☆hCGの増加率が低い場合 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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妊娠判定日のhCGが低めで、かつhCGの増加率が低い場合に諦めてしまう方(医師および患者さん)がおられると思います。そんな方へ「諦めるにはまだ早い」という論文をご紹介します。

 

Fertil Steril Rep 2021; 2: 129(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.11.006

要約:妊娠判定日のhCGが低めで、かつhCGの上昇率が低い方で出産に至った3症例をご紹介します。

1 30歳、1経妊0経産、PCOSあり。5AA胚盤胞を移植後、BT9のhCG 131 IU/L→BT11のhCG 160(22.1%増)→BT13のhCG 225(40.6%増)→5w4d  子宮内に胎嚢確認(hCG 2778)→7w6d 心拍確認→妊娠40w5d 3850g 男児を出産。

2 36歳、3経妊0経産、肥満あり。4AA胚盤胞を移植後、BT9のhCG 30 IU/L→BT11のhCG 37(23.3%増)→BT13のhCG 74(100%増)→BT15のhCG 190(157%増)→5w6d  子宮内に胎嚢確認→7w5d 心拍確認→妊娠37w5d 3883g 男児を出産。

3 34歳、3経妊1経産、男性不妊のためTESE-ICSI実施(過去の妊娠は前夫)。4AA胚盤胞を移植後、BT9のhCG 73 IU/L→BT11のhCG 108(47.9%増)→BT13のhCG 137(26.9%増)→BT15のhCG 186(35.8%増)、ここでホルモン補充を中止→BT17のhCG 371(99.5%増)ホルモン補充を再開→5w6d  子宮内に小さな胎嚢確認(hCG 1614)→8w1d 心拍確認→妊娠39w3d 3100g 女児を出産。

 

解説:妊娠判定から2日毎のhCG増加率が49%以上である場合に正常妊娠の確率が99%であるとの報告があります(Am J Obstet Gynecol 2021; 224: 232)。また、2日毎のhCG増加率が30%以上であれば良いとの報告もあります(Hum Reprod 2006; 21: 823)。本論文の3名の患者さんは、2日毎のhCG増加率が最低20%台の時期がありながら、妊娠継続し、元気な赤ちゃんを出産しています。また、hCG<500IU/Lの場合には、これら増加率の指標が当てはまらないとの報告もあり(Fertil Steril 2012; 97: 101)、PGTのために細胞を採取した場合のhCGが低下することも知られています。患者さんは妊娠を強く望んで通院されているわけですので、正確な診断が要求されます。症例3では途中で諦めてホルモン補充をやめていますが、このような症例があることを念頭におき、妊娠継続の可能性が残されているのであれば、ホルモン補充をやめることなく、経過観察するのが望ましいです。ただし、このような経過をたどる場合には子宮外妊娠(医学的には異所性妊娠と呼ぶ)の可能性がありますので、ご注意ください。

 

院内のローカルルールで、hCG増加率が低いとすぐにホルモン補充をやめてしまう先生がおられますが、慎重な対応が望まれます。リプロ では、判定日(BT11)のhCG = 5.0 IU/Lで出産されている方が(東京でも大阪でも)おられますので、「諦めるにはまだ早い」と思います。

 

下記の記事を参照してください。

2021.4.12「☆年齢と判定日のhCG値の意外な関係

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる

2020.10.12「☆判定日のhCG 11.6で出産

2019.1.5「☆太っていると判定日のhCGが低く出る!?

2018.7.12「Q&A1887 ☆hCG注射後の妊娠検査薬への影響は?

2015.6.20「☆判定日のhCG値と妊娠継続の関係

2013.10.27「☆☆不妊症と不育症は親戚関係の疾患です

2013.6.13「☆フライング検査と喪失体験