若年者の癌の方はもともとAMHが低下しています | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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癌の治療後はAMHが低下しますが、癌の方はもともと(治療前から)AMHが低い可能性が示唆されていました。本論文は、若年癌の女性のAMHは治療前から有意に低下していることを示しています。

Hum Reprod 2014; 29: 337(オランダ)
要約:新規に癌と診断された18歳以下の208名の女性、年齢をマッチさせた250名の女性のAMHをケースコントロル研究で調査しました。癌の種類は、リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、腎芽細胞腫、肉腫、神経芽細胞腫です。年齢の中央値は6.6歳と6.3歳でした。癌と診断された女性のAMHは対照群と比べ有意に低くなっていました(1.4 vs. 3.0 ng/mL)。癌と診断された女性の84%は対照群の50パーセンタイル以下であり、19%は10パーセンタイル以下でした。一般的な健康状態の指標との関連は、体温やCRPがAMHと負の相関を示し、ヘモグロビンがAMHと正の相関を示しました。

解説:大人の女性の卵巣機能は、AMH以外にFSHやE2で判断しますが、思春期以前の女性では、視床下部~脳下垂体~卵巣が機能していませんから、FSHやE2での判断ができません。そのため、AMHを調べるという本論文の趣旨が定まりました。ホジキンリンパ腫や非ホジキンリンパ腫では、抗癌剤治療前からAMHが低下していることが報告されています。また、男性でも、癌の診断がついた時点で、乏精子症あるいは無精子症であることも少なくありません。本論文は、思春期前の若年癌の女性のAMHは治療前から有意に低下していることを示したものです。

これらの事実は、癌遺伝子とAMHのリンクを示唆しますが、一方で癌以外の疾患(糖尿病、SLE、心血管疾患)でも、AMHの低下が報告されています。つまり、病気による健康状態の低下がAMH低下とリンクする可能性があります。若年癌の女性のAMHが治療前から有意に低下している事実は、①原始卵胞の減少、②卵胞供給の減少、③卵胞消費の増加、④遺伝子修復機能の低下などが原因として考えられます。これまでは、単純に①の理由ではないかと考えられていましたが、②③のような顆粒膜細胞の機能の変化も考えられます。また④癌や卵巣の老化により遺伝子修復機能が障害されることが知られています。本論文では、体温、CRP、ヘモグロビンといった体調とAMHの関連が認められますので、体調が悪い時にはAMHが低下するといった卵巣以外の要因の関与も考えられます。

癌とAMH低下については、下記の記事を参照してください。
2013.5.31「乳癌遺伝子(BRCA)と早発閉経の関係」
2013.5.26「AMHの遺伝的因子」

また、AMHは25歳までは増加し、それ以降減少しますので、思春期前のAMHは30歳前後のAMHよりも低くなります。これについては、下記の記事を参考にしてください。
2013.7.19「思春期前のAMHは増加する」
2013.6.16「☆☆☆AMHは年齢とともに低下しません⁈」