多胎妊娠における排卵誘発剤やART治療の関与 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、米国での多胎妊娠における、排卵誘発剤やART治療(体外受精、顕微授精)の関与を検討したものです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 756(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.024

要約:1949〜1966年までの多胎出生率と比べ、排卵誘発やART治療により多胎出生率がどの程度増加したかについて、米国疾病管理予防センターの国民人口動態統計(1967~2021年)および生殖補助医療監視システム(1997年~)のデータを用い、人種や年齢を考慮した検討を行いました。1967〜2021年の双子の出生率は2014年の最高値まで1.7倍に増加(出生千人あたり33.9人)しましたが、その後は減少に転じ出生千人あたり31.2人となりました。一方、三つ子以上の出生率は、1998年の最高値まで6.7倍に増加(出生千人あたり1.9人)しましたが、その後は減少に転じ出生千人あたり0.8人となりました。2021年での多胎出生の内訳は、35歳未満女性の自然妊娠で56.1%、排卵誘発剤で19.5%、35歳以上女性の自然妊娠で16.8%、ART治療で7.6%でした。なお、2009〜2021年の期間では排卵誘発剤による多胎妊娠の割合は一定ですが、35歳未満35歳以上ともに自然妊娠の割合が増加し、ART治療の割合は減少しました。

 

解説:多胎妊娠の増加は、母子ともに健康への悪影響があるため、重大な課題です。米国では、1967年から排卵誘発剤が、1981年からART治療が導入され、出生率は著しく上昇しましたが、同時に多胎妊娠も飛躍的に増加しました。1998年以降、米国のガイドラインで推奨される移植胚数は徐々に減少し、2017年には38歳未満や正常胚の移植は原則1個となりました。これに伴い、多胎妊娠が顕著に減少しました。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、多胎妊娠における排卵誘発剤やART治療の関与は27.1%であり、残りの3/4は自然妊娠によることを示しています。つまり、米国での対策が奏功したわけです。なお、日本では、世界で最も早く2008年に単一胚移植を導入したため、最も多胎妊娠が少ない国となっています。

 

下記の記事を参照してください。

2022.3.28「米国での胚移植の現状:単一 vs. 複数

2018.2.7「単一胚移植による双子の確率は?

2017.11.21「米国でも単一胚移植の方向へ

2017.4.26「☆胚移植の個数に関するガイドライン:ASRM

2016.9.23「米国と日本の体外受精治療成績の比較

2016.3.18「単一胚移植への日本の取り組み