☆胚盤胞の染色体異常 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

受精卵(胚)にはモザイク型の染色体異常が高頻度に認められます。モザイク型とは、胚の中の細胞が全て同じ染色体ではなく、違ったパターン(Aパターン:Bパターン=1:2など)になっていることを意味します。染色体異常の確率に関して、分割胚については2013.2.9「驚くべき染色体異常頻度」で、胚盤胞については2013.3.16「☆胚盤胞のABCのグレードでは染色体異常の予測はできない」で紹介しています。それをまとめると、染色体異常の確率は下記の通りです。
分割胚:71.4%
胚盤胞(グレード1&2):62.5%
胚盤胞(グレード5&6):50.0%

分割胚では割球の1つ1つが独立しているため、どの割球を選ぶかにより異常か正常か分かれますが、胚盤胞では胎児になる部分(ICM)と胎盤になる部分(TE)の染色体は同じであるという考えのもとにTEの染色体分析を行って、着床前診断としています。果たして、ICMとTEは同じなのか、それともモザイク型の場合はどうなっているのかはこれまで明らかではありませんでした。本論文は、ICMとTEはほぼ等しいですがモザイク型ではないことを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 2298(米国)
要約:2011年に胚盤胞に育てた3PN胚20個を用い、TEの混入なくICMをきれいに採る方法を開発しました。ホールディングピペットで胚盤胞ICM側を把持し、反対側からバイオプシーピペットを陽圧のまま挿入します。胞胚腔がしぼまないように培養液を加え、ICMのみが明らかに区別できる状態になったところでICMを吸引します。ICM摘出後、再び胞胚腔に培養液を加え、ICMが摘出できたことを確認します。ICM細胞数は、平均26.2個、TEマーカーであるKRT18で染色したところTEの混入はわずか2%でした。その技術をもとに、26名から70個の胚盤胞を用いてPGSを行いました(36歳以上9名、3回以上の体外受精不成功5名、3回以上の流産6名、染色体均衡型転座保因者6名)。TEの3カ所とICMを別個に摘出しCGH法による染色体分析を行った後FISH法を行い、その相違について分析しました。CGH法とFISH法共に、66個(94.3%)の胚盤胞に染色体の異数性を認め、52個(79%)は全ての細胞に、14個(21%)は一部の細胞に(モザイク)異数性を認めました。CGH法による検査の感度98.0%、特異度100%でした。CGH法とFISH法の相違は、全てモザイク型の異常の場合にのみ認められ、11個(15.7%)でした。モザイクの程度が強いほど、グレードが有意に良いという結果が得られました。

解説:これまで、ICMをTEの混入なくきれいに採ることがなかなか難しかったのですが、本論文ではまずICMをうまく採取する方法を開発しました。その上で、TEとICMを別個に染色体分析を行い、ICMとTEはほぼ等しいことを示しています。2000年代の報告では、胚盤胞のモザイク率は半数以上ではないかと言われていましたが、2010年代の報告では、実際は少ないということになっています。本論文も21%と低くなっています。CGH法ではモザイクの検出は難しくなっていますが、異常胚はキチンと異常と診断できています

驚くべきは、本論文で検査を行った胚盤胞の94.3%に染色体の異数性を認めたことです。対象の患者さんは、染色体異常が存在する確率の高い方ばかりですが、それにしても非常に高率に異常胚が含まれていることになります。いずれにしても本論文は、胚盤胞でTEを調べることの妥当性を示しています。つまり、TEはICMを反映しているわけです。