☆採卵前後の入院の頻度:フランス国家データ調査 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、採卵前後の入院についてフランスの国家規模のデータを調査したものです。

 

Hum Reprod 2021; 36: 2769(フランス)doi: 10.1093/humrep/deab147

要約:2012〜2017年初回採卵を実施した50歳未満の女性156,916名を対象に、2010〜2019年入院の有無(婦人科疾患以外も含む)についてフランスの国家データベースを用いて調査しました。採卵された方の内訳は、不妊症152,332名、ドナー採卵3,553名、卵子凍結1,031名です。採卵前後で比較すると、有意差のみられた項目は下記の通り(10000人月=10000人x1ヶ月あたりの入院で表示)。

 

全症例    採卵前2年     採卵後2年

OHSS   6/10000人月 → 162/10000人月

卵巣茎捻転 3/10000人月 → 14/10000人月

静脈血栓症 1/10000人月 → 8/10000人月

動脈血栓症 1/10000人月 → 3/10000人月

損傷    1/10000人月 → 2/10000人月

 

不妊症    採卵前2年     採卵後2年

OHSS   0/10000人月 → 55/10000人月

静脈血栓症 4/10000人月 → 59/10000人月

感染    56/10000人月 → 176/10000人月

 

ドナー採卵  採卵前2年     採卵後2年

OHSS   0/10000人月 → 116/10000人月

出血    0/10000人月 → 24/10000人月

 

解説:採卵後の入院は極めて少ないですが、ゼロにはならないのが現状です。本論文は、採卵前後の入院についてフランスの国家規模のデータを調査したものであり、確率的には低いものの、起こり得る合併症であることを示しています。注目すべきは、OHSSや卵巣茎捻転は採卵によるリスク増加は確かにありますが、感染は採卵前からもある程度生じていることがわかります。今後の検討が望まれます。

 

下記の記事を参照してください。

2019.3.3「肥満の方の採卵時合併症は?

2018.7.12「採卵時合併症の頻度

2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解