嬉しい報告とQ&A3340 残りの凍結胚をどうしたら良いでしょうか | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q リプロ東京通院時は、大変お世話になりました。リプロ東京がちょうど開業して、藁にもすがる思いで飛び込み、他院で原因不明のまま移植を繰り返すも着色せずの辛い日々から抜け出すことができました。結果、慢性子宮内膜炎が原因だったみたいで、リプロ東京では採卵一回、移植も一度は化学流産するものの、その後は無事着床し、出産することができました。第二子も最初の凍結卵(しかも初期胚)で無事着床・出産することができ、3歳と1歳の元気な2男児と賑やかに過ごすことができています。コロナ禍でも病院をあけていただきましたし、リプロ東京の先生方には感謝の思いでいっぱいです。

まだ胚盤胞凍結卵があと1つあり、これだけお迎えした卵が着床して無事命になっていることを思うと、「廃棄」という言葉が重く、毎年更新時期に悩んでしまいます。2人目のときは切迫早産にもなり1ヶ月の入院も経験し、無事に出産を迎えることの大変さも痛感しております。年齢も40が目前で高齢出産になりますし、生むなら早い方がいいのは頭では承知、でも今は2歳差育児で物理的にも、もう1人となると手が足りませんし、今授かった2人を大事に育てるのがベストだなとは思っているのですが。

また更新のときだね、どうしようね、と同じ治療をした友人と会話することも多いです。おそらく同じ心境です。苦労して出来た受精卵を無碍に出来ない、自分の選択が命の選別になってしまうような気がします。せめて研究に活用します、とかでしたら救われるのかなと思ったり。この悩み、一度先生のお考えを聞いてみたいなと思いメッセージさせていただきました。

 

A 凍結余剰胚を研究使用可能なのは、採卵時にあらかじめ同意を得た場合に限られます。特に受精卵の研究は倫理的な縛りがきついため、基本的に大学病院での研究しか対象にはなりません。それでも確かに「廃棄」には踏み切れないという場合に、海外ではCompassionate transferという方法が存在します。Compassionate transferとは、余剰胚を妊娠しない時期(月経中など)や妊娠しない場所(膣など)に移植する処理方法で、宗教的に(あるいは個々の心理的に)凍結胚の廃棄ができない方に行われている方法です。リプロダクションクリニックでは、Compassionate transferの対象者には説明をしておりますが、実際にCompassionate transferを実施した方は(現在のところ)おられません。お子さんを出産し、お子さんがある程度成長してからの対処法になるため、かなり時間が経ってからの処理になるためです。

 

下記の記事を参照してください。

2022.3.22「Q&A3242 凍結胚の廃棄に踏み切れません

2020.10.3「Compassionate transferの実施調査

2020.2.25「Compassionate transfer:ASRMの見解

2019.5.30「Compassionate transferとは

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。