男性のメソトレキセート(MTX)服用によるお子さんへの影響は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、男性のメソトレキセート(MTX)服用によるお子さんへの影響に関する国家規模の検討です。

 

Fertil Steril 2023; 120: 661(スウェーデン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.05.005

Fertil Steril 2023; 120: 670(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.07.004

要約:2006〜2014年にスウェーデンで出産した全てのお子さんとその父親を対象に、妊娠時にMTX服用中だった父親223名、妊娠の2年以上前にMTX服用を中止した父親356名、MTX服用なしの父親809,706名の3群に分け、お子さんの健康状態を後方視的に調査しました。交絡因子はロジスティック回帰分析により除外しました。3群間で、先天異常、早産、在胎期間に有意差を認めませんでした。妊娠時にMTX服用中だった父親では対照群と比べ顕微授精の実施率が有意に高くなっていましたが(オッズ比3.9、95%信頼区間2.2〜7.1)、妊娠の2年以上前にMTX服用を中止した父親での顕微授精の実施率は対照群と同等でした。

 

解説:MTXは細胞傷害性抗炎症性を持つ薬剤であり、低用量では様々な慢性炎症性疾患に用いられます。また、DNA合成を抑制するため、高用量では抗癌剤としての効果を発揮します。妊娠中の女性へのMTX投与は、お子さんの先天異常との関連が報告されています。一方、低用量で用いられた男性で、精子DNA損傷を誘発したり、MTX治療中に妊娠したお子さんの健康被害が生じるか否かについては明らかではありません。このため、男性では妊娠3か月前(精子を作るための期間)にMTX治療を中止することが推奨されています。父親のMTXが子孫の健康に影響を与えるかどうかを調査する研究が複数行われていますが、症例数が少ないため結論は得られていません。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、男性のMTX治療によるお子さんの先天異常、早産、在胎期間への影響はないことを示しています。しかし、男性のMTX治療により顕微授精の実施率が高くなっていました。スウェーデンでは男性因子のない場合に顕微授精を行うことは推奨されていないため、顕微授精の増加は精液所見の低下を示唆します。また、妊娠の2年以上前にMTX服用を中止した父親での顕微授精の実施率は増加しないことから、MTXによる精液所見の低下は永続的ではないことを示唆します。 

 

コメントでは、国家規模の検討を実施した本論文を賞賛しています。

 

下記の記事を参照してください。

2018.2.19「☆☆葉酸とメトホルミン  

2014.10.29「メトトレキサート(MTX)の影響

2013.11.19「☆リウマトレックス(MTX)の影響は?」