NO BOOKS NO LIFE -読書の時間―  -36ページ目

猫時間 3 <プライド>

15:38


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 

-オイラは猫界のチャールズ・ブロンソン。どや、渋いやろ?


(って、何で関西弁やねん)

27.水野敬也:夢をかなえるゾウ

170万部超の大ベストセラー、成功の7つの秘密とは?


夢をかなえるゾウ/水野 敬也
¥1,680
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 水野敬也さんの「夢をかなえるゾウ」は、現時点での正確な数は知らないのですが、170万部を越えたという数字までは見た覚えがあります。一つには、全国の書店行脚を続けた努力の賜物でしょうが、そんな努力で100万部売れるわけがありません。二匹目のドジョウを狙った同じ著者の「大金星」はあまり売れてないわけです。とりあえず、「夢をかなえるゾウ」がよかったから、同じ著者の本を買ってみたという人がほとんどでしょう。それで、何万部かは売れたかもしれませんが、口コミで友人に勧めるというプロセスには至らなかったと思います。私は「大金星」を十数ページ読んでやめました。



 なぜでしょうか?



 ドラえもんが出てこなかったから(笑)。


 ドラえもんではなく、ゾウの形をした神様ガネーシャなんですが、要するにドラえもんが出てこないで、のび太が普通にクラスメートと遊んでいるような状態が「大金星」のスタートです。

 「夢をかなえるゾウ」成功の秘密1:強烈なキャラクターが冒頭に登場する


 それをサポートするのが、表紙を飾る矢野信一郎さんの秀逸なイラストです。


 これで、漫画チックな世界に読者を引き込むことができます。


 小難しい小説やないんや、おもろい漫画みたいな世界やで


 そう読者の思わせることに成功しています。


 「大金星」の表紙を見てください。文字だけで、おもろうないやないですか。


大金星/水野 敬也
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 「夢をかなえるゾウ」成功の秘密2:本文の内容を楽しく伝えるイラストに恵まれた


 そして、第三の秘密もすでにおわかりでしょう。


 そう、関西弁です。ガネーシャは、関西弁を話し、主人公の男性は標準語を話します。


 そのかけあいは、関西人と関東人のかみ合わない会話そのもの。


 いわば、東西対抗のボケと突っ込みの世界なのです。


 大阪の知事選を見ればわかるように、関西弁は笑いをとる言語です。

 学歴よりも大事なのは笑いが取れるかどうかです。


 「夢をかなえるゾウ」成功の秘密3:関西弁をまじえたボケと突っ込みの漫才の世界だから


 ガネーシャというインドの神様は、変身の能力も備えているし、自由に空を飛ぶこともできます。


 神様だから、何ができても不思議ではない。


 けったいな格好してても、言うていることはひょっとしたら正解なんちゃう。  


 そう思わせる部分があります。


 つまり、思い切りデタラメを許す設定であるということ。


 このような設定は、ファンタジーと呼ばれます。


 「夢をかなえるゾウ」成功の秘密4:ファンタジーの形式をとることで、想像力のままにキャラクターを動かすことができた


 同じようなファンタジーの形式をとることで、成功したコミックがあります。


 原作ほったゆみ、作画小畑健「ヒカルの碁」です。

ヒカルの碁 (1) (ジャンプ・コミックス)/ほった ゆみ
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ヒカルの碁 (15) (ジャンプ・コミックス)/ほった ゆみ
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 藤原佐為という平安時代の囲碁の天才の霊によって導かれることで、囲碁をまったく知らなかった少年、進藤ヒカルはどんどんと強い相手と対局し、次第に実力を身につけてゆきます。


 「ヒカルの碁」は、藤原佐為が出てこなくなる16巻から、それまであった輝きの一部を失いました。


 それは、ファンタジーとしての輝きであり、16巻以降のヒカルの碁はリアル・ストーリーなのです。


 碁聖本因坊秀策さえも背後で操っていたという設定で、底知れぬ実力を佐為に与えることができ、それが未曾有の面白さを「ヒカルの碁」に与えたのでした。


 「夢をかなえるゾウ」と「ヒカルの碁」と共通するのはファンタジーであることだけではありません。


 両方に共通するのは、この世ならざるメンター(師匠)に導かれたサクセスストーリーであることです。


 しかし、「ドラえもん」と「夢をかなえるゾウ」は違います。


 のび太にとっての、ドラえもんはメンターではないからです。


 -ねえ、ドラえもーん。お願い、またあれ出して~。

 -もう、しょうがないなあ。のび太くんは、いつもぼくのことを頼ってばかりで、自分で努力しないんだから・・・


 「ドラゴン桜」に出てくるたとえを借りれば、メンターはあくまで、釣りのやりかたを教える人であって、魚を与える人ではありません。 

 

