NO BOOKS NO LIFE -読書の時間―  -5ページ目

72.二ノ宮知子:87CLOCKERS 1

クラシックの次はPCのオーバークロック

草食系男子音大生が

一目ぼれした美女をめぐり

オーバークロックの頂点に挑む




オーバークロックとは「パソコンのCPUやメモリーとかを定格のクロックを越える高いクロック周波数で動かすこと」。

そのオーバークロックでチューニングしたマシンで世界中の人と競争する世界が、87CLOCKERSの描く世界です。

音楽大学バイオリン科の一ノ瀬奏(いちのせかなで)は、人と争ってまで何かを得たいとは思えない性格で、コンクールや留学にも縁がない地味な学生であった。

四年を迎え、周囲は就職活動に奔走するが、母親の音楽教室を継ぐことであっさり終了。

自分でも、夢のないつまらない人間だと思ってしまう奏の前に現れた女性は、寒い夜に裸足でアパートの外に立っていた美しい女性、ハナだった。

彼女は、そのアパートに住む世界的なオーバークロッカーであるMIKEのために、パイナップル工場でアルバイトしてまで彼の活動を支えていた。特に男女の関係にあるわけでもないが、彼女のアシストを当然の如く思い酷使、失敗すると当り散らすMIKEの態度を見かねた奏は、ハナに対し、「僕が一番となったら、彼と別れて僕と組んでくれますか」と大胆な申し出を行い、ハナもこれを了承する。

もしかして僕は

彼女のためなら、変れるかもしれない―



そんな思いを胸に秘め、パソコン素人からオーバークロッカーの頂点への道を奏は歩み始めるのであった。
87CLOCKERS 1 (ヤングジャンプコミックス)/集英社
¥590
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著者名:二ノ宮知子 書名:87CLOCKERS 1 出版社:講談社 2012年4月刊

評価:☆☆☆☆ 80点

『のだめカンタービレ』で、日本に一大ブームを巻き起こした二ノ宮知子の新作は何とPCオタクの世界。何ともニッチな世界を選んだものです。ここでも持ち前の取材力を発揮し、素人同然の知識からスタートしながら、作者はディープな世界で動き回る人物を生き生きと描き出します。

「のだめ」の読者を離さないための工夫として、主人公をメガネの草食系音大生にした上、ハナはのだめをブラッシュアップしたスタイル抜群の美形にし、MIKEはビジュアルは千秋真一そのまんまで、オタク度とオレ様度をアップしたあたりも抜かりがありません。

小さいころから多くの人が習わされ、学校の授業でも接するピアノやクラシック音楽の身近な世界に比べると、地味でニッチな世界ですが、PCオタクの聖地、秋葉原周辺にうごめく人の世界も、日本の一つの特徴的な産業の一つ。音大生、一ノ瀬奏が、ゼロからのスタートでどこまで世界の頂点に近づけるのか、今後の展開を注目したい作品です。

71.大場つぐみ・小畑健:バクマン。20

いよいよ、『バクマン。』もこの20巻で完結となります。

この物語の柱は二本あります。一つはコミック業界の内幕もの。熾烈な競争の連載漫画の成功に至る道筋を、作家と編集者を中心に浮き彫りにした群像劇です。

もう一つは主人公の真城盛高(ましろもりたか)と亜豆美保(あずきみほ)の純愛ラブストーリー。

物語がスタートした時には、中学生だった二人も、今や24歳。

真城は亜城木夢叶(あしろぎむと)のペンネームのもと親友の高木秋人(たかぎあきと)と少年ジャンプを代表する売れっ子漫画家となり、亜豆も声優として人気急上昇。

真城の描いたコミックがアニメ化し、その声を亜豆が担当するという大きな目標が叶おうとするその直前に、二人の交際の事実のスクープでした。

交際の事実を否定しろと迫る事務所の社長など周囲が騒然とする中、ラジオ番組で自らの心の声を語りだす小豆。二人はこの事態を乗り越え、本当に夢を叶えることができるでしょうか。

バクマン。 20 (ジャンプコミックス)/集英社
¥420
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作者:大場つぐみ・小畑健 書名:バクマン。20 出版社:集英社 2012年7月刊

評価:☆☆☆☆ 80点

直球勝負の純愛ラブストーリーなので、最後は予定調和で終わります。世の中こんな風にうまくゆくわけがないという声もありそうですが、これ以外の終わり方も読者は認めることができないでしょう。自らの夢についても、恋愛についても、屈折した表現しかしにくくなった若い世代に対する、二人の作者からの渾身のメッセージであると私は受け取りました。

70:石井あゆみ:信長協奏曲

『信長協奏曲』タイムスリップものの時代劇コミックです。

勉強嫌いの中学生であるサブローは、学校から帰る途中歩いていた塀から落ちた弾みで戦国時代へとタイムスリップします。

そこで出会ったのが、若き日の織田信長。なんとサブローとそっくりの姿形だったのです。

幼いころより病弱で、武家の跡継ぎとしての自らの資質に疑問を感じていた信長は、サブローは自分の代わりに織田信長として生きることを提案、サブローはこれを快諾。かくして、織田信長として天下統一の道を歩むことになります。

病弱ながらも品行方正であった本人よりもたくましく、型にはまらぬ考え方の持ち主であったサブローの言動は、織田家家中に様々な波紋を投げかけます。

デートと称して、ともに馬の遠乗りに出かけることを喜ぶ妻の帰蝶、うつけとして主君の命を奪おうとする近習の池田常興(つねゆき)、元気になったことを喜ぶ父の織田信秀

そんな中、「信長は天下をとる男」と豪語しながら、サブローは現代人としての奇想天外な発想を実行しながら、戦いを勝ち抜いてゆきます。

帰蝶の父である斉藤道三、幼くして織田家に人質にとられた家康、かつて信長の命を狙う忍びでありながら取り入ることに成功した秀吉など様々な武将との出会いの中、天下統一の道を歩むサブロー=信長。

