Q 44歳、流産5回、妊娠中期、乳癌既往、着床前診断希望
無事に出産した場合、凍結胚(胚盤胞5個:4BB、G2、G2、G2、G1、初期胚10個:主に2日目の4細胞G2)で第2子を考えています。凍結胚の延長の有無を判断する時期になりましたが、以下の理由で一旦胚を融解し、着床前診断をお願いし、問題なかったものを再凍結することを考えています。
⚫年齢や流産歴を考慮し、出生前診断のお話を産科より早々に受け、出生前診断を行いました。結果がでるまで、赤ちゃんに申し訳ない等、気持ちの上で本当にきつかったです。
⚫年齢的なことを考えてできるだけ早く次の妊娠したいですし、流産で辛い思いはもうしたくありません。
⚫ホルモン感受性の乳癌罹患歴があります。妊娠中は病気は悪化せず、むしろホルモン治療実施と同じ効果があると聞いてますが、妊娠するまでの無治療経過観察期間はなるべく短い方が良いと考えています。
ただ、融解したものを再凍結することや、卵に針を刺し細胞を取り出すことによりダメージはないか、それにより着床できたはずの子をダメにしてしまわないか、などの懸念もあります。賛否があることとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。
A 実際に着床前診断が可能な施設は、現在の日本では極めて少ないと思います。お話の状況からは日本産科婦人科学会の許可がおりないのではないかと思います。日本産科婦人科学会の「着床前診断」に関する見解には、下記の記載があります。
適応の可否は日本産科婦人科学会において申請された事例ごとに審査される。本法は、原則として重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある、遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合に限り適用される。但し、重篤な遺伝性疾患に加え、均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産(反復流産を含む)も対象とする(2013.1.26「世界の着床前診断事情」の記事を参照してください)。
技術的な問題(テクニック)については、日常的に着床前診断を実施している施設であれば、針や凍結融解操作によるダメージは極めて少ないものと考えます。しかし、胚盤胞でも初期胚でも、分析そのものが不成功に終わる可能性はあります。
胚盤胞と初期胚での染色体分析方法が異なりますので、心配されているリスク以外のリスクが重要で、個別に考える必要があります。
①胚盤胞は胎盤になる部分(TE)を一部検査します。胎児になる部分(ICM)には触らないですから、胎児への影響はないものと考えられています。しかし、上記の凍結胚盤胞の中で、TE検査が可能なのは、4BBだけです。G2とG1はTEとICMの区別がつかないためABCランクがつかないものです。したがって、このままG2とG1から細胞を採取して分析すると、胎児への影響が出る可能性もあります。このような場合、半日~1日培養して、G3以上となりTEとICMの区別がつくようになった(ABCランクがつくようになった)胚盤胞で検査するのが望ましいでしょう。この場合、勿論、途中で発育が停止する可能性もありますが、その胚は分析できません。TEはICMを反映しています(2013.9.4「☆胚盤胞の染色体異常」)ので、TE分析ができれば問題ありません。
②初期胚は割球分析となります。4分割胚でしたら、1つの割球しか取り出すことができませんので、全ての染色体のうち1/4を調べるに過ぎません。割球分析のデメリットは、全ての割球が同じである保証がないことです。調べた割球だけが異常だった場合は、正常胚を捨ててしまうことになり、逆に調べた割球だけが正常だった場合は、異常胚を移植してしまうことになります。詳細は、2013.2.9「驚くべき染色体異常頻度」を参照してください。
1 割球毎に染色体のパターンが異なる
2 トップクオリティーの胚でもモザイク型の染色体異常が70%以上に認められる(モザイク型の染色体異常とは、異常なものと正常なものが混ざっていることを言います)
なお、染色体の異数性異常(数が多い、少ない)は44歳で90%です(2014.4.20「☆女性の年齢別染色体異常頻度」)。
FISH法には誤りが起きることがあります(2014.1.21「PGDにも誤りが!?」)。
染色体の異数性異常は、ICMやTEのグレードとは無関係で、胚盤胞の大きさ(成長速度)と関連します(2013.3.16「☆胚盤胞のABCのグレードでは染色体異常の予測はできない」
)。
下記の記事も参考にしてください。
2013.9.11「Q&A69 ☆40歳、全てが異常胚で移植できません」