平壌(ピョンヤン)にトランプタワーが建つ日~ディールの時代の処世術~松田学の論考~ | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

平壌(ピョンヤン)にトランプタワーが建つ日~ディールの時代の処世術~松田学の論考~

トランプが金正恩と「意気投合した」612日の歴史的な米朝首脳会談も、専門家の間では必ずしも評判が良くないようです。

合意された声明はこれまでの北朝鮮の核問題に関する声明と比べても弱い内容だ、会談成功のメルクマールとされてきた核廃棄のCVID(完全でComplete,検証可能でVerifiable, and 不可逆的なIrreversible 解体Dismantlement)については、その期限も方法についても明確な合意無し、トランプよりも金正恩がより多くを得た北朝鮮ペースの結果だった、…と。

かたや、米国世論の受け止めは上々で、トランプはまさに中間選挙対策という目先の成果に走ったとの見方もあります。

ただ、最近の貿易問題について、WTOルールを無視するが如く米国が保護主義的制裁措置を振り回す暴挙にも見られるように、国際社会は「ルールからディールへ」と、時代が変わったと言われます。何事にも表と裏がありますが、ディールの世界で大事なのは表の合意文書よりも、裏取引のほうかもしれません。

トランプのディールの裏側には、米国の圧倒的な軍事技術があるように思います。そもそも半年前に金正恩が態度を180度転換したのは、最先端の科学技術に裏付けられた強大な米国軍事力への恐怖からでした。かつて湾岸戦争の際にスターウォーズにも擬せられた米国の軍事技術はその後、想像を超えてさらに格段と進歩しており、北朝鮮を数時間で壊滅させられるとも言われます。

だとすれば、CVIDも同じこと。従来のIAEA(国際原子力機関、International Atomic Energy Agency)による査察に頼る必要はなく、米国の今の軍事技術をもってすれば完全に検証可能なのかもしれません。もし、四半世紀にわたって交渉相手を騙し続けてきたのと同じことを北朝鮮がすれば、今度こそ「炎と怒り」が待っている。

科学技術の進歩は外交や安全保障の枠組みまで変えてしまいます。

そうなると大事なのは、金正恩の立場を強めてあげて、今回の会談から帰国した彼がリーダーシップをとって、現実には長い年月がかかる、国内政治的にも大変なCVIDという難事業を完遂できるようサポートすることだということになります。

CVIDでギリギリ追い詰めるより、金正恩に花を持たせたほうが得策。表向きは米韓軍事演習を停止し、将来の在韓米軍の縮小・撤収をも示唆し、北朝鮮が繁栄する明るい未来像をプロモーションビデオで見せる…、北朝鮮を親米国へと導く演出が満載の会談でした。

表で譲り、裏で実を取る。本質が表には現れないのがディールというもの。現実には、金正恩はCVIDに向けてがんじがらめ。そして非核化が実現した暁には、北朝鮮の首都、平壌(ピョンヤン)にトランプタワーが建ち、マクドナルドが進出し、成長の果実の一部はトランプの懐に…? トランプ流のビジネスディールの面目躍如ということかもしれません。

ただ、そこに至る前段階で必要な経済的裏付けとなると、米国はカネは出さず、ここからは友人であるシンゾウの出番と言わんばかりに、いつの間にか日本は、北朝鮮への経済支援を担う役割へと追い込まれているようです。拉致問題が解決していないのに、日本の納税者には到底受け容れられないでしょう。いかなるソリューションがあり得るのか、日本こそ、これからディール能力が問われる正念場です。

米国の軍事力がそうであるように、ディールで大事なのは圧倒的に強い取引材料を持つこと。しかし、日本の場合、軍事力でなければ経済力だとしても、財政事情は先進国で最悪。ODA予算もピーク時の半分です。

今回、政府は「骨太の方針」で基礎的財政収支(プライマリーバランス)の達成目標を2025年度まで先送りすることを閣議決定しました。消費税率引上げを政治的に先送りし続けたことで、超高齢化で膨らむ社会保障費に財源を奪われ続け、他のことには、もはや先進国で最も「無い袖は振れない」状態の政府なのが日本です。

ディールで得るべき成果は拉致問題の解決だけではありません。北朝鮮はレアアース(希土類)が世界の確認埋蔵量の2倍以上とされるほどの資源大国。

もちろん、財政だけが日本の経済力ではありませんが、今後、各国間の様々なディールの中で何が起こるか分からない国際情勢のことを考えれば、国家としての備えや危機管理に向けて、そろそろ財政の対応力の回復ということも真剣に考えるべきときだと思います。

   このディールの時代にあって、目先の選挙のことばかりを考えてはいけないのは日本のほうかもしれません。