 メンターに出会い、それまでぱっとしない人生を送っていた主人公が、成功する方法を会得する。


 これは、RPG型の自己啓発書のやり方です。


 そのよい例として、本田健さんの「ユダヤ大富豪の教え」があります。

ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣 (だいわ文庫)/本田 健
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 一般に、教えを論理的に羅列するよりも、主人公が自らのピンチを解消するために、メンターからノウハウを学ぶRPG型の自己啓発書の方が売れやすいというのが常識となっています。


 夢をかなえるゾウ成功の秘密5:コミカルなストーリーの下にRPG型自己啓発書をうめこんだ


 RPG型自己啓発書の海外での成功例として、あげることができるのが「Good Luck」です。

Good Luck/アレックス・ロビラ
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 実は、著者の水野敬也さんは、「バッドラック」というタイトルをひっくり返した小説で一発当てようとした経験があります。でも、ひたすらプラス思考を貫くという一本調子であったので、あまりヒットはしませんでした(その後「雨の日も、晴れ男」と加筆・改題)。

バッドラック/水野 敬也
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雨の日も、晴れ男 (文春文庫)/水野 敬也
¥590
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 「Good Luckは枠物語の形で、成功にいたる教訓がいくつか説かれます。最初と最後は、知り合いであった二人が何十年ぶりかに会うと、成功者と失敗者にわかれていたという同窓会型ストーリー。その成功者が失敗者に説くのが枠の中の物語です。


 「夢をかなえるゾウ」は、いわば「バッドラック」の失敗の反省をいかしての、再挑戦作とも言えるでしょう。


 では「バッドラック」になくて、「夢をかなえるゾウ」にあるのは何でしょうか。


 それは成功に結びつく教えという現世利益です。


 神様だから現世利益を与えるのは得意なはず。


 もう一つ、「グッドラック」から著者が学び直したものがあります。


 それは、段階的に教えを小出しにすることです。


 この考えが、「夢をかなえるゾウ」では徹底しています。


 それは、息の短い読者にも、読みやすい構造を与えているのです。


 一つ教えを学ぶ度に、読むのを休んでもよいような構造になっています。


 本文は約320pですが、29の教えが各章の終わりに置かれています。


 1章あたり約10p。このくらいなら読めるという一つの目安です。


 漫才のコントを一つ読みきったら、教えが一つもらえる。


 一粒で二度おいしいとはこのことです。


 小目標の達成の積み重ねで大目標にいたる。


 それを地で行っているのが、「夢をかなえるゾウ」の構造です。


 「夢を叶えるゾウ」成功の秘密6:成功法則というニンジンをちらつかせ、読者に小区間を走らせ続ける


 「ヒカルの碁」では、藤原佐為が姿を消した後、ストーリーを続けるのにちょっと苦しい部分がありました。


 「夢をかなえるゾウ」には、そのような失敗はありません。


 最後にガネーシャはいなくなるのです。


 けったいなやつやったけど、けっこうおもろーて、ええやつやったなあ。


 そういう爽やかな風と、心の中の寂しさを残しながら、ガネーシャは消えてゆきます。


 ヒーローは最後に去らなくてはなりません。



 それは未熟な主人公が成長して、いつしか自らヒーローになるための必要不可欠なイニシエーション(通過儀礼)と言えるでしょう。


 

 ドラえもんも去ります。


 藤原佐為も去ります。



 それがメンターや救世主の出てくるストーリーの理想の終わり方です。 



 西部劇の名作「シェーン」のラストシーンを思い浮かべてみて下さい。


 

 地平線上にだんだん小さくなってゆくシェーンの姿を見て、少年は叫びます。


 -シェーン、カムバック!

シェーン [DVD] FRT-094
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 そんな風に、主人公の青年同様、多くの読者も叫んだことでしょう。


 -ガネーシャ、カムバック!


