☆人工授精におけるAMH値と年齢と排卵誘発剤 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、人工授精におけるAMH値と年齢と排卵誘発剤の関連を検討したものです。

 

Fertil Steril 2022; 118: 1048(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.09.010

要約:2015〜2019年に排卵誘発剤を用いた人工授精を実施した方4182名、7169周期を対象に、AMH<1.0ng/mLとAMH>=1.0ng/mLの2群に分け、経口製剤(クロミッド、レトロゾール)と注射製剤(FSH製剤、HMG製剤)の排卵誘発剤による妊娠成績を後方視的に検討しました。なお、クロミッドは50〜150mg/日x5日間、レトロゾールは2.5〜7.5mg/日x5日間、FSH製剤及びHMG製剤はそれぞれ医師の裁量に任せ、HCG注射によるトリガー後24〜36時間で人工授精を行いました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

経口製剤(クロミッド、レトロゾール)

<35歳    AMH<1.0  >=1.0ng/mL  オッズ比(信頼区間)

臨床妊娠率   18.1% =  16.8%    1.05(0.74〜1.49)   

流産率     2.7%  =  1.9%    1.36(0.49〜3.74) 

妊娠継続率   15.4% =  14.9%    1.01(0.68〜1.48) 

35〜40歳  AMH<1.0  >=1.0ng/mL  オッズ比(信頼区間)

臨床妊娠率   12.8% =  13.6%    1.00(0.77〜1.28)   

流産率     2.8%  =  2.6%    1.14(0.65〜2.02) 

妊娠継続率   10.0% =  11.0%    0.96(0.72〜1.28) 

40<歳    AMH<1.0  >=1.0ng/mL  オッズ比(信頼区間)

臨床妊娠率   4.1%  =  4.6%    1.03(0.49〜2.18)   

流産率     1.4%  =  1.3%    1.06(0.28〜4.01) 

妊娠継続率   2.8%  =  3.3%    1.01(0.41〜2.52) 

 

注射製剤(FSH製剤、HMG製剤)

<35歳    AMH<1.0  >=1.0ng/mL  オッズ比(信頼区間)

臨床妊娠率   13.3% <  26.9%    0.51(0.28〜0.92)   

流産率     1.2%  =  3.4%    0.43(0.05〜3.35) 

妊娠継続率   12.1% <  23.5%    0.52(0.28〜0.97) 

35〜40歳  AMH<1.0  >=1.0ng/mL  オッズ比(信頼区間)

臨床妊娠率   14.1% <  21.7%    0.67(0.48〜0.93)   

流産率     1.6%  =  3.3%    0.47(0.16〜1.35) 

妊娠継続率   12.5% <  18.5%    0.70(0.49〜0.99) 

40<歳    AMH<1.0  >=1.0ng/mL  オッズ比(信頼区間)

臨床妊娠率   3.9%  =  5.3%    0.81(0.33〜1.97)   

流産率     0.9%  =  1.3%    0.67(0.10〜4.75) 

妊娠継続率   3.0%  =  4.0%    0.86(0.31〜2.35) 

 

胎児数   経口製剤(クロミッド、レトロゾール)  注射製剤(FSH製剤、HMG製剤)

        AMH<1.0  >=1.0ng/mL       AMH<1.0  >=1.0ng/mL

単胎      86.9%    89.2%         81.4%    68.9%  

双胎      13.1%     10.4%         13.6%    23.0%

品胎以上     0%     0.4%          5.1%     8.1%

 

解説:低AMHでは人工授精の妊娠成績が果たして良くないのか、排卵誘発剤はどのように使えば良いのかに関する明確な指針はありません。本論文は、人工授精におけるAMH値と年齢と排卵誘発剤の関連を後方視的に検討したものであり、経口製剤(クロミッド、レトロゾール)を使った場合の妊娠成績はAMH値によらないこと、注射製剤(FSH製剤、HMG製剤)を使った場合には、40歳以下の場合にのみAMH>=1.0ng/mLで妊娠成績が良好になることを示しています。ただし、注射製剤を使った場合には(低AMHの方でも)多胎妊娠率が高くなりますので、注意が必要です。

 

下記の記事を参照してください。

2022.3.25「多胎妊娠を防ぐために:ASRMの見解

2022.1.18「クロミッドでの多胎妊娠は?

2021.1.28「レトロゾールの新しい使用法

2020.9.18「☆35歳以上の女性の自然妊娠の確率

2020.7.5「一般妊娠治療における排卵誘発剤のお子さんへの影響は?

2019.1.21「原因不明不妊症の治療戦略:人工授精or待機療法

2018.6.26「☆人工授精で推奨される方法

2018.6.9「人工授精の刺激法 その2

2018.6.7「人工授精の刺激法 その1

2018.5.28「原因不明不妊あるいは軽度男性不妊の方の治療方針

2016.11.21「人工授精での黄体補充は必要か

2014.5.20「☆人工授精:妊娠に寄与する因子

2013.7.21「☆☆人工授精を何回やったらよい?