数学者による算数・数学教育の可能性 ~ 算数・数学の教育を考える ~ | 数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

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どうして子どもは数学嫌いになるのだろう?


そんな問いかけを考えると、

子ども自身が数学ができるとか、できないとかというより、

学校での教え方、

つまり、

算数や数学の教育の問題の方が
大きいように私は思います。



そんなことから、ここでは
数学者の教育への関わりについて、

数学者であり、元三重大学教授の

蟹江幸博先生の教育論文

「教師教育における数学者の役割」


から見てみたいと思います。



 

 

この論文は、

数学者の教育への可能性について

蟹江先生が書かれたもので、
RIMS(京都大学数理解析研究所)との

共同研究の報告となっています。



この論文で、蟹江先生は問いかけます。

数学者は数学の教育に、


関ってもよいのか?
関った方がよいのか?
関ることができるのか?
関るべきなのか?


このような根本的な問題から出発するあたりからも、
蟹江先生の数学者としての姿勢を感じます。


この問題の答えは、
数学者の H. Wu の次の言葉に見ることができます。

「上流が濁れば下流が濁る」

これは小学校や中学校、高校の数学教育が濁ると、
その波は大学にもやってくるということの比喩です。


小学校や中学校、高校の数学の教育が、

綺麗であってほしいということは、

 

私も願っています。

 


そこに貢献することが数学者の教育への役割なのかなと、

H. Wu の言葉から感じます。

 


実際、H. Wu は、

小学校、中学校、高校の数学教育に対して、
何かをしなければならない

 

という

 

数学者としての使命感を持っていました。





また、数学者のハイマン・バス は、

数学の学習につまずく学生が多い場合、


悪いのは学生ではなく、
教育のシステムがうまく機能していないからだ


と語り、

時は来た。
数理科学者が、教育者としての役割について考え直すべき時が


と宣言しています。


このような数学者と数学教育の関わりを踏まえたうえで、
蟹江先生は、数学者が関わるべきテーマは、

子どもを教える学校の先生たちの数学的な資質を向上させること

つまり、

 

教師教育だと述べています。


数学を教える学校の先生自身が、

 

高い数学的な素養を身につけ、

数学への魅力を感じていれば、

 

その想いは、生徒たちにも伝わると、

私も考えています。

 

蟹江先生は、

研究テーマ 「数学教師に必要な数学能力形成に関する研究」 を提出し、
RIMS (京都大学数理解析研究所) との共同研究に採択されました。


積極的に数学教育に取り組む蟹江先生は、
 

さらに、

 

この共同研究とは別に、


高校の先生方との教育研究集会、
高校生の夏の学校での講演
日本数学会の出前授業プロジェクトへの参加
小学校・中学校・高校への40回以上の出前授業



など、精力的に数学活動を行っています。


しかしながら、


蟹江先生自身、

「何をしてもほとんど反応がない
 

社会に何も貢献できていないのではないか
というじくじたる思いがある」


と述べています。


「数学者の教育への関わり」

というのは、とても重要なことだと思います。


しかし、

 

社会からの関心が薄いという現状に、
私もとても寂しい思いをしています。



蟹江先生は、

世の中の大学生たちが 「数学の香り」 に触れることなく、
学校の先生になることを憂いています。

特に、小学校の先生は、国語、算数、理科、社会など、
1人で多くの科目を教えなければいけないため、

大学生時代、算数や数学の学習にかける時間は少なくなります。



私自身、蟹江先生の論文を読み、
数学者の教育への関わりで大切なことは、

「数学の香り」 を子どもたちや先生方に伝えること

 

だと感じました。





最後に、私と蟹江先生の関わりについて、
書かせていただきます。


蟹江先生は三重大学を退職されましたが、


私は以前、数理解析研究所での研究集会で、
お姿をお見かけしたことがあります。

そのとき、蟹江先生から
数学への活力に満たされた雰囲気を感じました。


休憩時間にご挨拶はさせていただきましたが、

それほどたくさんお話をさせていただいた

わけではなかったように思います。

 


蟹江先生とは、

何か直接的な関わりがあったわけではないのですが、

・私が三重県出身であること
・研究集会で元気なお姿をお見かけしたこと
・私が学生時代、蟹江先生の数学論文(土屋先生との共著)をよく持ち歩いていたこと

など、

 

間接的に、私に影響を与えてくださった数学者です。


特に、私が学生時代に読んでいた蟹江先生の数学論文は、


通称、「土屋・蟹江」 と呼ばれている有名な論文で、
共形場理論という物理と数学の融合的な分野のものです。

当時の私は、共形場理論に興味があり、
いつかこんなことをしたいなあ、と憧れていました。


しかし、

時が経つにつれて、

私の数学的な興味も移り変わり、
いつしかリー代数を経て非可換環論へとたどり着きました。


そして、

 

数学教育に取り組むようになった今、

蟹江先生の論文が、また私の前に現れました。

 


間接的ですが、

とても不思議な縁を感じます。

 

 

 

 

※ 引用文献

蟹江幸博 

「教師教育における数学者の役割-RIMS 共同研究の目標と現状-」

数理解析研究所講究録, 第1657 巻2009 年1-22.

 

 

 

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