本論文は、新鮮胚移植による体外受精と顕微授精で生まれた赤ちゃんの異常に関する中国1施設約8万周期での検討です。
Fertil Steril 2024; 121: 982(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.025
要約:2009年1〜12月に北京大学の1施設で採卵および新鮮胚移植を行った夫婦を対象に、体外受精46,167周期と顕微授精33,247周期で妊娠した赤ちゃんの先天異常について後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目はありませんでした)。
体外受精 顕微授精 修正オッズ比(95% 信頼区間)
先天異常 5.44% 5.78% 1.098(0.787〜1.532)
神経系 0.48% 0.59% 1.259(0.380〜4.177)
顔面 0.64% 0.52% 0.737(0.254〜2.139)
循環器 1.39% 1.85% 1.368(0.735〜2.546)
呼吸器 0.27% 0.67% 2.059(0.601〜7.048)
兎唇 0.43% 0.52% 1.087(0.358〜3.305)
消化器 0.43% 0.44% 1.227(0.406〜3.710)
生殖器 0.27% 0.15% 0.609(0.102〜3.648)
尿路系 0.43% 0.22% 0.501(0.121〜2.069)
骨格筋 0.96% 0.89% 1.192(0.547〜2.599)
染色体異常 0.21% 0.15% 0.808(0.192〜3.392)
なお、先天異常のみられた児において、妊娠中の合併症(妊娠高血圧、妊娠糖尿病)、出生児体重、出産方法、出生時妊娠週数、性比について2群間で有意差を認めませんでした。
解説:1992年に顕微授精が導入され、無精子症も含め重症の男性不妊の方でも赤ちゃんを授かることができるようになりました。現在、顕微授精は世界中で最も実施されているART治療(体外受精、顕微授精)の一つになっていますが、男性因子でない方へのメリットは証明されていません。当初、顕微授精では染色体構造異常や染色体異数性が多いとされていましたが、最近の研究では、顕微授精による赤ちゃんの染色体異常リスクの増加は否定的です(Hum Reprod Update 2021; 27: 801、J Assist Reprod Genet 2022; 39: 1683)。2023.11.23「体外受精 vs. 顕微授精」でご紹介した記事は、北欧3カ国約8万周期での検討であり、体外受精と比べ顕微授精で呼吸器系異常と染色体異常が有意に高いことを示しています。本論文は、中国1施設約8万周期での検討であり、体外受精と顕微授精で有意差を認めていません。
下記の記事を参照してください。
2023.11.23「体外受精 vs. 顕微授精」
2022.3.9「☆顕微授精の是非:紙面上バトル」
2019.11.19「Q&A2387 ☆産婦人科医から質問:不妊治療の怖さについて」