精液所見が良いと健康的で長生きする | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

とても興味深い論文を見つけましたので、ご紹介致します。本論文は、精液所見が良いと健康状態が良く、長生きするというものです。

Am J Epidemiol 2009; 170: 559
要約:1963年~2001年コペンハーゲン精液検査センターのデータを、デンマークの戸籍管理システムとリンクさせ、癌、死因、子供の数と比較検討しました。43277名不妊症夫婦の夫の死亡率は精子濃度の増加(ただし4000万/mLまでの範囲)に伴い減少しました。この死亡率減少は、全般的に疾病の罹患率減少によるものであり、子供の有無とは無関係でした。ですから、単にライフスタイルや社会的因子の関与ではなく根本的な男性の健康の指標として精液所見が関与していると考えられます。なお、本研究では無精子症の男性は除外してあります。

解説:過去50年で、男性では精巣癌や男性生殖器の奇形が増加し、精子数が減少しています。精巣癌が診断される前に精液所見が悪化することも知られており、これらの現象をまとめて、「精巣形成不全症候群(TDS: testicular dysgenesis syndrome)」といいます。母体の体内で胎児が成長する過程でTDSが生じると考えられており、この考え方については、2012.11.8 「 Barker仮説」の項でもご紹介しました。
一方、2012.11.1「精子濃度と妊娠率」でご紹介したように、精子濃度と妊娠率の関係を調べたところ、精子濃度が4000万/mLまでは精子濃度の増加に伴い妊娠率が増加しますが、4000万/mL以上では妊娠率は変化しませんまさにこれは、本研究の結果と一致しています。
過去には小規模な調査で本研究と同様な結果を示したものがありましたが、本研究ほどの大規模なデータは初めてになります。医療費が原則全額税金で賄われるデンマークでは、医療上のデータが集約管理されており、このような研究を実施しやすい環境にあると考えられます。検査センターのデータと戸籍管理システムがリンクできるなど、日本から見るとうらやましい限りです。このように、大規模な疫学研究の多くは北欧諸国から発表されています。