不妊症の免疫学的検査・治療 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、不妊症の免疫学的検査・治療に関するFertil Steril誌の今月の特集です。

 

Fertil Steril 2022; 117: 1107(オーストラリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.04.023

要約:原因不明着床障害や原因不明不育症では、種々の免疫関連因子が不適切に変化している可能性があります。中でも重要であると現在考えられているのは、制御性T細胞(Treg)、エフェクターT細胞、子宮NK細胞(uNK)、マクロファージ(M1、M2)、樹状細胞です。しかし、これらの制御機構は極めて複雑であり、現在行われている免疫学的検査では単純すぎるため、正確な判断ができていません。免疫細胞のネットワークが解析できる検査、安全で効果的な治療の開発が望まれます。

 

Fertil Steril 2022; 117: 1121(オーストラリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.02.010

要約:男性の免疫学的不妊は抗精子抗体(ASA)ですが、検査方法と基準値が確立していないという問題点があります。男性の抗精子抗体の原因としては、精巣損傷(事故、手術)や感染などによる血液ー精巣関門の破綻が考えられますが、最も多いのは原因不明(特発性)です。男性の抗精子抗体の治療で最も良いのは顕微授精です。適切な検査法の確立が急務です。

 

Fertil Steril 2022; 117: 1132(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.04.009

要約:原因不明着床障害は、身体的や精神的な苦痛になるだけではなく、生殖年齢の女性にとって大きな障害となります。不妊症の免疫学的検査には次のものがあります。Treg、Th17、Th1/Th2、EIP(endometrial immune profile)、EDS(endometrial decidualization score)、HHV-6A(endometrial human herpesvirus-6A)、BCL6(endometrial B cell CLL/lymphoma 6)、uNK、抗リン脂質抗体、抗核抗体、抗甲状腺抗体。しかし、これらの検査の意義が証明されている訳ではありません。したがって、これらの検査に基づく治療は過剰診療になる可能性があります。

 

Fertil Steril 2022; 117: 1144(英国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.04.015

要約:不妊症の免疫学的治療には以下のものがあり、これまでに報告された論文のメタアナリシスを行いました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示、ただしいずれの論文もエビデンスレベルは低いものです)。

 

治療法        オッズ比(信頼区間)  P値

低用量アスピリン    1.04(0.81〜1.33)  NS

ヘパリン        1.55(0.80〜3.00)  NS

ステロイド       1.25(0.74〜2.10)  NS

アスピリン+ステロイド 1.29(0.97〜1.71)  NS

G-CSF子宮注入     1.52(1.11〜2.10)  0.01(プラスの効果)

G-CSF皮下注      1.52(0.77〜3.00)  NS

イントラリピッド    1.78(0.95〜3.34)  NS

IVIG          1.28(0.32〜5.16)  NS

LIF子宮注入       0.47(0.24〜0.91) 0.02(マイナスの効果)

末梢血単核細胞子宮注入 2.03(1.33〜3.10)  NS

 

解説:原因不明不妊症には免疫学的異常が含まれるものと推測されますが、有用性がはっきり証明された免疫学的検査は現在のところありません。いくつかの研究では免疫学的治療の効果を認めるものもありますが、母集団にばらつきがありエビデンスレベルの低い論文であるため、有用性がはっきり証明された治療法は現在のところありません。原因不明不妊症の免疫学的治療は、個別対応による治療が良いのではないかと推察されます。

 

Fertil Steril 2022; 117: 1105(オーストラリア)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.04.018

コメントでは、エビデンスの確立が急務であり、それに基づく治療が必要であるとしています。

 

不妊症・反復着床障害(RIF)については、下記の記事を参照してください。

2021.12.19「反復着床障害(RIF) その3

2021.12.18「反復着床障害(RIF) その2

2021.12.17「反復着床障害(RIF) その1

 

不育症の免疫学的治療については、下記の記事を参照してください。

2022.2.13「不育症の免疫学的治療

2021.9.14「☆Lancet誌 不育症総説3

2021.5.30「☆不育症管理に関する提言2021

2021.3.30「☆不育症④:免疫と血液凝固

2020.1.23「☆不育症の免疫:賛成派 vs. 反対派

2019.10.19「不育症ガイドライン(ESHRE)

2018.5.4「反復流産の検査及び治療の新たな戦略

2015.3.21「☆流産や不育症の定義(ESHRE)