NO BOOKS NO LIFE -読書の時間―  -34ページ目

31.桜庭一樹:青年のための読書倶楽部

百年のタイムスパンで


女子校のスターたちの栄枯盛衰を語る


異色の学園ロマン


青年のための読書クラブ/桜庭 一樹
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 「聖マリアナ学園は東京山の手に広々とした敷地を誇る、伝統ある女子校である。幼稚舎から高等部までが同じ敷地内にある校舎で学び、大学のみが別校舎となる。沿革は十九世紀、パリにて設立された修道会を母胎とし、二十世紀初めに修道女聖マリアナによって建てられた。中庭に聖マリアナの巨大な像が建ち、くる日もくる日も微笑みながら女生徒たちを見下ろしていた。」
(桜庭一樹「青年のための読書倶楽部」p8)


 物語の冒頭で語られる舞台設定ですが、ここですでにある謎解きの前提まで提示されているところが他の多くの作品とは異なるところです。


 桜庭一樹「青年のための読書倶楽部」は、女学校の100年という大きなスパンで、五つのエピソードによって、その光と影を描き出す連作小説集です。


 「第1章 烏丸紅子恋愛事件」1969年、学園紛争のまっただ中の出来事を描きます。


 「第2章 聖マリアナ消失事件」では、1960年の読書クラブ誌が語る1959年の聖マリアナ消失事件の真相。1919年の聖マリアナ学園の成立に至る経緯を語り、1899年に生まれた聖マリアナのおいたちにまで遡りながらその謎を解き明かします。 


 「第3章 奇妙な旅人」1989年のバブル全盛の時代の出来事。新しい富裕層の生徒の流入とともに、学園はディスコミュージックの嵐にさらされることになります。


 「第4章 一番星」はまさに2009年の出来事。学園に誕生したロックスターの秘話です。彼女はいかなる女性であったのか、そしてその後どうなったのか。


 「第5章 ハビトゥス&プラティーク」ではさらに2019年の事柄が。女子校としての聖マリアナ学園も、その歴史を閉じる時が来ました。男女共学化を前に、最後の読書倶楽部員の知られざる影の姿を描くことで、100年にわたる歴史のフィナーレを飾ります。


 女だけの園生。そこにつきまとうのは、女の中から「男」を作り上げ、そこに恋愛感情を生み出すという一つの文化です。それが、この学園の「王子」という存在です。「青年のための読書倶楽部」の中で語られる物語は、それそれの時代を代表する存在である五つの王子の物語と言ってもよいかもしれません。


 まさに少女漫画そのものの世界、あるいは宝塚的なスターの興亡史。


 これを聞いただけで、すぐにでも読みたくなる女性は少なくないことでしょう。


 たとえば、第1章の「烏丸紅子恋愛事件」では、長身と美貌に恵まれながらも、田舎者の異臭を放つ存在である烏丸紅子がその主人公。良家の子女の文化の中では、異質者である紅子は、学園の中で身の置き所がなく、それを唯一受け入れたのが、読書クラブでした。


 学園一の才媛でありながらも、容姿に恵まれなかった読書クラブ部長、妹尾アザミは、自分にはない端麗な容姿を備えた紅子に目をつけ、王子に仕立て上げ、影からの学園支配をもくろむのです。


 「まず中途半端な長さの髪を切り、 涼しげなショートヘアにした。長身とあいまって、そうすると紅子は不機嫌な少年の如くになった。開いていた口を閉じさせ、顎をひかせて、伏し目がちにさせた。コテコテの大阪弁を封印し、できうる限り標準語で話させた。必要なければなるべく黙っているようにと教育された。」(p20-21)


 いわば、一種のマイフェアレディ?


 しかし、目指すイメージはまるで違っていました。


 ライバルである優等生と同じ路線を目指しても勝ち目がないと踏んだアザミ がもくろんだ路線とは・・・?!


 「我々が願うものは、不良少年である、と。

 血筋のよい好青年がけして持てないものは、不良性であった。光に勝つのは影であった。」(p21)


 かくして、ジェームス・ディーンのように、あるいは尾崎豊のように、不良性の輝きを備えた王子が誕生し、女生徒たちを狂喜させることになるのです。


 「拗ねたように唇を尖らす。

 短い髪をかきあげる。

 横顔にかかる、翳。

 野生的な、何ともおかしな目つき。」(p23)


