本論文は、キスペプチン54トリガーによる卵胞顆粒膜細胞の変化を調べたものです。
Hum Reprod 2018; 33: 292(英国)doi: 10.1093/humrep/dex357
要約:体外受精を実施する48名の女性にを3群に分け、hCGトリガー12名、GnRHaトリガー12名、キスペプチン54トリガー24名(1回使用12名=シングルトリガー、2回使用12名=ダブルトリガー)とし、卵胞液内の顆粒膜細胞での各種タンパク質の発現を比較検討しました。なお、キスペプチン54は、9.6 nmol/kgの用量で、シングルトリガーは採卵の36時間前のみ、ダブルトリガーは採卵の36時間前と26時間前に投与しました。有意差が認められたのは下記の通り(キスペプチン54を1として表示)。
hCG GnRHa キスペプチン54
FSH受容体 1/14 1/8 1
LH/HCG受容体 〜 1/2.5 1
CYP19A1 1/3.6 1/4.5 1
STAR 1/3.4 1/1.8 1
HSD3B2 1/7.5 1/2.5 1
インヒビンA 1/2.5 1/2.5 1
ESRα 〜 1/3 1
ESRβ 〜 1/3 1
*STAR= steroid acute regulatory protein、HSD= hydroxysteroid dehydrogenase
有意な変化が認められなかったのは、血管透過性マーカー(VEGFA SERPINF1、CDH5など)とキスペプチン受容体でした。また、hCGではステロイドホルモン関連遺伝子の発現が増加しましたが、キスペプチン54ではステロイドホルモン関連遺伝子やOHSS関連遺伝子発現増加は認めませんでした。
解説:体外受精の際にはトリガーを使用しないと卵子が回収できませんので、hCGやGnRHaをトリガーに用います。OHSSのリスクが高い方にはhCGよりもGnRHaが推奨されますが、GnRHaでは妊娠率低下が報告されています。OHSSのリスクが高い方に安全かつ有効なトリガーが模索され、キスペプチンがその候補として登場しました。キスペプチンは動物ではトリガーとして有効であることが報告されており、ヒトでは2017.9.11「キスペプチンによるダブルトリガーの有用性は?」の記事で有効性を確認しています。本論文は、キスペプチンがhCGやGnRHaより強力に各種遺伝子発現を増強することを示しています。一方で、OHSS関連遺伝子発現の増加はなく、安全な次世代のトリガーとしての期待が高まります。
下記の記事を参照してください。
2017.9.11「キスペプチンによるダブルトリガーの有用性は?」
2015.8.10「☆キスペプチンの卵巣刺激作用」
2014.12.28「顆粒膜細胞のニューロキニンとキスペプチンの役割」
2013.12.19「☆キスペブチンとは?」