甲状腺自己免疫とPOIの関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、甲状腺自己免疫とPOI(Primary Ovarian Insufficiency、早発卵巣不全)の関連を示しています。

 

Hum Reprod 2021; 36: 1621(台湾)doi: 10.1093/humrep/deab025

要約:2000〜2012年20〜40歳の女性を対象にした橋本病コホート(患者1003名、非患者4012名)とバセドウ病コホート(患者3262名、非患者13048名)の方21,325名がPOIに至るかどうかを前方視的に検討しました。台湾では、1995年から国民皆保険のため、疾病の追跡が可能であり、そのデータベースを用いて追跡調査を行いました。結果は下記の通り(リスク比で表示、有意差ありを赤字表示)。

 

     橋本病コホート   バセドウ病コホート

観察期間   7.3年         4.2年

POI患者  18.1/1000      17.9/1000

無月経    1.89倍        1.68倍

早発閉経   1.94倍        1.62倍

不妊症    2.40倍        1.08倍

 

解説:早発卵巣不全(POF、POI)の原因遺伝子変異として、FMR1、FMR2、BMP15、GDF9、FSHR、NOBOX、FIGLA、NR5A1、HFM1、STAG3、SYCE1、MCM9、MCM8、MSH5、BRCA2などの遺伝子変異が報告されています。また、抗癌剤、放射線治療、卵巣手術、環境因子、自己免疫異常の関与が指摘されています。自己免疫異常はPOIの20〜30%を占めるとの報告もあり、甲状腺自己免疫との関連が最も多いとされています。しかし、ビッグデータを用いた研究はこれまで行われていませんでした。本論文は、台湾の国家データを用い、甲状腺自己免疫とPOIの関連を示しています。

 

POIの頻度は通常およそ1/100ですが、橋本病コホートもバセドウ病コホートも1.81/100、1.79/100と高くなっています。甲状腺疾患の方は早めにAMHを測定し、早めの妊活が推奨されます。

 

早発卵巣不全(POF、POI)については、下記の記事を参照してください。

2021.3.10「早発卵巣不全の新たなマーカー:INSL3

2021.1.21「DORの原因遺伝子

2021.1.7「早発卵巣不全に対するIVAとLOI:ビデオ論文

2020.6.10「早発卵巣不全のMCM9遺伝子変異

2019.12.14「STAG3遺伝子変異による精子形成過程における減数分裂停止

2015.7.13「NGSでPOFの原因遺伝子検索

2015.5.13「☆POF(早発卵巣不全、早発閉経)の発生率

2013.10.23「☆GDF9遺伝子変異でAMHが減少します