NO BOOKS NO LIFE -読書の時間―  -30ページ目

36.東野圭吾:名探偵の掟

人気実力ともNo.1のミステリー作家


東野圭吾のターニングポイントとなった


抱腹絶倒、パロディ満載の


推理小説による推理小説批判



 「ガリレオ」シリーズ、「秘密」 「手紙」、「百夜行」、「流星の絆」「さまよう刃」・・・出す本が次々に映画化、TVドラマ化されるミステリー作家の第一人者、東野圭吾

 「名探偵の掟」は1996年に単行本として出版されて以来、ミステリーの世界に大きな波紋を投げかけてきました。同時に、それ以降ミステリーのありきたりのお約束の裏をかくような、独自の世界を築くことになった作者のターニングポイントとなった作品こそが、この「名探偵の掟」なのです。


 「名探偵の掟」がなければ、青山剛昌「名探偵コナン」も存在しなかったかもしれませんし、井坂幸太郎の「死神の精度」や「陽気なギャング」シリーズもなかったかもしれません。


 推理小説の内部にとどまりつつ、それまで推理小説の中に持ち込まれていた暗黙のお約束をことごとく暴きだし、そのお約束と楽しく戯れてみること、それが「名探偵の掟」の世界がめざしたものでした。


 哲学の世界の言葉を借りるなら、「名探偵の掟」は推理小説におけるデコンストラクション、脱=構築の試みそのものと言えるでしょう。


 「名探偵の掟」は一応の推理小説の体裁をとっています。登場するメインキャラクターは、県警一課の捜査本部の警部、大河原番三と、名探偵天下一大五郎。もじゃもじゃ頭に、よれよれのスーツの天下一大五郎には多くの名探偵のエッセンスが凝縮されていることがおわかりでしょう。


 この中の大河原番三のナレーションでミステリーの内幕を語り始めながら、具体的な事件に一つ一つぶつかってゆくという形を取っています。


 当然の前提とされてきたミステリーのお約束には、次のようなものがあります。


 ・名探偵が登場するミステリーでは、必ず誤った推理をする引き立て役の刑事がいて、最後の最後まで誤った推理を行い続ける。


 ・種明かしこそ違え、同工異曲の「密室」が性懲りもなく出てくる。


 ・さっさと謎を解いてしまえばよいものを、名探偵は「まだお話できる段階ではありません」と先延ばしにする。


 ・最初は探偵を馬鹿にしている警察が、あるところから突然協力的になる。


 ・犯人は外部からの侵入者であるということはまずありえず、事件の発端からの登場人物に中にいる。


 ・小説の中の手がかりだけでは、読者が事件の真相をつきとめることは不可能である。


 ・孤島なり、閉ざされた山荘なりで殺人事件が起きるというパターンが頻繁に登場し、そのたびに大雪で山荘が孤立したり、嵐で孤島の別荘が孤立したりする


 ・おおがかりで、荒唐無稽な殺人トリックが導入されるが、それよりも殺し屋でもやとった方がよほど経済的である。


 ・謎めいた雰囲気のダイイング・メッセージが飽きもせず、登場する・・・


 そして、さらに異なる事件にぶつかる度に、天下一は刑事になったり、温泉シリーズになると女性になったり・・・様々なパロディックな演出が加わってゆきます。そして、作者が読者の意表をつくことを目指してゆくと、最後に推理小説がたどりつくなれの果ての選択肢まで、大河原警部ともども探偵天下一も変わり続けるのです。 


 お勧め度:☆☆☆☆★ 90点

 著者:東野圭吾 書名:名探偵の掟  出版社:講談社 1996年刊 (講談社文庫 1999年刊) 


 様々な名作がある東野圭吾の作品の中でも、ひときわぬきんでた異色の傑作です。そして、様々な楽しみ方が可能な小説です。一種のユーモア小説として読み流すのもよし、あれこれの作者、作品のミステリーの設定への批判と読むのもよし、逆に推理小説の道具立ての基礎知識を身につけるマニュアル本と活用するのもよし。

