☆体外受精が保険で無制限に治療できたらどうなるか | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

イスラエルでは、体外受精が国の保険で全額賄われます。条件は、2人の赤ちゃんを得るまで、女性が45歳まで、の2つだけ。AMHの数値や精液所見、体外受精の実施回数は考慮しません。本論文は、体外受精が保険で無制限に治療できた場合に、35歳未満の女性では、5~7年で約90%の方が一人目の赤ちゃんを得られることを示しています。

Fertil Steril 2011; 95: 568
要約:妊娠歴のない35歳未満の女性で、初回の体外受精を2001年~2002年に行った171名の方を対象とし、その後の経過を5~7年間観察できた134名につき検討しました。経過観察期間内で、95.5%の方が妊娠し、89.6%の方が赤ちゃんを得ました。81.3%の方は、4年以内に赤ちゃんを得ています。内訳は、134名のうち、108名が体外受精で妊娠が成立し、10名は自然妊娠、14名が赤ちゃんを得ていません。14名のうち4名は体外受精を継続中、5名は養子縁組、2名は離婚、3名はギブアップとなっています。

解説:世界の体外受精でご紹介したように、イスラエルの85%はユダヤ教徒で(2013.1.13「宗教による生殖医療のルール:ユダヤ教」)、ほとんど全ての生殖医療が許可されています(2013.1.22「世界のドナー卵子&代理母事情」2013.1.26「世界の着床前診断事情」2013.1.30「世界の受精卵(胚)研究事情」参照)。イスラエルは、体外受精を保険でカバーする数少ない国のひとつです。このように不妊治療に恵まれた国ですから、他国に行って不妊治療を行う方はまずおられないため、調査からドロップアウトする方がほとんどいないという特徴があり、データとして非常に信頼度が高いものになります。

日本では、不妊治療助成金制度が体外受精の費用の一部を負担していますが、必ずしも十分とはいえない状況です。しかも、その一部が減額されようという動きがあります。NPO法人Fine理事長「松本亜樹子」さんが、Fineのオフィシャルブログを通じて助成金減額の緊急アンケート調査を行っています。お時間ありましたら、ぜひご協力お願いできれば幸いです。