これ以上は、この作品について語ることはできません。その後、この王子に何が起こったかは本を手にしてお楽しみ下さい。


 この作品の中で、もう一つ魅力的だと思ったのは第二章の「聖マリアナ消失事件」です。


 単なる少女漫画的な世界を越え、ミステリー作家としても優れた資質を備えた作者の面目躍如たる作品です。


 1899年に敬虔な助祭のもとに生まれたマリアナは、父親似の求道的な性格を受け継ぎ、それに対して6才年上のミシェールは対照的な享楽的な性格でしたが、二人は強い愛情で結ばれていました。しかし、修道院に入っていたマリアナがパリで「読書クラブ」を営み生計を立てる兄と再会したことより、二人は大きな運命の嵐にさらされることになります。ミシェールの営む貸し本屋は無神論的な禁書を集めた禁書クラブでもいうべきものだったのです。

 ある日、二人は王宮前広場を訪れ、そこでジプシーの占い小屋に入ることを提案するミシェール。

 マリアナは、自分が作ろうとする学園の将来を占ってもらうことにしました。


 ジプシーはこう答えます。


 「学園は百年続くよ」

 「・・・・・・百年?」

 「そうとも。それはつまり長い眠りのようなものさ。百年経つと、他者がやってくる」

 「他者とは、いったいなんですか」

 「男たちだよ。あんたが連れてくるんだ。そうして、あんたたちは混ざることになる」(p77)


 さらにジプシーは奇妙な予言をします。その後の学園の歴史を大きく左右する最大の謎がこの言葉に秘められていたのですが・・・


 お勧め度:☆☆☆☆  80点


著者:桜庭一樹 書名:青年のための読書倶楽部 出版社:新潮社 2007年刊


 少女漫画的な遊び心と、至るところに古典の引用をちりばめるブッキッシュな衒学趣味(ペダンチズム)に満ちた快作です。女性はもとより、男性も楽しめる世界です。いかにしてスターは作られ、いかにして大衆はスターを見捨てるのか。芸能界の縮図のような女学校の世界を、時代背景豊かに描きあげる作者の力量には舌をまくばかりです。ただ、最初の2章があまりに優れていて衝撃を受けるために、第一章の時代背景を変えた変奏曲にような残り3章が、いささか読む側のテンションが下がってしまうのが唯一の弱点かもしれません。謎はもう少し後まで引っ張った方がよかったのではないでしょうか。


PS 活字が苦手な人はコミックで読むという手もありますが、単行本のように一冊では終わらないようで・・・

青年のための読書クラブ 1 (Flex Comix)/桜庭 一樹
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Winter Illuminations <東京ドームシティ 3>

ちょっと書評の方がサボり気味ですが、この間も何冊か本は読んでいて、ネタには事欠きません。


ただ、週末またイルミネーションスポットをはしごする予定なので、とりあえず東京ドーム編の決着を。


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高さ6mのステラ、星型のイルミネーションです。


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ラクーアでは、定時になると音楽とともに噴水が踊るように色や形を変えます。


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後楽園ホールの側から帰る手もあったのですが


やはり気になったのはこの光の帆船


古代ギリシア語で「希望」を意味する


エルピス号と名づけられ


高さ12m、全長17m。宇宙を旅する船のようです。


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ラクーアに至るまでの道が


まるで青い光の海原のように


見えます。


このイルミネーションをデザインした人は


きっとはじめからこの俯瞰のイメージを


思い描いていたはずです。


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歩道橋のガラスのフェンスの上からカメラを出しての撮影。


この画像は、可動式の液晶モニターのあるカメラで撮影しています。


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東京ドームを背景にしたアングルでの撮影。


船体の下の方が隠れてしまいますが


一番スマートで


港に船体を横づけした帆船らしく見えます。



東京ドームシティ公式サイト:Winter Illumination 01

http://www.tokyo-dome.co.jp/event/illumi/index.htm



*画像の公的場での転用、および商用利用を禁じます。

Winter Illuminations <東京ドームシティ 2 >

東京ドーム前をそのまま直進すると、スパと遊戯施設が一体化したラクーアに着きます。


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その左脇へ折れると、光の回廊ミルキーウェイが続きます。


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雨のため、光が二倍化され、一層ロマンチックな雰囲気に。


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フィルターなど特別な装備なしで、誰でもこんな夜景も撮ることができます。


あるいは毎年恒例となっている光マンダラドーム


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規則的・不規則的にドームの上のマンダラの色と模様が変化します。


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しかし、それよりも凄かったのは・・・これ・・・


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メリーゴーランドと並ぶほどの大きさの光の球体、ガイアでした。


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まるでインファント島から流れ着いた


モスラの卵の孵化前のように


妖しく光り輝いています。


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天井から吊るされた球体、アクアスフィアも直径6mですが、こちらは12m。


体積比では8倍になります。


脇を歩く人と比べれば


そのとてつもない大きさが想像できるはずです。



まだすべてを押さえきったわけではありませんが


この冬の東京ドームシティのイルミネーションは


その多彩さとスケールの大きさでベストワン候補ではないかと思います。



さあ、東京ドームシティへ行こう!