とにかく、ミステリーファンもそうでない人も、楽しめるのがこの「名探偵の掟」なのです。

Winter Illuminations <上野公園>


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 


紅葉を撮りに訪れた上野公園も、よい加減で空が暮れてきました。


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 

空の青さが深みを増すころ


お隣りの国立西洋美術館へ。


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 

華麗なる「カレーの市民」


ガーデンイルミネーションということで


いくつか存在する彫刻のまわりにも


しっとりとしたイルミネーションが・・・


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 

ロダン「考える人」、さらには「地獄の門」さえも


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 

天国のようなイルミネーションとツリーで


飾られています。


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 

ブールデル「弓をひくヘラクレス」のように


きっとあなたの心も射止めることができるでしょう。

35.石神秀幸:ラーメンの真髄

何はおいても、まずこれを読め!ラーメンファン必読の一冊


ラーメンの真髄 (ベスト新書)/石神 秀幸
¥750
Amazon.co.jp


 ラーメンに関する本というと、どうしてもカラーで地域の名店を紹介した本ばかりに目がゆきがちですが、この本は一切写真を使わないポリシーで作られています。


 それだけ、著者のラーメンに関する造詣が深いことが伺われます。


 最初に大きなインパクトを受けたのは、「神の舌」を持つと讃えられる著者の原点がコミックにあったということです。


 ちょうど「空手バカ一代」が多くのプロレスラーや格闘家を生んだように、石神さんを生んだのは、あのグルメ漫画の名作、「美味しんぼ」だったのです。


 それまで、食への関心などなかった少年であった石神少年が、突如小学校6年の時に読んだ「美味しんぼ」に出会い、味の世界に目覚め、人生が180度変わってしまったのです。


 寝ても覚めても食のことばかり考えていた石神少年は渋谷の百貨店まで自転車を走らせ、物産展で各地の名産を味わい、本屋ではひたすら料理や飲食店ガイドを弊店まで立ち読みするという生活を送ることになりました。


 やがて自腹を切り、食べ歩きを経験するようになり、自らもコミックを教材に料理に励む生活。アルバイトもすべてジャンルを違えながら飲食店を選び、経験を積むことに努めます。


 そして日本全国をヒッチハイクしながら食べ歩き、社会に出てからも食事に収入のすべてをつぎ込むようになったのでした。


 そんな石神さんをラーメンの世界に引き込んだのが、三つの名店でした。

 

 恵比寿「香月」では背脂の世界に目覚め、渋谷喜楽では「ミスター味っ子」に登場した「揚げネギ」を追体験し、そして池尻「天下一品」で、未体験のスープの世界に衝撃を受けます。


 やがて出場した「TVチャンピョン」のラーメン王選手権では、思わぬ苦戦を強いられます。


 騎馬戦で相手の写真を取るのに、メガネのコンタクトに変えたばかりだったり、食べるのが遅く小食なのに、完食を求められたりと、味覚に通じる以外の要素が求められたためでした。l


 何とか優勝すると、次々にラーメン関係の仕事が舞い込むようになるものの、そこで「責任」の二文字を感じるようになり、一層妥協のない味覚の追求の世界に目覚めるようになったのでした。


 そこで、単にラーメンばかり食べるのではなく、あらゆる料理食材に通じつつ、あえて高級感のあるフレンチなどではなく、ラーメンの世界にとどまるというのが著者の選択でした。


 「レストランにばかり行っていても、料理は語れません。

 同様に、ラーメンばかり食べていても、料理は語れません。

 あらゆる食を勉強することで、初めて料理を、そしてラーメンを語ることができるのです。」

 (p29)


ラーメン評論家の石神さんの今日にいたるまでの足跡を語ったのがこの「プロローグ」ですが、第一章「ラーメン進化論」では、さまざまなラーメンの歴史的成立をたどることになります。


 いかにしてどこでラーメンは成立したか?

 

 醤油ラーメンはいつどこで成立したのか?


