメージする向きが多いようですが、これについては必ずしも賛成できない理由を述べておきたいと思います。

もし暗号通貨を「日銀コイン」として発行するなら、それは日本銀行券などと同じく日銀の負債になりますので、民間からの日銀コインとの交換要求は、同じく日銀の負債項目である日銀当座預金や日銀券発行残高の減少=日銀コインの増加ということになり、日銀の負債構成が変わるだけで、日銀の負債の総額は減りません。バランスシートの縮小も、日銀保有(永久)国債の減少にもつながらず、「出口」にはなりません。


暗号通貨の発行で多くの人々が懸念するのは、発行元が通貨使用者の個人情報を握ってしまう可能性があることですが、最悪なのは、人民元を暗号通貨で発行し、一帯一路での基軸通貨化を狙う中国の当局が日本人の情報を握ってしまうことです。だからこそ、私たちは日本円という法定通貨で信頼できる暗号通貨の発行を検討しなければならないのですが、この場合も、日本銀行と日本政府のいずれが個人情報を握る上でベターなのか、と言えば、すでに政府は、そういう意味で言えば、マイナンバー制度を運営しているわけですから、その管理運営にガチガチの制約が課されている政府のほうがまだマシといぅことになると思います。

法定暗号通貨を日銀コインとして仕組んだ場合、それは日銀の負債になるのに対し、政府暗号通貨として仕組めば、それを日銀が保有すれば、(永久)国債同様、それは日銀の資産になります。これを国債と等価交換し、市中銀行に売却すれば、国債を市中銀行に売却した時と同様、日銀の資産は減少し、同額の日銀当座預金の減少(市中銀行から日銀への支払)が起こり、日銀のバランスシートは縮小します。

●危機をチャンスに~いまの日本だからできる通貨のイノベーション~

これは民間の企業や個人が市中銀行の窓口に来て、政府暗号通貨を、自らの銀行預金口座から引き落としたり、現金と両替する形で購入しようとする際に起きる現象です。かつての政府通貨のように、政府が自らの意思で増発ができるものではありません。あくまで民間側の通貨多様化の要請に従う形で発行・流通量が増えていく性格のものです。

こうした民間側からの政府暗号通貨保有の要求に応えられるよう、銀行は支払い準備として日銀当座預金を、日銀は政府暗号通貨と交換する資産として(永久)国債を、それぞれ相当な規模で準備しておかねばなりません。もし、日銀当座預金がない状態で政府暗号通貨の購入要請が銀行に来た場合には、銀行は貸付など運用資産を引き揚げて政府暗号通貨を日銀から購入する財源を確保することを迫られ、信用収縮効果が経済に生じてしまいます。

その意味で、異次元緩和で国債と日銀当座預金を莫大な規模で積み上げて、政府暗号通貨をもっぱら民間の要請に従う形で発行するに必要な準備を用意してくれたアベノミクスは、政府暗号通貨を規律ある形で発行できるチャンスを創ってくれたと評価できるものです。現在、市中マネー(マネーストック)は、狭義で約700円、広義で約1,000兆円。その一部が政府暗号通貨に振り替わる額として、450兆円の国債資産や400兆円近い日銀当座預金は、準備としては十分な水準でしょう。

結局、以上の「松田プラン」のもとで、経済に中立的な形(市中マネーは増えない)で、①法定という価値に裏付けられた暗号通貨の流通(社会の利便性と安心)、②日銀の出口戦略の円滑化、③財政再建、が、同時達成されることになります。

日本が未曽有な財政悪化(国債累増)となったことも、日本経済が戦後未曽有のデフレになって、いつまでも未曽有な国債爆買いを続けても2%インフレ目標が達成できずに悩んでいることも、これを「危機」とは捉えず、「危機はチャンスなり」とチャンスに転じる。そして、世界に先駆けて未来社会の通貨インフラを整備し、様々な暗号通貨が行き交う中で通貨価値のアンカーとして法定の「政府暗号通貨」をもって暗号通貨のメッカとして日本は世界の中でのポジションを取っていく。松田プランは、今までの財政金融政策の行き詰まりや、財政破綻の懸念という危機を、未来を拓くチャンスに転じようとするものです。

 

松田学のビデオレター、第88回は「

 

 

チャンネル桜612日放映。

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