人工授精の刺激法 その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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2018.6.7「人工授精の刺激法 その1」の記事は、人工授精の刺激法について後方視的に検討したものでしたが、本論文は、人工授精の刺激法について前方視的に検討したものです。

 

N Engl J Med 2015; 373: 1230 (米国)doi: 10.1056/NEJMoa1414827

要約:米国の12施設で、18〜40歳の原因不明不妊女性900名を対象に、刺激法別にランダムに3群に分け人工授精を行い、刺激法別の妊娠成績を前方視的に最大4周期まで検討しました(AMIGOSスタディー)。なお、原因不明不妊とは少なくとも片側の卵管が通っており、排卵があり、子宮形態異常がなく、精子数が500万/mL以上としました。また、卵巣刺激は、①クロミフェン300名、②レトロゾール299名、③HMG301名の3群としました。結果は下記の通り。

 

        クロミフェン     レトロゾール       HMG             

臨床妊娠率  28.3%(85/300)  22.4%(67/299)*  35.5%(107/301)* 

出産率    23.3%(70/300)  18.7%(56/299)  32.2%(97/301) 

多胎妊娠率   9.4%(8/85)    13.4%(9/67)*  31.8%(34/107)* 

品胎        0(0/8)      0(0/9)    29.4%(10/34)   

*P<0.001(対応する2群間に有意差あり)

 

なお、胎児異常や妊娠合併症に有意差は認めませんでした。

 

解説:2018.6.7「人工授精の刺激法 その1」の記事は、人工授精の刺激法について後方視的に検討したものであり、多胎妊娠を避けつつ妊娠率を向上させる刺激法としてレトロゾールを推奨しています。本論文は、人工授精の刺激法について前方視的に検討したものであり、HMG群と比べ妊娠率は低下するものの多胎妊娠を避ける刺激法としてレトロゾールを推奨しています。人工授精の刺激法にレトロゾールを推奨すると言う結論は同じですが、ふたつの研究での妊娠率があまりに違いすぎます。もちろん白人より黄色人種の妊娠率が低いことがその根底にあるとは思います。本論文には薬剤の使用量の記載がありませんので何とも言えませんが、本論文ではHMG製剤の使用量がかなり多いのではないかと推察します。