☆不育症管理に関する提言2021 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

不育症管理に関する提言2021」をご紹介します。

 

〜不育症の検査〜

推奨検査:不育症のリスク因子として十分なエビデンスがある

1)子宮形態検査(超音波、子宮卵管造影)

2)抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体IgG/IgM、抗β2GPI抗体、抗β2GPI依存性抗カルジオリピン抗体)

3)夫婦染色体検査(G-band)

4)甲状腺(TSH, fT4)

5)流産胎児絨毛染色体検査

選択的検査:不育症のリスク因子の可能性はあるがエビデンスとして不十分

1)子宮形態検査(MRI、子宮鏡)

2)血栓性素因関連検査(プロテインS、第XII因子、プロテインC、アンチトロンビン)

3)抗リン脂質抗体(抗フォスファチジルエタノールアミン抗体IgG/IgM、aPS/PT抗体)

4)自己抗体(TPO抗体、抗核抗体)

研究的検査:不育症との関連が示唆されているが、現在研究段階にある

1)抗リン脂質抗体(ネオセルフ抗体=抗β2GPI/HLA-DR抗体)

2)免疫学的検査(NK活性、Treg)

非推奨検査:不育症との関連が明らかでない

1)免疫学的検査(夫婦HLA、混合リンパ球反応、ブロッキング抗体、抗HLA抗体、サイトカイン、Th1/Th2)

2)内分泌検査(LH、P4、アンドロゲン、プロラクチン、AMH、インスリン)

 

〜不育症の治療〜

1)中隔子宮ではTCRを提示、その他の子宮形態異常にオペは推奨しない

2)APS分類基準を満たす抗リン脂質抗体には、低用量アスピリン+ヘパリン

3)夫婦染色体構造異常では、遺伝カウンセリング、PGT-SRを提案

4)甲状腺機能異常では、甲状腺専門医のもとで適切な治療

5)原因不明不育では、Tender Loving Careやグリーフケアなどの心理的サポート

6)リスク因子不明の難治症例では、

  低用量アスピリンやヘパリン療法→エビデンスなし

  夫リンパ球→有効性なし、副作用が多いため、推奨しない

  大量ステロイド(40〜50mg/日)→有効性なし、副作用が多いため、推奨しない

  ピシバニール→エビデンスなし

  タクロリムス→有効性のエビデンスなし、副作用の危険性あり、使用しない

  免疫グロブリン→有効性に関する結論は出ていない

7)治療を行っても再度流死産となった場合

  胎児側の要因がなく、実施した不育治療の効果が十分と考えられる場合には、有効性が報告されているものの、エビデンスが十分でない治療の実施を検討

 

解説:不育症の領域は進歩が非常に速いです(検査も治療も目まぐるしく入れ替わってきました)。よくわからない分野をつまみ食い的に食べ散らかしたような研究があちこちで行われた結果ではないかと思います。現在、その世界をまとめる動きが生じていますが、未だ発展途上と言えます。従って、今回ご紹介した「不育症管理に関する提言2021」も進化の一過程に過ぎないと思います。これからも変化が予想されますが、少なくとも現段階でのエビデンスとなります。紙面の関係から項目のみ列挙していますが、本文をお読みいただけると、この選択がなされた経緯や限界について詳しく記載されています。言い回しが微妙になっている部分は、断定を避けるような配慮がなされています。

 

不育症の領域は極めて複雑ですので、不妊症専門医では手に負えないことが少なくありません。必ず不育症専門医の診察を受けて頂きたいと思います。