☆Lancet誌 不育症総説3 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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Lancet誌の不育症(流産)総説第3弾は、不育症(反復流産、習慣流産)の検査、治療、管理についてです。

 

Lancet 2021; 397: 1675(英国、米国)doi: 10.1016/S0140-6736(21)00681-4

要約:2019年12月に英国で83名の主要メンバーにより、不育症(反復流産、習慣流産)の検査、治療、管理に関する国際会議が行われ、推奨する検査と治療が発表されました。

 

検査

1)子宮形態検査(可能なら3D経腟超音波)

2)抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体)

3)夫婦染色体検査(G-band)

4)甲状腺(TSH, fT4, TPO)

 

予防と治療(高いエビデンスの治療はない)

1)黄体ホルモン製剤投与で出産率増加(中等度のエビデンス)

2)TSH>4.0で甲状腺ホルモン製剤投与(低いエビデンス)

3)APS分類基準を満たす抗リン脂質抗体には、低用量アスピリン+ヘパリン(低いエビデンス)

 

管理方法

1)流産3回に達するまで経過観察のみ

  生活習慣に関するアドバイスを受ける(適正なBMI、禁煙、アルコール量、食事、葉酸など)

2)段階的アプローチ

  流産1回:生活習慣に関するアドバイス+心のケア+慢性疾患の管理

  流産2回:不育症病院で甲状腺検査

  流産3回:不育症専門医で、流産胎児絨毛染色体検査、子宮形態検査、抗リン脂質抗体検査、夫婦染色体検査、専門家による心のケア

3)流産2回でフルアプローチ

  必要のない治療を行う可能性あり

*なお、80名(96%)のメンバーが(2)段階的なアプローチを推奨しました。

 

不育検査と治療のエビデンスレベルは下記の通り  

                   関連  因果関係  予後と関連   治療効果  

ループスアンチコアグラント       有    有     有      弱

抗カルジオリピン抗体          有    有     有      弱

抗β2GPI抗体             多分   多分   データなし  データなし

血栓性素因関連検査(第V因子Leiden変異、PTバリアント、MTHFRバリアント、プロテインS、プロテインC、アンチトロンビン)      弱    不明    有      なし

流産胎児絨毛染色体検査         有    有     弱      〜

夫婦染色体検査             有    有     有     (→PGT)

甲状腺機能低下症            有    有     有      有

潜在性甲状腺機能低下症         有    有    不明      不明

甲状腺抗体               有    有     有      なし

子宮形態異常              有    多分  データなし  データ不足

免疫学的検査(夫婦HLA適合度、抗HLA class II、HLA-G、KIR、HLA-C、サイトカイン、NK細胞)

                  データ不足 データ不足 データなし  データなし 

抗HY抗体               中    有     有     データなし

抗核抗体                有   データ不足  不明    データなし

PCOS                 有    有     なし   多分(メトホルミン)

ビタミンD               多分   多分   データ不足   データなし

精子DNA損傷             中    多分    不明      〜

 

解説:日本では、2021年3月に「不育症管理に関する提言2021」が更新され、2021.5.30「☆不育症管理に関する提言2021」でご紹介しました(下記を参照)。今回のLancet誌の記事と概ね一致しているのは、2019年12月の英国の会議をもとにしているからと思われます。

 

〜不育症の検査〜

推奨検査:不育症のリスク因子として十分なエビデンスがある

1)子宮形態検査(超音波、子宮卵管造影)

2)抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体IgG/IgM、抗β2GPI抗体、抗β2GPI依存性抗カルジオリピン抗体)

3)夫婦染色体検査(G-band)

4)甲状腺(TSH, fT4)

5)流産胎児絨毛染色体検査

選択的検査:不育症のリスク因子の可能性はあるがエビデンスとして不十分

1)子宮形態検査(MRI、子宮鏡)

2)血栓性素因関連検査(プロテインS、第XII因子、プロテインC、アンチトロンビン)

3)抗リン脂質抗体(抗フォスファチジルエタノールアミン抗体IgG/IgM、aPS/PT抗体)

4)自己抗体(TPO抗体、抗核抗体)

研究的検査:不育症との関連が示唆されているが、現在研究段階にある

1)抗リン脂質抗体(ネオセルフ抗体=抗β2GPI/HLA-DR抗体)

2)免疫学的検査(NK活性、Treg)

非推奨検査:不育症との関連が明らかでない

1)免疫学的検査(夫婦HLA、混合リンパ球反応、ブロッキング抗体、抗HLA抗体、サイトカイン、Th1/Th2)

2)内分泌検査(LH、P4、アンドロゲン、プロラクチン、AMH、インスリン)

 

〜不育症の治療〜

1)中隔子宮ではTCRを提示、その他の子宮形態異常にオペは推奨しない

2)APS分類基準を満たす抗リン脂質抗体には、低用量アスピリン+ヘパリン

3)夫婦染色体構造異常では、遺伝カウンセリング、PGT-SRを提案

4)甲状腺機能異常では、甲状腺専門医のもとで適切な治療

5)原因不明不育では、Tender Loving Careやグリーフケアなどの心理的サポート

6)リスク因子不明の難治症例では、

  低用量アスピリンやヘパリン療法→エビデンスなし

  夫リンパ球→有効性なし、副作用が多いため、推奨しない

  大量ステロイド(40〜50mg/日)→有効性なし、副作用が多いため、推奨しない

  ピシバニール→エビデンスなし

  タクロリムス→有効性のエビデンスなし、副作用の危険性あり、使用しない

  免疫グロブリン→有効性に関する結論は出ていない

7)治療を行っても再度流死産となった場合

  胎児側の要因がなく、実施した不育治療の効果が十分と考えられる場合には、有効性が報告されているものの、エビデンスが十分でない治療の実施を検討