 「夢をかなえるゾウ」成功の秘密7:別れで終わる

 お勧め度:☆☆☆☆★ 90点


 著者:水野敬也 書名:夢をかなえるゾウ  出版社:飛鳥新社 2007年8月刊


 著者が巻末にまとめてあるように、中で説かれている成功法則はいろいろな自己啓発書の総集編のようなものです。しかし、切り口が新鮮であるために、それらを知っている人でもその気にさせるものがあります。いわば、自己啓発書版の「ザッツ・エンターテイメント」と言えるかもしれません。ただ、この作品を自己啓発書よりも小説に分類したのは、役に立つから読む人よりも、おもろいから読む人の方が多かったという考えに基づいています。


夢をかなえるゾウ 2010年 カレンダー
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Winter Illuminations <柏>

そろそろ都内のあちこちで、イルミネーションが始まっていますね。


いつもはメインの場所は一通り回るのですが、今年はいろいろと用事が重なって


都心に出ても、思うように動けないので、出たとこ勝負のイルミネーションシリーズを


スタートすることにします。


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(画像はクリックすると横幅800ピクセルの画像になります)


柏の高島屋ステーションモールは、駅前のスカイデッキと隣接する



回廊部分にイルミネーションが・・・



NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 



色を変えながら、ぐるぐるまわる光もあちこちでみかけますね。



NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 



横から見たところ。下はバスターミナルになっています。



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ブリッジのつながれた新館のイルミネーションと重ねて撮ると



周囲が暗い分、絵になるかな。



次は、どこのイルミネーションを撮れるでしょうか。



予定は未定です。

26.石田衣良:6TEEN

 名作「4TEEN」に続く、下町月島を舞台とした最新青春小説

6TEEN/石田 衣良
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 「4TEEN」の冒険から二年が経った。ぼくたちは、月島中学を卒業し、それぞれ別の高校へ進学していた。


 ぼく、テツローは、新富町にある都立高校に。


 ユウナさんと同居を始めた子連れのダイは昼間築地で働きながら、ぼくと同じ学校の定時制に通っている。


 ジュンは東大合格者百名を越える名門開城学院へ。


 人よりも早く年をとる病気のナオトはカトリック系の男子高校へ。 


 みなばらばらになったからと言って、ぼくたちの絆がなくなったわけではない。


 月島の路地にひっそりと店を開く、佐和ばあの店「ひまわり」で寄り集まって、もんじゃをつつきながら話をするのがぼくたちの日課になっていた。


 第一話の「おぼけ長屋のおばけおばあ」では、そんな「ひまわり」に娘、ミサオさんが帰ってくる。


 ミサオさんは、結構いい女で、ジュンは一目ぼれしてしまう。


 だが、ことあるごとに、佐和ばあとは喧嘩してしまう。一体、どうなるんだろうねって、後は「6TEEN」を読んでのお楽しみ。


 もちろん、ぼくもこの三人とだけで、遊んでいるわけではない。新富高校でも、新しい話し相手ができた。


 マサアキだ。身長180センチはあるのに、身体はひどく薄く、バルサと呼ばれていた。


 しかし、どこか会話のテンポも内容もずれる変なやつなのである。


 そんなおり、魔希という名前の女の子から謎のメールが届いた。


 それから、どうなったかって。これも「6TEEN」を読んでのお楽しみだ。


 なぜ、この第二話が「クラインの妖精」なのか、その謎解きもそれまでのおあずけ。


 寅さんじゃないけど、それを言っちゃあおしまいよ。


 第三話の「ユウナの憂鬱」ってのは一体何なのか。


 要するに、ダイの家庭の話だ。ぼくたち三人は、ユウナさんからある相談を受け、そのリクエストに答えることにした。でも、その相談内容は、ユウナさんから「言うな」と言われているから、ここで明かすわけにはゆかない。


 ゆるい冗談は、勘弁してくれって。そんなわけにはゆかない。ぼくたちの絆はいつだって、このゆるい冗談で堅く結ばれているのだから。


 「空の十字架」という携帯小説が高校生の間で、流行っていた。その中に、「テツロー」という名前が出てくる。単なる偶然の一致くらいに思っていたのだが、思わぬ展開となってしまう。それが第四話「携帯小説家に出会ったら」だ。結末がどうなるかは半分わかっている。何で石田さんは、こんなバレバレなタイトルをつけたのかな。


 こんな風にして、後五つばかり話が続く。


 何と言っても、16歳は男の子の発情期。ナオトやジュンの波乱に満ちた恋物語が出てくるのだが、その後、ぼくに話は戻ってくる。でも、その話はあまりに恥ずかしいので、ここではしたくない。


 そして、最後の話は中学校の時の友人、ユズルの話だ。ユズルは、校舎の四階から飛び降りても足を骨折しただけで済んだ目立ちたがり屋だ。その彼からぼくあてに電話がかかってくる。でも、その後のことは・・・あまりに悲しくて、思い出すとまた涙が出てしまうから、このへんで勘弁してほしい。