 通常の豚骨を使った醤油ラーメンと豚骨ラーメンの違いとは?


 札幌味噌ラーメンはいついかにして成立したのか?


 つけ麺の魅力はどこにあるのか?なぜ、近年になって人気が急上昇したのか?


 第二章では、スープの世界のバリエーションが語られます。


 魚介系スープからWスープへの進化。さらには鶏白湯の登場、そしてスープOFF系のラーメンの世界。


 さらにチャーシュー、メンマ、玉子といったトッピングの世界へ。


 第三章では、東京、新潟、千葉、長野、沖縄といった日本各地のラーメンの紹介へ。


 第四章では、「ラーメン店の目利きになる方法」


 行列のできる店は本当にうまいのか。


 その地方の人間が認めたご当地ラーメンの出店は、本当にうまいのか?


 汚い店がうまいというのは本当なのか?


 ラーメングルメにおけるネットの功罪とは?


 うまいラーメンの定義とは?


 鋭い切り口で、業界の固定観念をめったぎりするのですが、石神さんは実名主義なので、つい口にした料理をネット上で語ってしまう私たちのところまで、流れ弾が飛んできて、もっともスリリングな文章と言えるでしょう。


 第五章「ラーメンの常識・非常識」では、ラーメンを頼み、食する時のマナーやテクニックを細かく語ります。

親切にもラーメンを撮るテクニックまで紹介しています。


お勧め度:☆☆☆☆★ 90点


著者:石神秀幸:ラーメンの真髄  出版社:KKロングセラーズ 2007年刊


著者のラーメンに対する真摯な姿勢と、深い造詣、そして何よりもラーメンに対する愛情があふれた名著と言えるでしょう。全国津々浦々の名店・名品のオンパレードは、ラーメン通なら思わず身震いをしてしないではいられないほどです。同時に、ラーメンのガイドブックを手に食べ歩くだけではなく、他のジャンルに足を突っ込んだり、自ら食材を調理する経験の必要性も教えられた一冊でした。

Winter Illuminations <サンシャインシティ>

サンシャインシティのイルミネーション周辺は本当に人影がない。


その場所で帰りまでにすれ違ったのは十数人程度。


去年はもう少しにぎやかな感じだったのだが、今年はそれに輪をかけて、地味である。


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 

色やデザインのセンスは悪くないのだが、敷地が広大で外に向けた商業施設がないために、


人気のないコンクリートの間の植え込みのところどころに、緑色のイルミネーションが点在する感じである。



NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 


さびしい場所である。


なんだかすごくもったいない感じがする。


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 


この間で屋台村でも開けば、結構人気を呼びそうな気がするのだけれど・・・。


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 


満月に近い月が空に浮かぶよい雰囲気なのに。


NO BOOKS NO LIFE -読書の時間― 


ただ単にお金をかけて電球を照らすだけではだめで、


空間のつくりや演出も必要なのだと考えさせられるイルミネーションだった。

34.伊東明:人生が劇的に向上する「脳内会話」の法則

自分の心をつねにプラスの状態に保つための絶好のマニュアル


人生が劇的に上向く「脳内会話」の法則―成功も幸運も3語で手に入る/伊東 明
¥1,500
Amazon.co.jp

この本は、最近読んだ自己啓発書の中では出色の出来の一冊です。


いわゆるポジティブシンキング(プラス思考)の本ですが、実はどれを読んでも似たり寄ったりのことが書いてあります。


しかし、読んだ時なるほどと思っても、その後心にとどまり、実行できるかどうか、という点は千差万別です。


この本が優れているのは、キーワードによる概念化がきわめて優れているということです。


人間の心、特に自分の心はのっぺらぼうの白い壁のようなものです。


それを力まかせに押すだけでは、思った方向へは動いてくれません。


ところが、この白い壁に、レバーやボタンを描き、手順に沿って操作すると、まるで機械のように動かすことができます。キーワードによる概念化とは、中身が見えないブラックボックスである自分の心を動かすためのインターフェイスなのです。


