68.ヤマザキマリ:テルマエ・ロマエ Ⅳ
悲嘆に暮れたハドリアヌスとともに入浴し、幼いマルクスの後見を託される最中にルシウスは、またしても現代日本へタイムトリップする。
それは伊藤と呼ばれる温泉であり、そこでルシウスは美しい女性、小達さつきと出会う。
いつもなら風呂に潜ることで、ローマへ戻ることができたのに、今回は何度試みても戻れない。
さつきの口利きもあって、倒れたルシウスは運ばれた宿屋で働くこととなる。
ルシウスがディアナを想起するほどの美しいさつきは、売れっ子芸者の娘であったが、不治の病で倒れた母の「質実剛健で不屈の男を選びなさい」という遺言にしたがい、小学校のころよりシーザーにあこがれ、古代ローマを研究。ラテン語にも通じた天才であった。
初めて出会った言葉を解する女性の導きによって、ルシウスの日本文化は深まることになったのだが…
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評価:☆☆☆☆ 80点
ネタ切れが心配されたテルマエ・ロマエの続刊です。第二巻では温泉のバリエーションによって、第三巻ではローマ内部での政情をからめることで何とかつないできたこの作品でしたが、さすがにそれも限界にきたのか、ようやく日本人ヒロインの登場です。あっちとこっちを行ったり来たりして、日本の浴室文化を密輸入するだけでは、どこまでもルシウスの孤独な独り芝居にとどまり、行き詰まることは初めから見えていました。新しいキャラクターの登場をどう今後のストーリー展開につなげてゆくのか、注目したい『テルマエ・ロマエ』です。
67.井上雄彦:リアル 11
これは違う
これは幸せって言うんだ
(井上雄彦『リアル11』)
2011年11月11日は井上雄彦『リアル11』の発売日でした。
『リアル』は三人の若者の、バスケットボールを通じた再生の物語です。
西高のバスケ部を、部員との確執から退部した野宮朋美は、バイクの事故で同乗した女の子を半身不随にしてしまう。その結果、高校も中退し、将来を模索するうちに再びバスケットボールに向かい合うようになる。
中学時代は全国区の陸上選手であった戸川清春は、骨肉腫で右足の一部を切断することになり、陸上選手としての未来を絶たれるが、車椅子バスケに出会うことにより、頭角を現し、そこで野宮とも出会う。
西高のバスケ部のキャプテンであり、学業も優秀であった高橋久信は、交通事故で脊髄損傷し、いったん失意のどん底にあったが、しだいにリハビリにも前向きに取り組むようになる。
やがて、野宮は東京ライトニングスのトライアウトに挑戦する。
その中で、パワー、技術、どれをとっても及ばないプロの壁にぶつかるが、理想のポイントガードを意識して挑み続ける。
車椅子バスケの世界を発見したばかりの高橋もまた、自在に操る選手たちの姿と自分の落差に愕然とするが、それを契機に失われた本来の輝きを取り戻すようになるのだった。
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著者:井上雄彦 書名:リアル11 出版社:講談社 2011年11月刊
評価:☆☆☆☆★ 90点
宮本武蔵を描く『バガボンド』と並行して描かれた『リアル』は不定期連載で、スローペースで進行してゆきます。11巻になってようやくばらばらであった野宮と高橋の来たるべき接点が暗示されます。長いトンネルをたどり続けていた高橋の見つけた光明、しかしそれはまだ山の麓にすぎませんが、物語がようやく動き始めるのを感じます。
今回の白眉は、トライアウトではじけ飛ばされ、それでも立ち上がる野宮の内的なモノローグにあります。思わず胸が熱くなり、泣きそうになる台詞の全体はリアル11巻でご覧ください。
66.中村光:聖☆おにいさん
このコミックが世界中で翻訳され
読まれるようになれば
人類の歴史は変わるかもしれない・・・
そんな風に思えてしまうのが、中村光の『聖(セイント)☆おにいさん』です。
天界から有給休暇をもらったブッダとイエスは、立川での同居生活を始めます。
主婦のような視点で家計を考えずにはいられないブッダ、衝動買いに走るイエス、二人の対照的な個性も楽しく描かれています。
ヤマザキマリの『テルマエ・ロマエ』同様、それぞれの視点から、日本の日常生活を観察し、様々な騒動を引き起こすという設定です。
もちろん二大聖人ですから、それなりの超能力を備えています。
ブッダはそのスマイルで小さなトラブルを収拾したり、苦行を感じる時には空中浮遊したりします。
イエスは水をぶどう酒に変え、石をパンに変えるという奇跡を表し、心が悲しみを感じる時は聖痕より血を流します。
それに輪をかけるのが、天界から見守る弟子たちや家族の所業です。
一挙手一投足に過剰反応を示し、天罰をくらわそうとしたり、自己犠牲で身をさし出したり・・・
そんな二人の生活者としての姿を見るにつけても、この国の宗教的寛容性は、世界に誇るべきものではないかと思わないではいられないのです。
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著者:中村光 書名:聖☆おにいさん 1~7(以下続刊予定) 出版社:講談社
評価:☆☆☆☆★ 90点
おそらくは、事情がややこしくなるのを避けて、もう一つには日本人にはなじみが薄いせいで、イスラム教とマホメッドは中では登場しません。神社の神様も言及こそされるものの、姿を現しません。その点を差し引いても、この作者の意図は十分に成功していると言えるでしょう。今でも地球上では、宗教的対立で血を流す土地が消えることはありませんが、中東やアイルランドでも、それぞれの宗教はその個性を保ったまま、このコミックのような風景が日常的に見られるようになれば、どんなに素晴らしいことだろうと思わずにはいられないのです。
65.石田衣良:明日のマーチ
自分たちに不都合だから、メンバーからはずす。
そんなことをしたら、派遣切りをする工場と同じだ。
明日のマーチは仲間を見捨てない。
石田衣良『明日のマーチ』は、山形県鶴岡市の工場で、派遣切りにあった四人の若者が、ただ東京へと歩いてゆくという物語です。
一種、青年版の『スタンド・バイ・ミー』とも言えるでしょう。
しかし、その模様をメンバーの一人がブログにアップし、その反響が広がるにつれて、この行程は変化してゆきます。マスコミが伝え始めると、派遣切りに対するプロテストの象徴として、賛同する若者も増えてきます。
同時に、最初に報じた雑誌とはライバルの関係にあるメディアがメンバーの過去を洗い出そうとする。
彼らは果たして東京へとたどり着くことができるのか。
そして、行く手に待ち受けるのはいかなる未来なのか。
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著者:石田衣良 書名:明日のマーチ 出版社:新潮社 2011年6月刊
☆☆☆★ 70点
山形から日本海へ、新潟から長野へと、具体的な行程を進んでゆく前半部分は爽快感があるし、メンバーが空中分解しそうな危機を乗り越える場面までは感動的に描かれていますが、そのあたりがピークでそれを最後で越えることはありません。それぞれのインターネットの時代である現代の日本社会の縮図も盛り込もうとしたがために、突き抜けるような感覚にはなっていません。
現実に実行すれば、似たような展開になるのかもしれませんが、一見反抗的に見えて、社会との予定調和な妥協点を探してしまうあたりに、この著者の限界が見えてくる気がします。現実が八方塞がりである分、フィクションはもっと荒唐無稽であってもよいのではないかと、私は思います。


