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プロレス研究所~バックドロップの謎・・・その3~

さあ、いよいよバックドロップの謎、最終論です。


前回は打撃、組み、の格闘技のそれぞれの構えの話と、組み系格闘技の構えとその構えからなる技や受けの性質のお話をしました。そこで・・・まずプロレスの構えを考えてみたいと思います。


プロレスの基本構えは、組み系格闘技にして柔道やレスリングとは逆の左半身。つまり右手・右足を半歩ほど引いた状態がそれになります。


で、ここからです。


この構えで向かい合い、ガシっと組み合うのを見たことないでしょうか?


どういうものかといえば、まず左半身です。そして前に出ている方の腕、自分の左腕を相手の首に掛けます。つまり相手も自分の首に左腕を掛けることになりますね。そしてその掛かった腕の内肘のあたりに自分の右腕を掛けるのです。相手も自分の左腕に右手を掛けてくるのでこれでガシっと、というわけです。


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こんな感じです


相撲でいう右四つ、左四つ。それに柔道でも右手で襟を持ち、左手で袖を・・・というのが基本の形としてあります。このように、プロレスにも競技としての共通した組み方があるのです。昔なら四つに組む。今ではロックアップと言われる、実はこれがその形に当てはまるのです。


団体、人種問わず、プロレスで立会いにガシっと組んだなら、この形なんです。この組んだ状態から力のある方がロープまで押していって・・・クリーンブレイクしようとして張り手、なんてよくあった光景ですよね。他にも腕を取ったり、ヘッドロックに移行したりと、ここからレスラーによりさまざまな動きがあります。


が、今回のテーマと最も接点がある、この状態からのヘッドロックについて説明しようと思います。


画像で見てみましょう。


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まずガシっと組みます


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そして相手の右首付近に掛けていた腕を回します


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頭を抱え込んで・・・


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ヘッドロックとなります


ここで、気がつきませんか?この状態・・・そう、スタン・ハンセンの頭が猪木の左脇の下に来ているのです。


さて、ここでちょっと・・・プロレスの基本動作というか、奥深きルールといいますか・・・そのへんについてお話したいと思います。


実はプロレスというのは腕や足を攻撃する際、


"左から攻める"


という鉄則が存在するようなのです。


リストロック、アームロック、トーホールド、レッグホールド・・・これらの技はプロレスでは相手の左腕、左足を攻めるというのが定石のようなのです。理由はボクにもわからないのですが、古来のプロレスより、どうも受け継がれし動作というか、見えないルールというか・・・こういうのが存在するようなんですね。


で、ボクが思うところなのですが、どうやらこのヘッドロックもしかりではないのかな?と思うのです。


ガシっと組んだ組み方がレスラー共通で、そしてヘッドロックまでの流れを見れば・・・この技は左腕でロックするのがレスラー共通のもの、基本のようなのです。


ヘッドロックはバックドロップがまだプロレス界に生まれぬ古い時代・・・ハッキリこの時代というのはわかりませんでしたが、初代世界王者といわれるフランク・ゴッチ(1978~1917)の時代よりもっと前、古代オリンピックでパンクラチオンが正式種目だった時代からあったとされる説もあるようなのです。このように壮大な歴史を経て伝えられてきたとすれば、ヘッドロックとはこういう形でこういう技なんだと、古来より脈々と受け継がれてきたモノだったんではないかと思うのです。


そうなるともはや暗黙というよりも、守るべき伝統として知らず知らずのうちに伝えられてきたもの、だったのではなのではないでしょうか?言ってみれば技のDNAと言えるのかもしれません。だから左から攻めるというのもレスラーの都合による暗黙ではなく、そういったモノがあってのものかも・・・と言えるのかもしれません。


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ヘッドロックはルー・テーズの師、エド・ストラングラー・ルイスの得意技でもあった(1926年のもの)


太古の昔、ヘッドロックが出現し、やがてルー・テーズが登場し、世にバックドロップが出現しました。


バックドロップは日本でも歴史のある柔道の裏投げからという説や、はては古代のペルシア帝国のオスマン・トルコの時代に似た形の技が使われたことがあるという記述が残されていますが・・・正式に技として、これがバックドロップだ!と出たのは、やはりルー・テーズからです(テーズの自伝によれば初公開は1948年の7月20日の世界戦からだそうです)


こうしてバックドロップが登場。テーズが使うようになってから、そこからヘッドロックの体勢からバックドロップの体勢というシーンが世に誕生するわけです。


テーズはグレコローマンの反り投げを、当時のコーチのアド・サンテルとあの沖識名にアドバイスを受け改良したと言っています。当時のプロレスのレスリング技術を見ると派手な技はなく、レスリングの投げや関節技が主でした。だからスタンドで投げるなら組み合いから・・・ヘッドロックの体勢から反り投げを・・・という感じで改良していったんではないでしょうか?


