本論文は、キスペプチンによるダブルトリガーの有用性について、ランダム化試験を行ったものです。
Hum Reprod 2017; 32: 1915(英国)doi: 10.1093/humrep/dex253
要約:2015〜2016年に体外受精を行う方でOHSSのハイリスクと考えられる方62名を対象に、キスペプチンによるシングルトリガーとダブルトリガーの比較をダブルブラインドによるランダム化試験を行いました。対象は刺激開始日の、AMH 5.6 ng/mL以上、AFC 23個以上、18〜34歳、両側卵巣あり、BMI 18〜29、FSH 12以下、除外対象は子宮内膜症と過去2回以上の卵巣反応不良としました。パワーアナリシスの結果、80%のパワーで(P<0.05)卵回収率43%増加のためには各群31名が必要と計算されました。62名の方をランダムに2群に分け、キスペプチン54(9.6 nmol/kg)を採卵の36時間前と26時間前に投与するダブルトリガー群、採卵の36時間前のみ投与し26時間前はプラセボを投与するシングルトリガー群としました。ダブルトリガー群では、2回目のキスペプチン54投与4時間後にLH増加を認めました(初回トリガーで50IU/L、2回目トリガーで25IU/L)。初回トリガー時に14mm以上の卵胞からの卵回収率は、シングルトリガーで45%、ダブルトリガーで71%と有意な増加を認めました。新鮮胚移植による臨床妊娠率はダブルトリガー群で高い傾向にありましたが、有意差は認めませんでした。また、OHSSはシングルトリガーで3.2%(1/31)、ダブルトリガーで0%(0/31)であり、いずれも極めて低率でした。なお、トリガー当日のE2濃度 3000 pg/mL以上の方は、シングルトリガーで71%、ダブルトリガーで77%と有意差を認めず、卵成熟率はシングルトリガーで83%、ダブルトリガーで80%と有意差を認めませんでした。
解説:体外受精の際にはトリガーを使用しないと卵子が回収できませんので、hCGやGnRHaをトリガーに用います。OHSSのリスクが高い方にはhCGよりもGnRHaが推奨されますが、GnRHaでは妊娠率低下が報告されています。OHSSのリスクが高い方に安全かつ有効なトリガーが模索され、キスペプチンがその候補として登場しました。キスペプチンは動物ではトリガーとして有効であることが報告されており、ヒトでは本論文の著者が有効性を確認しています。しかし、卵回収率が低く、改善が必要でした。LH受容体に対する作用時間は、hCG 1週間以上、自然のLHサージ 24〜48時間に対して、キスペプチンは12〜14時間と短時間です。そこで、10時間後に2回目のキスペプチン投与を行えば、この問題点を解決できるのではないかとの発想を元に本論文の研究が行われました。本論文は、キスペプチンのダブルトリガーの有用性を示していますので、次世代のトリガーとしての期待が高まります。
キスペプチンについては、下記の記事を参照してください。
2015.8.10「☆キスペプチンの卵巣刺激作用」
2014.12.28「顆粒膜細胞のニューロキニンとキスペプチンの役割」
2013.12.19「☆キスペブチンとは?」 こちらの記事で私は「キスペプチンがhCGやGnRHaの代わりに排卵のトリガーに使用されるようになるかもしれません。おそらくそれが最も自然の排卵現象に近いのでしょう」と結びました。まさに、その通りになったわけです。