その一方で、いったん姿を消した本物の信長は、やがてある有名な人物となって再び、サブローの前に姿を現します。第三巻の後半で、その正体を知った読者は今後の成り行きが気になり、読み続けずにはいられなくなることでしょう。

そう、『信長協奏曲』は、タイムスリップによって信長になったサブローだけの物語ではなく、二人の信長が織り成す数奇な運命の協奏曲なのです。


信長協奏曲 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)/小学館
¥460
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著者:石井あゆみ 書名:信長協奏曲1~6(以下続刊) 出版社:小学館

評価:☆☆☆☆ 80点

最初のタイムスリップは何の仕掛けもなく、あまりに安易なご都合主義ですが、本来時代の型にはまらない信長の言動は、現代人のそれに近く、こうした設定もスムーズに受け入れられ、ストーリーを楽しむことができます。サブローが勉強嫌いで、日本史の知識もあやふやで、誰が信長を殺したかの記憶があやしいというのも一種のお約束。タイムスリップした現代人は他の武将となって、あえなく戦死したりするので、サブローも史実通り死んでもおかしくないという設定も秀逸。果たして、サブローは天下統一の後、信長として死ぬのか、それとも現代に生還することができるのか、最後が気になる歴史ファンタジーです。

信長協奏曲 7 (ゲッサン少年サンデーコミックス)/小学館
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金環日食

2012年5月21日

天気予報では曇りで、観測は困難だと思っていた金環日食ですが、雲の向こうに見えました。

7時12分 三日月みたいな太陽

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7時34分 金環日食のピーク


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7時44分 雲が多くなり、観測が困難になりました。

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日食メガネを買いそびれたので、曇り空も結果オーライとしよう。

69.荒川弘:銀の匙 2

 『銀の匙』は、傑作『鋼の錬金術師』荒川弘が北海道の農業高校を舞台に描いた青春物語です。

 寮があるという理由で、札幌の中学から一般入学した八軒勇吾は、机の上での勉強は得意だが、農業の知識や技術もなければ、目標も持てない普通の高校生。あらゆる面で、周囲との引け目に悩む毎日だった。

 入学して間もない春、校内に発見した壊れた窯を使おうと、ピザを焼くことになり、学内のあちこちから原材料を調達する中で、しだいに周囲との溝を埋めてゆく勇吾。

 ここ大蝦夷農業高校では、夏になると、寮も閉鎖され、みなそれぞれに自分の家に帰って家業の手伝いをすることになる。家に帰りたくない勇吾に渡に舟だったのが、彼がひそかに思いを寄せる御影アキの実家でのアルバイトの誘いだった。

 牛や馬の世話をし、朝から晩まで働く中で、次第に酪農の世界のリアルへと彼は足を踏み入れてゆく。

 それは動物たちの生と死が日常のように繰り返される過酷な世界でもあった…

銀の匙 Silver Spoon 2 (少年サンデーコミックス)/荒川 弘
¥440
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 著者:荒川弘 書名:銀の匙2 出版社:小学館 2011年1月刊
 評価:☆☆☆★ 70点

 『鋼の錬金術師』や、『獣神演武』などのファンタジー冒険劇を生み出した荒川弘が、一転して農業高校を舞台としたリアルな青春ものに転じたことで話題となりました。

 これも一種の自分探しの物語には違いないのですが、『鋼の錬金術師』27巻を一気読みしてみると、その面白さや完成度の高さは圧倒的で、ファンの人の心理としては戸惑いを隠せないでしょう。

 農業学校を舞台にした青春ものとしては、石川雅之『もやしもん』があります。しかし、こちらは主人公が菌が見えるという巧みな設定や、その姿がキュートであったり、登場人物が超個性的である点など、根強い人気を集めています。

 丁寧に取材し、人物の個性や家庭的な背景も描きこんではいるものの、人間関係の深い心理に踏み込んでいるわけでもなく、物語を牽引してゆく力は今一つです。

 『鋼の錬金術師』では、主人公の兄弟が錬金術によって母親を蘇らせようとして失敗し、兄エドワードは片手足を、弟アルフォンスは身体をまるごと失い、それを取り戻そうとする旅という運命的なものがありましたが、『銀の匙』ではそうした深い設定は見られないまま淡々と学園生活が描かれてゆきます。

 自分探しの物語であれば、主人公の中学時代の鬱々とした想いからスタートすべきではなかったでしょうか。

 人生の選択として農業高校を選ぶまでの葛藤をまずドラマにすべきであり、最初に答えを農業高校の中に限定しその中で見つけようという展開はどうなのかと個人的に思います。

 また、『鋼の錬金術師』にあった善と悪との対決の構図も存在せず、登場人物のほぼすべてが個性や考え方の違いはあっても善人という『銀の匙』には、ドラマチックな展開を望むのは難しい気がします。

 さらに、恋愛ものとするには、ギャグタッチで感情を発散してしまい、椎名軽穂『君に届け』のような些細な出来事の解釈が心の迷路を作り出し、思い違い・すれ違いの悲喜劇を生み出すというためがないです。

 否定的な条件を書き連ねましたが、表題である銀の匙の謎は、食堂の壁に掲げられたスプーンという以外、何も解き明かされていません。そのあたりでテーマを明確にしながら、今後どう盛り上げてゆくか見守りたい作品です。