東京ドームシティ公式サイト:Winter Illumination01


http://www.tokyo-dome.co.jp/event/illumi/index.htm



*画像の公的場での転用、商用利用を禁じます。

Winter Illuminations <東京ドームシティ 1>

雨のふりしきる中を東京ドームシティに行ってきました。


いつも圧倒的な数のイルミネーションを誇る東京ドームシティですが


今年は去年よりもさらにパワーアップしていました。


今年の目玉は巨大な帆船の形をしたイルミネーションでした。


風もかなり強く、傘をさすのもやっとという状態での撮影ですが


いろいろな角度からの撮影を試みてみたので


その魅力はお分かりいただけると思います。


東京ドームシティ公式サイト:

http://www.tokyo-dome.co.jp/


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他にもいろいろと魅力的な被写体があったので、何回かに分けて公開することにします。


*これらの画像の公的な場での転用、および商用利用を禁じます。

30.フジ子・へミング:我が心のパリ

失意と絶望の日々を越え

平安の境地に達したピアニストがつづる

パリ賛歌



フジ子・ヘミング 我が心のパリ/フジ子・ヘミング
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誰にも、天から与えられた持ち場というものがあり、
 
それを受け入れ、正直につらぬけば、
 
それがその人のかけがいのない人生となる。
      フジ子・へミング「我が心のパリ」p17

フジ子・へミングさんについては、多くの方がすでにご存知かもしれません。


幼いころより、天才少女として脚光を浴びながらも、彼女が長い歳月不遇であったのは、スウェーデン人の父親と日本人の母親の間に生まれた複雑な事情から、無国籍であったことでした。その後も、30歳になり何とか海外留学までこぎつけ、徐々にピアニストとして活躍を始めるも、まさにチャンスが巡ってきて、これからという時に聴力を失い、その後のキャリアを断念せざるをえなくなります。その理由も、貧困でストーブを入れるお金もなく、風邪が悪化したというものでした。その彼女が、長い療養生活の後に、現在の名声を得るようになったのは、1999年にNHKのドキュメンタリーが彼女を取り上げたことに始まります。


彼女の苦難の日々を綴った自伝としては、「フジ子・へミング 魂のピアニスト」があります。


しかし、この「我が心のパリ」とは、それとはまったく違った平穏そのものの心でつづられた一冊です。


長い苦難の果てに、彼女が手に入れた最高の宝とは、パリの二つの家でした。


一つはモンマルトルの下町に、もう一つはサンルイ島にあります。


セーヌ川の中にあるシテ島にはノートルダム大聖堂がありますが、その後ろに浮かぶ小さな島がサンルイ島、誰もがあこがれる高級住宅街です。


そんな場所に住み、日々ピアノを弾きながら生活している彼女の文章は、あくせくとブランドショップと一流レストランのグルメを追いかける日本の雑誌とはまったく別の文章、生活者の文章です。



まるでセーヌ川のように、ゆったりと流れてゆく時間の心地よさは他ではちょっと得られないものです。



この本は、宝箱のように、多くのパリの写真もおさめられています。



フジ子さんとその部屋の写真も。


驚くほど高い天井。窓のカーテンを通り越して、柔らかな光がさしこめる部屋。


それ自体が絵本のように、こじんまりと家具や骨董品が置かれています。


そして、そこには必ず猫がいます。


猫がいるから、何があっても死ねない、そう自分に言い聞かせてきたのだとフジ子さんは語ります。



表に出れば、そこは芸術家の足跡のあるパリの街角。


犬がいて、猫がいて、いたるところに骨董品があり、大道芸人がいる-そんなパリの街角をこよなく愛するフジ子さん。



歳月に磨かれた石造りの建物の間を散策し、カフェで一休みするのも至福の時です。


今でも、ときどきパリの街を歩く。

 私の中の放浪の血が騒ぎ、群集のひとりとなって、パリに溶け込んでしまう。

 パリの無関心がいい。

 子どもの頃のように、「不思議の国」を捜しながら、

 ぶらぶらと歩き、

 気がつくと、街角のカフェに座っている。

 (p46)


☆☆☆★ 70点


著者:フジ子・へミング 書名:我が心のパリ 出版社:阪急コミュニケーションズ 2005年2月刊


劇的なドラマは何もありません。淡々とした生活の描写と、生も死も超越した現在の心境が語られるのみです。

しかし、何度も開いてみたくなる本です。130p足らず、ものの一時間もすれば読んでしまえる本ですが、おさめられた写真の数は四人の写真家の手になるもので、200枚にのぼります。短い文章とパリの写真を見つめるだけで、思わずパリに行き、こんな風な時間を過ごしたくなる一冊です。