その最大のキーワードが、「脳内会話」です。


今、この時間も私たちの心の中では、たえず言葉が生まれては消えていっています。


それを心の流れと言わずに、「脳内会話」と名づけることで、ずっとモニターしやすくなります。


「脳内会話」は、その人の思考パターンを決定します。


「脳内会話」で、プラスのスパイラルにのせるか、マイナスのスパイラルにのせるかで、その人の気分は変わり、それに続く、行動も変化するのです。


「脳内会話」がネガティブな状態になるのを、著者は「心の生活習慣病」と呼んでいます。


「脳内会話」を改善することは、心のメタボ状態を解消するためのいわば筋トレのようなものです。


なぜ、心のメタボ状態にひとは陥りやすいのでしょうか。


「人間には、"変化が怖いし、面倒くさい”という性質があるからです。」

(p39)


たとえば、なじみの定食屋の近くに、新しい定食屋ができる。


それでも、少しのはずれを恐れて、なじみの定食屋に通い続けたがるのが人間の性質です。


「0か100かの危険な賭けに出るより、70の満足を選択したがるのです。」

(p40)


こうした場合の選択の理由は、実は後づけで、ほとんどが「ムリ」「ムダ」「面倒くさい」という思考パターン、心の生活習慣病の産物なのです。


しかし、心の中では前向きな「やってみたい」という状態が残っているので、結果としてアクセルとブレーキを両方踏む状態に陥ります。その結果、どこにも進めないまま、エンジンだけが傷んでゆく状態を生み出し、なんとなくイラつく、満たされていないという気分になるのです。


「脳内会話」の改善のために大事なのは、最初の一語です。


「でも」「だって」「どうせ」という言葉を投げるだけで、その後の心は論理性とは関係なく、マイナスの方向へと進んでゆきます。これを心理学的には、「自動思考」と呼びますが、この自動思考が、その後の思考を決定するのです。したがって、思考を変えようとすれば、最初のひと言を変えればよいということになります。


ここから後は、いわゆる口癖理論と同じものです。


「やってみよう」「楽しみだなあ」という言葉をまず心の中に投げ込んでみる。


さらに回具体的なイメージを描きながら、数を二倍増しにしたり、声を二割り増しにしてみる。


そうすることで、ミニマムな目標である「ポジティブな気分を手に入れる」ことができるはずです。


しかし、必ず反論する声が心の中に生じます。これが心のリバウンドですが、それを迎え撃つための「カウンタリング」の技術がここで大事になってきます。


A→反A→A


という思考プロセスをコントロールすることで、ネガティブな方向に流されずに済むのです。


さらに、実行力へと心の状態を高めてゆくにはどうすればよいか?


それにはスモールステップを蓄積してゆくことが大事です。


「今、どんな自分でいたいか」→「そのために今すぐできることは何か」→「やってみよう」


理想の自分になることは、この瞬間瞬間の勝負なのです。


************************


自己啓発書では、大体最初の1/3くらいですべての道具立てが出てきます。


そして、後はそれを具体的な場面でどう活用するか、細かいテクニックやスキルがその後に出てくるわけですが、それをすべて紹介するとかえって内容が散漫になります。以上の内容を実行するだけで、十分心の生活習慣病から脱するヒントが得られるでしょうし、より本格的に実行してゆきたいという方は本書をお読みください。


お勧め度:☆☆☆☆★ 90点


著者:伊東明 書名:人生が劇的に上向く「脳内会話」の法則 出版社:ダイアモンド社 2008年刊


「できない自分」と「大きな夢・目標」の間に引き裂かれた状態が無力感を生み出しているという現代人への心の処方箋と言えるでしょう。著者の伊東明さんは、心理学者であるだけでなく、ビジネスシーンでのコンサルティングの実地を手がけているだけあって、心の動きのパターンの捉え方が巧みで、それへの対処法がわかりやすく定式化され、誰でも前向き心の状態を手に入れるだけでなく、具体的な結果を生み出す方向へと自分を変えるための格好のマニュアルと言えるでしょう。