本論文は、ドナー胚による妊娠リスクを検討したところ、妊娠高血圧が有意に増加することを示しています。
Fertil Steril 2023; 119: 69(フランス)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.09.024
要約:2003〜2018年にフランスの6ヶ所の施設で実施した、ドナー胚による73名の単胎妊娠と自己卵による136名の単胎妊娠の妊娠及び分娩経過について後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差がみられた項目を赤字表示)。
ドナー胚 自己卵 P値
妊娠高血圧 24.6% > 11.9% 0.04
妊娠高血圧腎症 17.5% > 4.6% 0.01
高血圧既往 7.0% 7.3% NS
妊娠初期出血 13.0% 11.9% NS
妊娠糖尿病 14.0% 13.9% NS
胎児発育遅延 0% 1.8% NS
前期破水 3.5% 3.7% NS
早産 1.8% < 10.9% 0.04
入院 32.1% 20.9% NS
帝王切開 47.3% > 29.2% 0.02
NS=有意差なし
妊娠高血圧腎症に関与する可能性のある因子(ドナー胚、レシピエント年齢、既往妊娠歴、BMI、ホルモン補充周期、移植胚数)を多変量解析により分析したところ、ドナー胚のみが有意に関与していました。また、出産した赤ちゃんに関しては、ドナー胚と自己卵で有意差のみられる項目はありませんでした。
解説:フランスでは、ドナー胚移植は、不妊治療から得られた余剰胚のみが認められています。ドナー卵子やドナー胚は、レシピエントにとって完全な同種間異物(allogenic)であるため、妊娠高血圧や妊娠高血圧腎症のリスクが高いとされています。また、凍結胚、胚盤胞、ホルモン補充周期なども妊娠高血圧のリスク因子として知られています。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、凍結胚、胚盤胞、ホルモン補充周期と妊娠高血圧との有意な関連はなく、ドナー胚により妊娠高血圧(特に妊娠高血圧腎症)が有意に増加することを示しています。
下記の記事を参照してください。
2022.3.17「☆ドナー卵子での出産に影響する因子」
2021.9.23「ドナー卵子での男性年齢の影響」
2021.4.29「ドナー卵子を用いて精子の影響を検討」