反復着床不全(RIF):オピニオン | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、反復着床不全(RIF)に関するオピニオンです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 754(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.11.036

要約:ART治療成績の向上により、良好胚の単一胚移植が行われるようになりました。妊娠への期待値が高い分、妊娠判定が陰性だった場合の心の準備ができていないことが少なくありません。そのため、着床しない場合には、子宮に問題があると考えがちです。何回も陰性判定の場合を反復着床不全(RIF)と呼びます。PGT-A正常胚を3回移植すると95.2%の方の胚が着床し、92.6%の方が出産に至るとのデータから、真のRIFは5%未満であり実は極めて少数派であるとの報告がありました(2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?」でご紹介)。このため、2022年7月ルガーノで開催されたRIF国際会議では、少なくとも3回の正常胚移植が不成功に至るまで、RIFと呼ぶべきではないとしました(2023.7.19「☆2022年反復着床不全ワークショップの声明」でご紹介)。ただし、この元論文は、ホルモン補充周期移植で実施しているため、自然周期あるいは修正自然周期でも同様なのかは不明です。

 

一方、正常胚が全くできない方がおられますが、この方はRIFではありません。正常胚なのかどうかはPGTを実施しなければ判断できません。また、イントレロームの突然変異が常に生じてしまう方もおられるかも知れません。イントレロームは、ヒトの初期発生に不可欠な遺伝子で、欠落により生命維持ができなくなる遺伝子領域です。イントレロームの突然変異については現在研究が進められています。

 

解説:確かに、PGT正常胚で検討しなければ、真の着床障害と判断できません。PGT未実施の胚で陰性が続いた場合に、RIFと誤って判断される可能性があるのも納得できます。しかし、2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?」でご紹介した論文では、初回胚移植では4,429名を対象にしていますが、ドロップアウトが1回目から2回目に571名、2回目から3回目に176名おられ、全体の17%に相当する人数です。これは、決して無視できないと思いますが、そこには全く触れていません。

 

余談ですが、ホルモン補充周期移植は、当初ドナー卵子を用いた閉経女性に行われました。その妊娠成績が非常に良好であったため、閉経前の女性にも行われるようになりました。エストロゲンによるプライミング後の黄体ホルモンの投与期間に着床期が依存することが判明しました。着床の窓は、月経開始からの日数ではありませんのでご注意ください。