メトトレキサート(MTX)の影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

子宮外妊娠の際にメトトレキサート(MTX)を用いた場合の治療奏功率は64~94%と報告されています。もちろんMTX治療が可能な場合には条件がありますが、これにより手術を避けることができます。MTXは、絨毛(胎盤)だけをターゲットとするばかりでなく、原始卵胞~胞状卵胞へと成長する卵子にも影響がある可能性が報告されており、2013.11.19「☆リウマトレックス(MTX)の影響は?」でご紹介致しました。本論文は、採卵に与えるMTXの影響をメタアナリシスにより調査したところ、有意な影響を認めなかったことを示しています。

Hum Reprod 2014; 29: 1949(フランス)
要約:2013年12月までに発表された論の中で、子宮外妊娠の治療のためMTXを用い、その前後で採卵を行った結果を明記した7論文329名のメタアナリシスを行いました。MTX治療の前後で採卵数には有意な差を認めませんでした(2論文で増加、5論文で減少)。また、FSHの基礎値、hMG/FSH製剤の投与量、E2値にも有意差はありませんでした。

解説:MTXは、婦人科では絨毛癌(hCG産生腫瘍)の治療薬として広く用いられている抗癌剤です。MTXはこのような癌化した「絨毛(胎盤)」のみならず、正常な「絨毛(胎盤)」にも効果があるため、存続絨毛症(流産手術後、hCG値が正常になるまでの経過が長い場合)や妊娠(絨毛)部位の特定できない異所性妊娠(子宮外妊娠)の場合の治療に用いられています。つまり、胎盤をやっつけてしまう薬剤ですから、妊娠中には使えません。なお、慢性関節リウマチの治療薬であるリウマトレックスの成分もMTXです。

2013.11.19「☆リウマトレックス(MTX)の影響は?」でご紹介した論文では、MTX治療後180日以内に採卵した場合、MTX治療後で採卵数が有意に少なくなっていましたが、180日以降ではMTX治療前後の採卵数に違いはありませんでした。本論文は、この論文も含めたメタアナリシスによりMTXの影響を分析したところ、採卵数には有意な変化を認めなかったことを示しています。ただし、メタアナリシスに含まれる論文のMTX後の採卵がどの時期に行われたのか明記してありませんので、180日の前なのか後なのか定かではありません。また、7つの論文のうち、2論文で増加、5論文で減少ですので、減少している報告が多いのも心配です。結論を導くためには、もっと症例数を増やした検討が必要です。

なお、「180日」とは、まさに原始卵胞→一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞へと成長する期間と一致していますので、MTXは、卵胞が発育してくるところを一時的に妨害している可能性が考えられます。