Q&A4037 伊藤白斑と第2子について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 貴院の治療にて2022年6月に第一子を出産した者です。その際はありがとうございました。この度、第二子の治療方針にてご相談したく、コメント欄に投稿させて頂きました。以下第一子の時の治療歴です。(夫婦共に1990年生まれ)

2018年2月 結婚
2019年1月 避妊
2019年4月 A産婦人科受診、タイミング療法開始
 10月まで内診の卵胞確認や排卵検査薬でタイミングを計るも陰性
2019年6月 夫A産婦人科にて精液検査→精子 0 が判明
2019年7月 夫B不妊治療専門病院へ
 精索静脈瘤グレード2発覚 手術はせずに漢方薬と内服薬で経過観察
2019年11月 自身もB病院に転院
 ヒューナーテスト良好、卵管造影問題なし
2019年12月〜 人工授精計4回陰性(内1回は精子 0 で実施できず)
2019年4月 体外受精にステップアップ
 AMH 0.65
 低刺採卵1回目 採卵数4個 すべてふりかけ法で実施→Day5 4AA 4AA 3CBの3個凍結
 夫の精索静脈瘤根治術も実施
2020年5月 ホルモン補充移植1回目AHAあり4AA→6AA 陰性
2020年6月 ホルモン補充移植2回日AHAあり4AA→5AA 陰性
2020年7月 酸化ストレス&抗酸化力検査:Cマイナス、フローサイトクロスマッチ:陰性、子宮内フローラ:98%、NK細胞活性:16% 、Th1/Th2:8.9%、慢性子宮内膜炎検査:13個/20HPF
2020年8月 ERA:窓ズレなし(133時間)
 精子機能検査(DFI,ORP検査)DFP : 45.65%、ORP: 2.76%
2020年9月 ホルモン補充移植3回目 AHAあり 3CB→6CB 陰性
2020年11月 低刺激採卵2回目 採卵数5個(うち1個は変性卵)すべてふりかけ法で実施→Day4 3AA 3BA の2個凍結
2021年1月 子宮ポリープ発覚、切除術:小さいのが複数あった
2021年2月 ホルモン補充周期移植4回目 AHAあり3AA→6BA 陰性
2021年4月 リプロダクションクリニック大阪に転院
 不育症血液検査セット ビタミンD、凝固系第加因子59%それ以外は問題なし→ビタミンDサプリメント、移植日からヘパリン16wまで、バイアスピリン28wまでで対応
 精子採取できずTESEを勧められる
2021年5月 夫の遺伝子検査問題なし
2021年6月 fresh simple TESE-ICSI

 アンタゴニスト法採卵1回日(採卵通算3回目)採卵数9個すべて顕微受精で実施→Day3 7celIG1 1個凍結、Day5 3АА 4AA 3СВ の3個凍結
 慢性子宮内膜炎:陰性、子宮収縮検査:問題なし
2021年8月 ERPeak:窓ズレなし113時間
2021年9月 子宮鏡検査:問題なし
 ホルモン補充移植1回目(通算5回目)SEET 法、胚盤胞2個移植(4AA+3CB)AHAあり エングリオグルー→BT12 hCG:649.8 陽性判定→41w5d 計画誘発分娩+吸引分娩 2936g女児出産

今回無事に出産しましたが、子どもに遺伝疾患(皮膚神経症候群の伊藤白斑)があります。産婦人科で通院していましたが胎児の大きさが予定日よりもいつも1wくらい小さく、医療センターに転院し胎児発育不全とエコー検査で左の腎臓が見当たらないと言われ、生まれてからは検査等で多合趾、左遊走腎、先天性脳室上衣下のう胞が分かりました。生後まもなくしBlaschko線にそって白斑が見られ遺伝科の先生に「伊藤白斑」と診断されおります。
①今回残っている胚盤胞を移植した場合に子どもに遺伝疾患が出るリスクは高くなりますか。

②また先生なら遺伝疾患の子をもつ夫婦に着床前検査をすすめますか。進めるならどんな検査を進めますか。
③遠方からの通院、尚且つ育児も並行してになるので通院回数をなるべく少なくしたいと思っておりますが、移植前にしておくべき検査はしたいと思ってます。卵管造影や慢性子宮内膜炎検査、子宮収縮検査などがあると思いますが、どの検査は実施すべきで、どのように進めていけば効率が良いですか。
④Day3の7G1とDay5の3ААを凍結しています。今回移植するなら先生ならどのような治療方針で進めていきますか。SEET液はもうないので、おすすめのオプションがあれば教えて欲しいです(移植を1個ずつの場合は優先順位を教えて頂きたいです)。

 

A 

①伊藤白斑の60%で染色体モザイクを認めますが、様々なパターンがあり、単一の遺伝子異常によるものではありません。ご夫婦には何ら異常はないと思いますので、今回の伊藤白斑は突然変異によるものと考えられます。したがって、残っている胚でのリスクは高くならないと思います。

②単一の遺伝子異常によるものの場合には、PGT-Mにより疾患の原因遺伝子のない胚を選択することができますが、日本産科婦人科学会に個別に申請し許可を得ることが必須です。PGT-Mは、基本的に大学病院でしか実施できません。
③出産後に変化する可能性のあるため実施しておきたいのは、慢性子宮内膜炎(BCE検査)、着床の窓(ERPeak検査)、子宮鏡検査です。また、以前引っかかっていた項目と第2子や第3子で必須項目の血液検査をします。もっとも効率が良いのは、月経周期3〜5日目に来院していただき、1周期で検査を全て網羅することです。
④通常は3АА→7G1の順番で1個ずつ移植しますが、SEET液がない場合にSEETと同様な効果を狙って、二段階移植(7G1+3АА)をすることもできます。ただし、この場合にはふたごのリスクが増加します。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。