 ダイ、ジュン、ナオト、そしてテツローの四人組に会いたくなったら、「6TEEN」を読んでほしい。


 そして、中学校のころ、ぼくたちに何があったか知りたくなったら、「4TEEN」もお忘れなく。

4TEEN/石田 衣良
¥1,470
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4TEEN (新潮文庫)/石田 衣良
¥500
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 お勧め度:☆☆☆☆  80点

 著者:石田衣良 書名:6TEEN 出版社:新潮社 2009年9月刊

 

 超高層ビルがにょきにょきはえる21世紀の下町。新と旧がいりまじる都市を舞台にした、優れたティーンエージャーノベルです。時代は違っても、思わず苦く恥ずかしい青春時代の思い出にふけり、ついにやりとしてしまうこと必定。都市のローカルなエリアを素材に、そこの住む人の生活に入り込む石田衣良の才能には、いつもながらに脱帽です。

25:吉田修一:春、バーニーズで

ある家庭の平凡な日常に起きる静かなドラマを描いた傑作短編連作集


春、バーニーズで/吉田 修一

¥1,200
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春、バーニーズで (文春文庫)/吉田 修一
¥520
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 吉田修一「静かな爆弾」に関しては、かなり厳しめの評価をしたのですが、この「春、バーニーズで」に関しては、ほとんど絶賛したいような気持ちです。


 大した出来事が起きているわけではありません。主人公もありふれたサラリーマンの家庭人です。しかし、この本の一行目を読み出した瞬間から、不思議な魅力にとらえられ、ずんずんと物語の世界へとひきずりこまれるのを感じました。そして、本の最後のページをとじるまで、その魅力は失われることはなかったのです。


 バーニーズ・ニューヨーク新宿店という実在のショップが出てきたからというわけではありません。

 

 むしろ、あたりまえの現実が物語の世界へと、変換され、スローモーションを見るように、その情景が次々に目に入ってくるさまに驚きを感じました。


 「春、バーニーズで」

 主人公、筒井は妻の瞳、そして彼女の連れ子である文樹と買い物のためバーニーズを訪れる。そこで、青年とともにいる昔の交際相手を目にします。その交際相手は、物語の中で「その人」と呼ばれ続けます。かつての思い出が彼の心をとらえ、衝動的に別のフロアから元のフロアへと文樹を連れたまま戻ってゆく筒井。再会の時間の中で、一体何が起こったのだろうか・


 「パパが電車をおりるころ」

 息子をつれ、駅前のマクドナルドへ入る筒井。その時、同席した女性から、かつて交際していた女性を思い浮かべ、さらに彼女に語った電車への飛び込み事故へと、さらにとりとめもない回想の迷路の中に筒井は迷い込む。いや、それさえもすでに電車に乗った回想の中の出来事であったのだ。


 「夫婦の悪戯」

 筒井と妻の瞳は、筒井の後輩社員花原の結婚式のため、大阪のホテルに宿泊する。その披露宴の風景を思い浮かべながら、二人は語り合ううち、ある悪戯を相互に行うことになる。それは・・・


 「パーキングエリア」

 高校の修学旅行の時、日光にふと置いてきた腕時計を思い出す筒井。忘れたのではない。岩のくぼみがあまりにぴったりだったので、そこへ置いてきたのだ。車での出勤の最中に、ふとその時計を思い出し、今もあるかどうか確かめようとする筒井。職場にも、妻にも連絡することなしに、筒井は車を日光へと走らせる。その行動が周囲に、少なからぬ波紋を引き起こすことを知りながら。

 

 全編を通じて、共通しているのは、時間が重層的であるということ。日常を描いているようでありながら、いつのまにか別の場所、別の時間へと読者は連れ去られ、主人公の心の迷路の中をともにさまようことになります。表面上の行動を追いかける小説とは、一味も二味も違った時間の厚みがあり、それは人間の表面からはとらえることのできない心の厚み、生ける存在の厚みなのです。


 「楽園」

 実はこの短編集には、もうひとつ作品がおさめられています。上の四編が三人称で展開するのに対し、この作品のみは、「僕」という一人称体で語られています。果たして、この作品は上の四作とかかわりがあるのかないのか。どうやら主人公は別の人物のようです。でも、それ以上を語るのはやめましょう。この作品こそ、読者の心を破裂させる静かな爆弾なのですから。


 お勧め度:☆☆☆☆★ 90点


 著者:吉田修一 書名:春、バーニーズで   出版社:文藝春秋  2004年11月刊


 文庫版 2007年12月刊