【アドラー心理学】 私がマリーナ博士から数学的な感性を感じる理由 | 数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

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【アドラー心理学】 私がマリーナ博士から数学的な感性を感じる理由

 

 

今回のエッセイでは、私がマリーナ・ブルヴシュタイン博士の講座から

数学的な感性を感じる理由について、 書いていきたいと思います。

 

私は、マリーナ・ブルヴシュタイン博士によるアドラー心理学の講座を、

去年は東京で受講し、今年はオンラインで受講しました。

 

昨年、私が初めてマリーナの講座を受けたとき、驚きました。

 

それは、マリーナのレクチャーから、

「極限」の概念がひしひしと伝わってくる場面があったからです。

 

それについて説明をします。

 

 

 

 

一般的に、アドラー心理学では、

物事の原因ではなく目的を見ます。

 

さらにいうなら、

「人の精神活動は、理想的な目的に向かっている」

と考えます。

 

 

現代では、その理想的な目的のことを、

 

日本語ではしばしば 「仮想的目標」 といいます。

日本にアドラー心理学を導入した野田俊作氏が訳しました。

 

 

一方、マリーナは 「完璧さ」 という言葉を使っていました。

 

(アドラー自身もしばしば 「完璧さ」 という言葉を使っていました)

 

 

完璧さへ向かう絶え間ない運動

 

 

この運動に終わりはないといいます。

 

つまり、人の精神活動は、

常に完璧さに向かって動き続けているのです!

 

 

私はマリーナの言葉を聴いたとき、

数学における極限の概念

が思い浮かびました。

 

そう、数学の微分積分学の中心的な概念である 「極限」 です。

 

 

数の列が限りなくある一定の値に近づくことを、極限といいます。

 

終わることがなく、限りなく近づくという概念です。

 

これは数学における 「無限」 を表しています。

 

 

 

 

 

一般的に、心理学には静的なイメージがあるかもしれない。

 

しかし、動的な 「極限」 のアイデアを前面に押し出すことで、

アドラー心理学の特徴が、くっきりと浮かびあがります。

 

 

参考文献 [2] (このエッセイの最後にある)によると、

 

1955年のインタビューで、 ハインツ・アンスバッハーは、次のように言いました。

 

「動詞でなければ、心理学ではない」

 

 

これに加えて、マリーナは言いました。

 

「活動的な動詞でなければ、有益な心理学ではない」

 

 

これらを踏まえて、

 

数学的な見解から、

 

私 (松岡) は言いたい。

 

「活動的な動詞の運動が "極限" でなければ、アドラー心理学ではない」

 

 

 

 

前回の講義では、

マリーナは、 運動の法則 を中心に据えて、

アドラー心理学を説明してくださいました。

 

運動の法則を中心に据えて、

極限のアイデアを踏まえて講義することで、

とても理論的なレクチャーを展開しました。

 

そういえば、ニュートン力学も、

ニュートンの運動の法則が出発点です。

 

アドラーの運動の法則 が前面に明確に押し出されている

マリーナの講義を聴いて、私はそれらを思い起こさせられました。

 

 

ニュートンの運動の法則とアドラーの運動の法則は似ていますが、

大きな違いもあります。

 

それは、物体の運動は客観的ですが、

人の精神活動は主観的だということです。

 

 

アドラーは著書 『人はなぜ神経症になるのか[1]』において、

 

石は真理の世界にあり、

他方、われわれは人間的な誤りの領域に住んでいるのである。

(p71)

 

と述べています。

 

 

たとえば、石を投げたとき、その軌道は

ニュートンの運動方程式から正確に計算することができます。

 

しかし、人の心は主観的に運動するので、

そのようにキチッと計算できないというわけです。

 

 

 

 

極限の他にも、マリーナの講義から、

数学的な感性を感じることがありました。

 

それは、早期回想のときのちょっとした言葉づかい。

 

アドラー心理学では、子ども時代の記憶を聴いて、

そこからその人のライフスタイルを読み取る手法があります。

 

これを早期回想といいます。

 

このとき、記憶の中で、

1番印象的な部分が重要になります。

 

記憶の中で1番印象的な部分のことを、

マリーナは、MVM ( Most Vivit Moment ) と表現していました。

 

「スナップショットで切り取った瞬間」

と、マリーナは補足していました。

 

 

なんて数学的な言葉なんでしょう!

 

私はこの言葉を聴いたとき、 「積分」 の概念 が思い浮かびました。

 

積分というのは図形の体積を求める操作のことです。

面積を用いて、体積を求めます。

 

 

どうやって?

 

例えば、球体の体積を求める場合、

どうすればいいでしょうか?

 

それは、球体を切った瞬間の切り口を考えます。

 

切り口は円です。

 

切り取った瞬間は 「円」 だと解釈できるというわけです。

 

そして、この瞬間を、積み重ねていきます。

 

つまり、タテ方向のすべての瞬間で球体をカットして、

その切り口の面積を積み重ねれば、体積になるのです!

 

これが積分の考え方

 

 

 

 

< 球面の切り口は円になります >

 

 

< これらの円板をタテ方向に積み重ねたものが球なのです! >

 

 

 

17世紀、微積分学は、ニュートンとライプニッツから始まりました。

 

 

< Isaac Newton : 1642~1727 >

 

 

< Gottfried Wilhelm Leibniz : 1646~1716 >

 

 

その後、 19世紀、ドイツの数学者、ベルンハルト・リーマンによって、

極限による積分の厳密な定義が与えられました。

 

リーマンの与えた積分を 「リーマン積分」 といいます。

 

リーマンは、 1826年に生まれ、1866年に39歳の若さで亡くなりました。

 

アドラーが生まれる4年前に亡くなったのです。

 
数学が着実に進化している時代に、
アドラーは生きていました。
 
 
 

< Bernhard Riemann : 1826~1866 >

 

 

< Alfred Adler : 1870~1937 >

 

 

以上のように、マリーナの講義は、

とても理論的に組み立てられており、

 

極限や瞬間といった 微積分学のアイデアを思い起こさせられる

数学的な感性を刺激される講義だと私は感じています。

 

マリーナ、ありがとうございます。

 

 

 

< Marina Bluvshtein >

 

 

 

■ 参考文献

 

[1] Adler, A. (1964). 人はなぜ神経症になるのか, 岸見一郎(訳), アルテ (オリジナル1929).

 

[2] Marina, B. (2019). The law of movement and a metaphor of Gemeinschaftsgefühl : What is the essence of the law of movement?, 2019 UK Adlerian Year Book, 91-103.

 

[3] Marina, B. (2020). 所属と共同体感覚 : 理論から実践まで, オンライン開催の講座テキスト (日本語).

 

 

 

【執筆者】

 

 

松岡 学

 

高知工科大学 准教授、博士 (学術)

数学者、数学教育学者

 

大学で研究や教育に携わる傍ら、

一般向けの講座を行っている。

 

アドラー心理学の造詣も深く、

数学の教育や一般向け講座に取り入れている。

 

音楽 (J-POP) を聴くのが趣味。

ファッションを意識し、自然な生活を心がけている。

 

出版物:『数の世界』ブルーバックスシリーズ、講談社。 

『5歳からはじめる いつのまにか子どもが算数を好きになる本』スタンダーズ社。

 

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