つまり・・・バックドロップが相手の左脇の下に頭を入れての形になったのは、ヘッドロックの形から・・・


これが理由だったのではないか?とボクは思うのです。


いかがでしょうか?


テーズの攻撃というのはいつもラフで、スタンドでは相手の頭をまさにヘッドロックに抱え、顔面にショートパンチや肘を連発するのが得意でした。これをイヤというほど相手にやるのです。連発されれば効きますし、さすがに相手がイヤになります。そこで相手はこのショートパンチや肘から逃れようとテーズを無意識にヘッドロックに取ってしまうのです。そこで、待ってましたとテーズのバックドロップが炸裂するのです。


そうです、ショートパンチや肘は相手のヘッドロックを誘うもの・・・バックドロップが有名になってしまったテーズが自分からバックドロップの体勢に入れば相手は警戒してしまうのは当然です。だから相手にヘッドロックを仕掛けさせる戦略を・・・実はこれがテーズの考えられた攻撃なのでした。


そんなテーズが現役ながらプロレスから一線を置くと、バックドロップを使うレスラーが多くなりました。しかしフィニッシュホールドにしたレスラーは数少なく、多くがヘッドロックを返すつなぎ技としてでした。


それだけでもイヤな感じがしてたのに・・・時代は流れ、今ではプロレスのなんたるかも知らず、プロレスのバックドロップを使うレスラーが出現しています。


そう前回、コメントにもあったようにプロレスの試合でありながらバックドロップを逆でやってしまうようなことが・・・起こってしまっているのです。


プロレスとはなんなのか・・・


話題になった芸能人がやるものなのか?ろくに練習もしないで、できちゃうものなのか?ただ客が喜ぶことだけを・・・やればいいのか?


それをやってきた結果、今のプロレスは一体どうなったのか・・・?


道場でも試合場でも強くてかっこいいレスラーと、そしてバックドロップが必殺技のプロレスがいつまでも見られるよう、願うばかりです。


プロレス研究所~バックドロップの謎・・・その2~

さあ、というわけでバックドロップの謎、その2です。


前回は、なぜプロレスの試合でレスラーの放つバックドロップは、みな投げる相手の左の脇の下に頭を入れるの?という疑問を投げかけました。で、今回は解明すべく・・・少々プロレスから離れた視点のお話を交えて、してみたいと思います。


さて・・・プロレスしかり、格闘技には基本になる“構え”があります。


K-1やボクシングなどを見ていればわかると思いますが、打撃系の格闘技は利き手・利き足を引き、半身になった状態が基本構えになります。右利きなら右足を半歩ほど後ろに引き、左を前にしての半身がオーソドックス・スタイルです(※中国拳法など、打撃系でも利き手が前になるものもあります)


一方、組み系の格闘技は逆に利き手・利き足を前に出した半身、右利きなら右手・右足を前に出した形がオーソドックス・スタイルになります。


世の中には右利きが多いのはご存知のとおりです。利き腕、利き足を前に出す組み系格闘技の構えは、これと相成って必然的に右半身になった構えが多くなり、技も当然右の技が多いということになります。


ということは、受ける技も当然右のが多いということになります。


そこで、次の画像です。


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画像は井上康生さんの内股という技です。これは右の内股なので、まさに相手は右の技を受けている形になります。この他にも払い腰、体落としなど、右の技を受ける場合にはこのように自分から見て相手が左側にくるのです。つまり右利きの多い世の中、右半身の構え、右の技と・・・このように組み技系の格闘技は構えの性質上、この体勢が非常に多いということになります。


次に、返し技のお話をします。


返し技というのは文字通り相手の技を返すというものです。といっても・・・返し技といっても競技や体勢、相手の技によっていろいろありますが、組み系の格闘技を経験していない人でも返し技といえば“裏投げ”を連想する方は多いのではないでしょうか?


裏投げはサンボや柔道で使われる技です。用途としては相手の技を返すというのが主です。先に出ました井上康生さんの内股の画像のように内股や払い腰にきた相手をそのまま後ろに返すという技です。試合ではもちろん動きの中で繰り出されるのでいつもきれいな体勢で・・・とはいきませんが、形としては相手を抱え、へそに乗せて倒すところからバックドロップに似ていますね。一説によればこの裏投げがバックドロップの原型、なんて解釈もあるくらいなのです。


って、今なんと!?


そうなんです。というわけで今までの話をまとめてみますよ。


まず組み系格闘技は右半身の構えが多い。


得てして技も右が多い。


だから受け側は自分から見て相手が左側にくることが多い。


そしてそれを返せば?バックドロップのような投げ・・・


ということは!?


