フロイデンタールの伝えたいこと ~算数・数学の教育~ | 数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

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オランダで活動した数学者ハンス・フロイデンタールは、
数学の研究と教育の両方に影響を与えました。

彼は数学の研究や教育だけでなく、数学史や哲学の知識も深く、
さらに、詩や小説も手がける多才な人物で、「万能の人」 と呼ばれました。

第2次世界大戦中、ナチスのオランダ占領によって
フロイデンタールは大学を追われますが、

その余暇に自身の子どもの教育に関わる中で、
数学を教えることへの関心を深めていったといいます。


晩年、彼は本格的に教育研究に取り組みました。

 

 

 

 

フロイデンタールは、数学の教科書に書かれている
知識やスキルを重要視しませんでした。

また、教材開発の研究にも興味がありませんでした。


効果的な教材を開発すれば、子どもたちの数学の成績は、
それなりに上昇するかもしれません。

しかし、フロイデンタールは、そんな目先の結果ではなく、
もっと本質的なことを子どもたちに伝えたかったのです。


彼は算数・数学の教育で最も重要なのは、

「考えることをいかに教えるか?」

であると示唆しました。


フロイデンタールはいいます。

「考えること (thinking) は技法 (skill) ではない」


印象的な言葉です。

公式や解法のパターンを覚えて、
問題を解くことには何の意味もない

私には、フロイデンタールの主張から
そんなことを感じられます。





では、

子どもたちに「数学的に考える」ことを伝えるために、
どうすればいいのでしょうか?


フロイデンタールは、「数学化」の考えに
たどり着きました。

ある出来事や状況を数学(式や文字など)で表現する
ことを 「数学化」 といいます。


たとえば、

白い花が2本、赤い花が3本、あわせて5本の花が咲いている状況は、

2+3=5

と数学の言葉で表現できます。

このように現実の状況を数学で表わすことが「数学化」なのです。


ですから、算数の学習では、いきなり計算問題をするのではなく、

“チョコレートやクッキーを買う”

というような日常の様子から始めて、
値段や枚数などから式を立てるというプロセスが重要なのです。


フロイデンタールは、数学化という行為を通して、
子どもたちに “数学的に考える” ことを伝えようとしたのです。


数学化は、現実の世界を数学で表わすだけでなく、
ファンタジーの世界や数学の形式的な世界でも良いといいます。



数学的な思考力の育成に主眼をおいた 「数学化」 という考え方は、
現代の数学教育においても大切な視点を与えています。

 

今回は、フロイデンタールについて紹介させていただきましたが、
フロイデンタールは、私にとって印象的な数学者の1人です。


なぜなら、彼の研究業績の1つに 「例外型リー群の構成」 があって、
卓越したインスピレーションに満たされた論文を書いているからです。

私の解釈では、この研究は、

「数って何だろう?」

「数はどこまで広がるのだろう?」

といった根本的な疑問に1つの方向性を与えているように感じるのです。



< 参考文献 >
蟹江幸博、佐波学 「数学の教育の個人的側面と社会的側面 -教育数学の構築に向けて-」

佐波学 「Hans Freudenthal と Hyman Bass の数学教育について」

 

 

 

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