Q&A3242 凍結胚の廃棄に踏み切れません | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 凍結胚の廃棄についての質問です。
 
私は、生殖医療の恩恵を受けて子どもを授かることができました。現在、まだ一つ凍結胚盤胞が残っていますが、年齢的、体力的に移植が難しい状況です。移植の予定がないなら、廃棄しなければならないと頭では分かっていますが、廃棄できずにいます。それは、胚に命が宿っているように思えてならないからです。胚盤胞の中には、人の染色体が完成していて、性別も決定している。ただ、ちょっとした細胞の形の差で、選ばれた子は生を受け、選ばれなかった子は消えてしまう。そのことがかわいそうでならないのです。移植してあげられない自分を責める思いもあり、苦しいです。今後どのように気持ちを切り替えていくべきか、相談できる相手を見つけることも容易ではなく、経験したことがない人にはそもそもこの心情の理解が難しいようで、主人にもこの気持ちは理解できないようです。

先生は日々、たくさんの凍結胚を扱っておられるなかで、たくさんの廃棄の現場も見ておられると思いますが、胚の廃棄に悩まれている方にどのようなアドバイスをされていますか。また、胚の廃棄に伴って個人に生じる葛藤や苦しみに対して、不妊治療先進国等では何か対応策を持っていたりするのでしょうか。何か良い気持ちの切り替え方があれば教えてください。またCompassionate transferというものがあるようですが、精神的な緩和作用はあるのでしょうか。リプロさんではやっておられますか。
 

A 受精卵の「廃棄(破棄)」は心苦しい選択であると感じている方は少なくないと思われます。現実的には自分とは遠い世界で起きている現象と考え廃棄の書類にサインをしている方もおられると思いますが、あえて凍結更新をしない方(消極的な廃棄)もおられると推察します。廃棄の決断ができない場合に、海外ではCompassionate transferという方法が存在します。Compassionate transferとは、余剰胚を妊娠しない時期(月経中など)や妊娠しない場所(膣など)に移植する処理方法で、宗教的に(あるいは個々の心理的に)凍結胚の廃棄ができない方に行われている方法です。リプロダクションクリニックでは、Compassionate transferの対象者には説明をしておりますが、実際にCompassionate transferを実施した方は(現在のところ)おられません。お子さんを出産し、お子さんがある程度成長してからの対処法になるため、かなり時間が経ってからの処理になるためです。

 

下記の記事を参照してください。

2020.10.3「Compassionate transferの実施調査

2020.2.25「Compassionate transfer:ASRMの見解

2019.5.30「Compassionate transferとは

 

なお、このQ&Aは、約1ヶ月前の質問にお答えしております。