簡潔に言いますと、右の技がきて、それをバックドロップのように返せば・・・投げる方の頭はどっち?


そうです。相手の右脇の下に頭を入れての・・・っていう形になりませんか!?


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平成元年に猪木と対戦した柔道のショータ・チョチョシビリの裏投げは、まさに!!


ボクはわずかながら柔道、レスリングの経験があります。先程も述べたとおり、柔道やレスリングのグレコローマン・スタイルの試合のときは構えの特性上、右の技を受けることが圧倒的に多くなります。


この体勢ですと、裏投げに行かなくとも瞬間的に“受け”つまり相手の技をこらえる、という行為が必然になります。


だから裏投げやバックドロップをやろうとしなくとも、長い間の習慣から条件反射で相手の右脇の下に頭を入れたような形の“受け”・・・を経験することが非常に多くなるんです。


つまり、そういった経験や条件反射の中で身に付いた習性上、柔道やサンボ、レスリング出身者にバックドロップをやって、と頼んだとしたら、無意識でチョチョシビリの形の方をやる人が多いのではないかと・・・


この理論をプロレスにも当てはめたとしたなら・・・


プロレスの構えに対応した形での動きや技に、レスラーが条件反射に相手の左脇の下に頭を入れてのバックドロップをやる、やってしまう、そういうふうになってしまう理由が存在するのではないのか?


という考えが当てはめられるとは・・・思えないでしょうか?


というわけで次回は、いよいよ確信に迫ります。


プロレス研究所~バックドロップの謎・・・その1~

というわけでございましてプロレス研究所です。


これはですね、ボク的に思うプロレスの疑問や謎をここで紐解こう!っていう趣向でやろうと思っているものでございます。マニアックな目線で申し訳ないですが、読んでいただければうれしいです。どうぞよろしくお願いします。


さて、プロレス研究所。初回の今回は“バックドロップ”にロックオンしてみたいと思っています。でもバックドロップに一体どんな謎があるんだぁ?お気持ちは察するとおりです。でもあるんですよ、謎が・・・ボク的にも積年の謎である謎があるんです。


バックドロップ。その形はもう、すっかりおわかりだと思います。相手の脇の下に頭を入れ腕をクラッチし、そり投げる技ですよね。


でも・・・その技には昔からとんでもない疑問があったのです。それは何かっていうと・・・バックドロップは投げる方が脇の下に頭を入れる形になりますが


その頭を入れる脇は、相手の右の脇の下?左の脇の下?


というところなんですよ。


えー・・・ちょっと話は戻りますが、ここで以前やった必殺技を語ろう!第一回 ~バックドロップ~ をあらためて見ていただきたいんです。どうでしょうか?バックドロップの画像を見てボクのこの疑問に対して何か気づきませんか・・・?


そう、レスラーはみんな相手の左の脇の下に頭を入れてのバックドロップで投げているんです。


ボクはこの疑問を抱いて以来、そう高校時代ですかねぇ気づいたのは・・・とにかくそれ以来、バックドロップを見るたびこの頭の位置が気になり、気にして見てきました。しかし、やはり・・・プロレスの試合ではレスラーみんな相手の左の脇の下に頭を入れてのバックドロップを行っていたのです。


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この形が、いわゆる"投の形"なのだろうか?


うーん・・・たとえば、人間て利き手云々じゃなくて、左右である程度決まった形があるじゃないですか。右と左の手を合わせ指を組み合うと、右の親指が上に来る人、下に来る人って別れますよね。腕を組むときもそう。交差して左腕が下に来る人、上に来るで別れます。他にも走り幅跳びの踏み切りの足、体操の側転の向きなど・・・


このように人には左右である程度決まった形、クセがあるものです。これらは当然無意識で繰り出されるものなので、それこそとっさの動きの中では変えられるはずはないと思うんですよ。だからバックドロップも、やりやすい方向がレスラーによってあるはずなんじゃないかなぁ?とは思いませんか?


だから試合中、夢中になりとっさに技が出たら相手の左の脇の下に頭を入れてのバックドロップばかりでなく


相手の右脇の下に頭を入れてのバックドロップ


が出てもいいはずだと思うんですよ。でも、ないんです。レスラーは、どうしてみんな同じ方に頭入れて投げるんでしょうか!?


これは何かあるはず。そもそも入り方から持ち上げるところまでほぼそっくりなアトミック・ドロップ(尾てい骨わり)は、テリーファンクに至ってはバックドロップは相手の左の脇の下に頭を入れて、で、アトミック・ドロップは相手の右の脇の下に頭を入れて行っているんです。これは・・・なぜなんでしょうか・・・


次回、その謎にさらに迫ってみようと思います。