妊娠しにくい方のお子さんは喘息が多い? その1 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

英国の大規模なミレニアムコホート研究をご紹介致します。本論文は、妊娠しにくい方のお子さんは喘息が多いことを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 471
要約:ミレニアムコホート研究と称し、2000年~2002年に英国全土で出生した18818名の生後9ヶ月の単胎妊娠の赤ちゃんを対象とし、5歳と7歳でのデータを解析しました。母親にどのような形で妊娠したかと妊娠までに要した期間(TTP)を質問し、次の6群に分類しました:「予定外で困る(2039名)」「予定外だが幸せ(3645名)」「計画通り(TTP 1年未満)(6575名)」「妊娠しにくいが無治療(TTP 1年以上)(505名)」「排卵誘発剤使用(173名)」「体外受精(104名)」。喘息あるいは喘鳴(ぜいぜいすること)の評価は、「子供の喘息とアレルギーの国際研究」の質問票に従いました。5歳児の13041名、7歳児の11585名のデータが得られました。「計画通り(TTP 1年未満)」の方と比べ、「妊娠しにくいが無治療(TTP 1年以上)」+「排卵誘発剤使用」+「体外受精」では喘息が1.39倍、喘鳴が1.27倍、喘息薬使用が1.90倍と有意に高くなっていました。「妊娠しにくいが無治療(TTP 1年以上)」「排卵誘発剤使用」「体外受精」の比較では、喘息、喘鳴、喘息薬使用ともに、「体外受精」が最もリスクが高く、次に「妊娠しにくいが無治療(TTP 1年以上)」、最も少ないのは「排卵誘発剤使用」でした。

解説:近年、英国では喘息患者が増加しており、5人に1人のお子さんが喘息と診断され治療されています。喘息は、子どもの活動性に大きく制限をきたすという社会的問題や医療費の増加(英国では1~5歳児の喘息関連医療費は5300万ポンド)という問題を包含しています。喘息のリスク因子として様々な可能性が指摘されています。たとえば、早産、低出生体重児、帝王切開の分娩、体外受精、不妊治療などです。しかし、個々の研究の症例数が少ないため賛否両論あり明らかな証拠は得られていません。本論文は、英国の全国単位での調査であり、かつてない大規模の研究ですので、最も信頼度が高いといえます。2013.2.15「妊娠までの期間が長いと早産リスクが増加」でも述べましたように、不妊治療のリスクなのか、妊娠しにくいこと自体がリスクなのかを明らかにすることはなかなか難しい訳です。少なくとも「排卵誘発剤使用」は「妊娠しにくいが無治療(TTP 1年以上)」より喘息リスクは少ないため、「排卵誘発剤使用」は問題ないのだろうと考えます。「体外受精」の場合は、「妊娠しにくいが無治療(TTP 1年以上)」の方より不妊症としては重症の方が含まれていると考えられますから、もっと症例数を増やした検討が必要です。